燭へし同棲botログ:野菜の日+招き猫の日

2016/8/31+2016/9/29:野菜とご飯と”長谷部くん”。
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燭へし同棲bot @dousei_skhs

【野菜の日+招き猫の日】 火の傍に立っていても汗が垂れてこない。暑いとは思わず、むしろ温かくて心地いい。いつの間にこんなに涼しくなったのだろうと思いながら、カレンダーを見てそれもそうかとひとり納得した。もうすっかり、 「秋になったなあ……」

2016-09-29 00:00:32
燭へし同棲bot @dousei_skhs

ことこと音を立てる鍋を見つめながら、僕はぽつりと呟いた。 鍋の中身はミネストローネだ。 ここのところ二人とも忙しくて、外食や店屋物で済ませてしまうことが続いた。そんな今日、少し早めに帰った僕が冷蔵庫で見たものは、すっかり元気をなくした野菜たちだった。

2016-09-29 00:00:54
燭へし同棲bot @dousei_skhs

これはいけないと思い、僕は迷うことなく買い置きしていたショートパスタとホールトマトを取り出した。こんなときはミネストローネに変身させてしまうのが一番手っ取り早い。何より、僕の作るこれをとても気に入ってくれている彼の喜ぶ顔が見たくなったのだ。

2016-09-29 00:03:10
燭へし同棲bot @dousei_skhs

ものを煮込む時間が割と好きだったりする。考え事をしたり、逆にぼんやりしたり。なんにせよ思考に遊ぶいい時間だ。今もそう。鍋のことこと柔らかい音、少し離れた火の温度。……でもこれはちょっと眠たくなりそうだ。 そう思ったときだった。 「……こら、長谷部くん」

2016-09-29 00:03:32
燭へし同棲bot @dousei_skhs

僕の意識を現実に戻したのは、つんと裾を引く可愛い衝撃。 その犯人は、いつの間にか傍にいた長谷部くんだった。 「……なぁに、待てないの?」 視線を落とせば、何か言いたそうに僕を見上げる目がそこにあった。可愛い。でも今は火を使っているから危ないよ。

2016-09-29 00:06:10
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「向こうにいてって言っただろ」 だから一応注意をするけれど、僕の声はなんの説得力もないほど甘い。ごまかすように、僕の手は長谷部くんの頭に伸びた。そのまま撫でると、彼は気持ちよさそうに目を細める。普段はそっけないくせに、こういうときだけ素直なんだから。そこも可愛いんだけれど。

2016-09-29 00:06:38
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……しょうがないなあ」 僕は火から離れて、長谷部くんをあやすように抱き締めた。 「待っててね。たぶんもう少しで――」 そのとき、言葉に被せて玄関のロックが外れる音がした。ほぼ反射的に、廊下に続くドアに目を向ける。そして僕は近づく足音に声を掛けた。 「お帰りなさい、長谷部くん」

2016-09-29 00:09:09
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「ただいま、光忠」 「お疲れさま」 「ん、お前も」 「ありがとう」 スーツ姿の長谷部くんはソファの傍に鞄を置くと、ジャケットを脱いで洗面所に消えた。手洗いうがいは大事だと僕が言い続けていたら、長谷部くんも帰宅後洗面所に直行するのがくせになったみたいだ。大変よろしい。

2016-09-29 00:09:37
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……いい匂いがする」 「野菜がぐったりしてたからね。ミネストローネにした」 「好きだ」 「僕が?」 「ミネストローネが」 「あ、そう……」 「はは。……」 ラフな格好に着替えながらキッチンに入ってきた長谷部くんは、僕の腕にいる小さな影を認めた。……瞬間、眉間に皺を寄せた。

2016-09-29 00:12:05
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「――またそいつか」 「玄関の前にいたんだよ」 「ペット禁止だぞ」 「大丈夫だよ。大家さんちの子なんだから」 ねえ? と目線を合わせて尋ねれば、僕に抱っこされた“長谷部くん”は「にゃあ」と可愛く返事をした。

2016-09-29 00:12:30
燭へし同棲bot @dousei_skhs

そう。僕がさっきまで話していた“長谷部くん”とは、近くに住む大家さんの家で飼われている猫のことだ。いつからだったか忘れたけれど、玄関の前に陣取っていたり、ベランダに侵入したりするのをこっそり招き入れているうちに懐かれてしまったのだ(当然かもしれないけれど)。

