連作ついのべ vol.1 試供品彼氏

3~10連作程度のついのべをいくつかまとめました。 1.試供品彼氏 2.#話咲三題 「梅」「マグカップ」「猫」 3.怠惰な悪魔 続きを読む
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1.試供品彼氏

水木ナオ @nayotaf

駅から出たところで「ただいま試供品をお配りしていますー」と言われたので手を出したら、ぎゅっと握られた。「ちょっと、なに!」「なにって、試供品ですよ。僕が」「は?」思わず見上げると、あら、笑顔が素敵な。「試供品彼氏です。お試し期間は1週間」包み込む手が、温かくて。 #twnovel

2013-03-25 22:47:53
水木ナオ @nayotaf

試供品彼氏を配っていたので、3人もらって帰ってきた。早速3人同時に使用開始。「この男誰だよ」「お前こそ誰だ。俺はこいつと付き合ってんだよ」「はあ?こいつはオレの女だ!」ここで私の出番、「やめて!私の為に争わないで!」こんな台詞、試供品でもなきゃ言えないじゃない? #twnovel

2013-03-26 23:00:11
水木ナオ @nayotaf

街中で懐かしい顔を見かけた。女の子の肩を抱いている。あ、信号が変わる。ああ、強引に渡っちゃって。ああいうの、私には合わないって、あいつが教えてくれたから。「どうしたの?」横から覗き込む愛しい人。「知り合い?」優しい笑顔に、ううん、と首を振って。「ただの試供品よ」 #twnovel

2013-03-28 22:33:24

2.#話咲三題 「梅」「マグカップ」「猫」

水木ナオ @nayotaf

【梅】 「これ、切ってよ」思わず耳を疑った。夫も驚いている。「なんで、お前そんな。今、花も盛りなのに。まだ若木なんだぞ!」「嫌なのよ。この白梅、前の奥さんを思い出して」女はそう言ってぎっと私を睨む。ああ分かってるんだ、私がこの木に宿っていることを。 #話咲 #twnovel

2013-02-22 22:29:15
水木ナオ @nayotaf

【マグカップ】 前もそうだったわね。私が夫のマグカップだったときのこと。私がまだ生きていた頃から夫が愛用していたそれを、洗ってあげる、と台所に持ち出して。徐に床に叩きつけたっけ。ごめんなさい、手が滑ってと顔を覆う指の隙間から、激しく睨みつける強い視線。 #話咲 #twnovel

2013-02-22 22:30:35
水木ナオ @nayotaf

【猫】 夫は私を切るだろう。だからせめて、少しでも罪悪感が薄れるように。夜も更けた頃、私はひとり枝を揺らし、白い花弁をこの身から振り落とす。根元で丸まっていた猫が、にゃあん、と抗議の声をあげて逃げていった。次はお前に宿ったら、もう殺されずに済むかしら。 #話咲 #twnovel

2013-02-22 22:32:13

3.怠惰な悪魔

水木ナオ @nayotaf

怠惰な悪魔は楽して魂を手に入れようと、産婆に化けました。なにせ取り上げた赤子を抱いて「この子は長くは育たないねえ」とさえ言えば、母親の方から自分の魂と引き換えに、と言い出すのですから。結局のところその赤子が長生きでもすれば、逆に感謝すらされてしまう始末でした。 #twnovel

2014-05-13 23:02:38
水木ナオ @nayotaf

産婆の腕の良さを聞きつけて、ある日悪魔が呼ばれたのはとても大きなお屋敷でした。生まれたのは元気な女の子で、それでも悪魔はいつも通り、「この子は長くは生きられないねえ」と首を振りました。すると母親はため息を一つ、吐いて言ったのです。「じゃあその子、」要らないわ。 #twnovel

2014-05-13 23:10:54
水木ナオ @nayotaf

だいたい男の子じゃなきゃこの家を継げないのに。それを女の子、しかも長く生きられないなんて。私はさっさと男の子を産まなきゃ、そんな子の面倒を見てる暇はないのよ。顔を歪めて呪詛を吐く母親を、悪魔はじっと睨みました。角も尻尾もないこの母親は、信じられないが人間でした。 #twnovel

