連作ついのべ vol.1 試供品彼氏

水木ナオ @nayotaf

生まれた時から傀儡だった。ベルベットケープに包まれ、ずり落ちそうな王冠を載せられ、「貴方は玉座に座ってらっしゃるだけでよいのです」にこやかにそう言われた。城から出ることもなく、美味しい物を食べ、ひょろりと背ばかり高く育った色白の私は、”もやしの王”と蔑まれた。 #twnovel

水木ナオ @nayotaf

きっかけはただの自虐だった。学んだところで使うあてもない、家庭教師から今日得た知識は種子の発芽と栽培について。城の外は知らないが、城の中なら私は間違いなく王だ。「地下を使わせろ。それと、緑豆をくれ」城の地下の広大な空間を使って、もやしの王が、もやしを育て始めた。 #twnovel

水木ナオ @nayotaf

飢饉は突然に国を襲った。山に囲まれた小国に諸国から援助物資が届くまで後数日はかかる。だが国内の備蓄は尽きた。もはやこれまでかと、項垂れる重臣を前に、王は玉座から立ち上がった。「城の地下を民に開放しろ」重臣達が闇の中に見たものは、地下空間を覆い尽くす一面のもやし。 #twnovel

水木ナオ @nayotaf

そうして国は救われた。やがて救援物資は届き、しばらくして国は再び安定を取り戻した。それから私は、その後も城から出ることもなく、再び美味しい物を食べ続け、使う当てもない知識を学び続けた。だが私は、それから終生、いや死してなお、”もやしの王”と讃えられた。 #twnovel