2016-09-29 00:15:04
燭へし同棲bot @dousei_skhs

以前大家さんと話をしているときにそのことを言ったら「ごめんね、でも遊びに行ったら可愛がってやって」とさらっと言われてしまった。食べ物もあげていいらしい。なんでもこの子はふらふらどこかへ遊びに行って、いつもどこかでお腹をいっぱいにして帰って来るらしかった。なんとも世渡り上手だ。

2016-09-29 00:15:33
燭へし同棲bot @dousei_skhs

ブルーグレーの毛並みのこの子を、僕はこっそり長谷部くんと呼んでいた。凛とした態度としなやかさな美しさが彼に似ていると思ったからだ。……それがいつの間にか、彼の中でもその名前が定着してしまったらしく、大家さんにばれたら怒られるかもなあと思っている。(長谷部くんにはもう怒られた)

2016-09-29 00:18:00
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「あ、ごめんね長谷部くん。ちょっと長谷部くんお願い」 「は? おい、」 僕は腕の中の“長谷部くん”を、長谷部くんに押し付けた。そろそろ料理に戻らないといけない。 「もうちょっとで出来るから待っててね」 「手伝うか?」 「ありがとう。でも大丈夫。その子よろしく」 「……わかった」

2016-09-29 00:18:26
燭へし同棲bot @dousei_skhs

長谷部くんに抱っこされてリビングへ向かう長谷部くん。そんな微笑ましいツーショットを見送りながら手を洗い、僕は食卓を仕上げにかかった。いくつか作っておいたおかずを皿に盛り、比較的元気だった野菜たちで編成されたサラダを冷蔵庫から取り出す。

2016-09-29 00:21:07
燭へし同棲bot @dousei_skhs

全てをテーブルに運び、そろそろミネストローネを登場させるかなと思ったとき。ふとソファに目をやると、長谷部くんが自分の鞄から出したであろう社員証のストラップで“長谷部くん”と遊んでいた。思わず笑ってしまう。なんだかんだ言って、長谷部くんも動物は好きなのだ。

2016-09-29 00:21:29
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「光忠、こいつは?」 「え、なに?」 「ご飯。なにかやったのか」 「あ、まだ」 「ん」 言うが早いが、長谷部くんは”長谷部くん”を抱いたまま自分の部屋に消えて行った。――僕は知っている。そこには長谷部くんがこっそり買って来た秘蔵の猫缶があることも、猫用の皿を用意していることも。

2016-09-29 00:24:08
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……ふふ」 僕の影響で食事を“めし”ではなく“ご飯”と言うようになった長谷部くん。もちろん僕から何か言ったわけじゃない。指摘した訳でもない。よっぽどまずいことじゃない限り、僕は長谷部くんの何かを矯正しようだなんておこがましいことは考えないからだ。

2016-09-29 00:24:34
燭へし同棲bot @dousei_skhs

だからこそ、僕は僕の影響で長谷部くんの何かが変わっていくのが嬉しかった。僕に染まる、っていうのかな。よくわからないけれど、そういう感覚。 そしてそれは、たぶん僕も同じだ。

2016-09-29 00:27:23
燭へし同棲bot @dousei_skhs

猫にご飯をあげているであろう長谷部くんに、僕は少し声を張った。 「長谷部くん、出来たよー」 「んー、ありがとう」 返事のあとに、洗面所に向かう足音がする。それが心なしか弾んでいるようで、僕の胸にはじわっと温かい感情が広がった。 なんだか、幸せだ。 【了】

2016-09-29 00:27:52
燭へし同棲bot @dousei_skhs

(おまけ) 「……」 「……どうした?」 「いや、……ねえ、“長谷部くん”は今どこにいる?」 「? テーブルの下にいるだろ」 「なんでわかるの」 「なんでって、俺が今足で撫でて、……」 「…………」 「…………これお前の足か!?」 「ご名答」 「早く言え!」 「理不尽」 (了)

2016-09-29 00:30:04
燭へし同棲bot @dousei_skhs

【管理人より】8月31日(野菜の日)と9月29日(招き猫の日)、お題をまとめての更新です。8月がばたばたしていたために更新することが出来ず申し訳ありませんでした。少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。秋も深まって参りました。皆さま、明日からもよい燭へし日和を!

2016-09-29 00:34:36