2014-05-13 23:18:50
水木ナオ @nayotaf

「それで、その赤ちゃんはどうなったの?」「さあねえ」「ふーん。その悪魔がお母さんになってくれたらいいのに」「ふふ、悪魔は悪魔だからね。さ、お話はここまで。明日は隣町までお産の手伝いに行かなきゃならないからね、もうおやすみ」「はーい。おやすみなさい、お母さん」 #twnovel

2014-05-13 23:34:16

4.みえない指輪

水木ナオ @nayotaf

【1】プロポーズしてくれてありがとう。本当に嬉しい。でもごめんね、私、その指輪をはめられない。違う、他に好きな人なんていないわ。年齢も性別も借金の有無だって偽ってなんかいない、でも駄目なの、無理なの。だって、ほら。そう言って彼女はすい、と左手を僕に差し出した。 #twnovel

2014-07-24 22:46:19
水木ナオ @nayotaf

【2】物心ついた頃から、私は左手の薬指に何かがあると気づいていた。目には見えぬが指の付け根に確かに何か、ある。玩具の指輪をはめようとしても、ぐぐぐと遮られる様に指の途中までしかはめられなかった。だが高校に上がってすぐ、初めて彼氏と手を繋いだ帰り道のこと。「もし」 #twnovel

2014-07-24 23:14:44
水木ナオ @nayotaf

【3】露店の占い師に呼び止められた。「それ」私の左手を指差して。「あんたの前世の恋人がはめた指輪だね。今世でもまた、あんたと結ばれる為に」一瞬、何を言われたのか分からなかった。くしゃりと笑う占い師の顔を見つめ、自分の左手に目を落とし、そして再び占い師を見やる。 #twnovel

2014-07-25 21:54:07
水木ナオ @nayotaf

【4】「外せないんですか」そう告げると占い師はおやまあ、と目を見開き、「運命の恋人だよ?そこにあるって事は、前世であんたも了承したんだろうに。まあ外したいなら、いつか現れる本人が外してくれるだろうさ。本当の指輪を渡しにきてね」羨ましいね、と占い師は肩を竦めた。 #twnovel

2014-07-25 22:03:32
水木ナオ @nayotaf

【5】彼氏とはその帰り道に別れた。ムカついた。腹が立った。怖かった。そして絶望した。私はもう誰とも幸せになるまい。なんで覚えてもいない他人の人生を負わなきゃならないんだ、運命の恋人なんてしるか、じゃあそれ以外は偽りの想いだとでも?そんなの、もう呪いじゃないか。 #twnovel

2014-07-25 22:10:22
水木ナオ @nayotaf

【6】あなた、私のここに指輪があるって分からなかったでしょ?だからあなたの指輪ははめられないの。でも、…よかった。私の人生を縛っておいて、のうのうと指輪を外しに現れる男がいたら、私はそいつをこの世で一番憎んでしまうから。大切なあなたじゃなくて、本当に、よかった。 #twnovel

2014-07-25 22:18:22
水木ナオ @nayotaf

【7】伏せた睫を震わせてそんなことを言う彼女を、僕は堪らず抱き寄せた。「指輪なんてしなくてもいい!僕の傍にいてくれ!」「でも私は、あなたの指輪がしたい…!」「なら!その憎い男が現れて、君の指輪を外した瞬間に僕が殴ってやる!それまで、それからもずっと一緒にいる!」 #twnovel

2014-07-25 22:28:58
水木ナオ @nayotaf

【8】「――っていう話でうまいこと籍を入れさせずに何人も男キープしてるコがいるのよ」「まじで?あ、指輪しないからばれないのか」「馬鹿だよねえ男って。ま、案外男の方がロマンチストだったりするからね」 #最後の一言で台無し #twnovel

2014-07-25 22:32:08
水木ナオ @nayotaf

「嘘つきめ」皆最後はそう罵って、今や病床の姉の元には俺一人。「あんただけね、信じてくれたの」最近姉はやけに気弱だ。未だ現れない運命の恋人は、もうすぐ迎えにくる死神、なんていうから叱りつけてやった。そんな奴に持っていかれてたまるか。 #twnovel 君はずっと、ずっと俺のものだ。

2014-07-25 23:50:03

5.もやしの王