燭へし同棲botログ:バレンタイン

2016/2/14:お互いの好きの在り処とは。
3
燭へし同棲bot @dousei_skhs

【バレンタイン】 気合を入れた僕と長谷部くんは、お互いに昨日持ち帰った紙袋をテーブルに乗せた。優しく倒すと色とりどりの包みがほろっと零れ出る。 「わあ、今年はまた多いね」 「そうか?」 「僕はほら、去年に比べて減っただろ」 「……去年はまだ“それ”をつけてなかったからな」

2016-02-14 19:00:18
燭へし同棲bot @dousei_skhs

まあね、と返した自分の声が思ったよりも弾んでいて、僕は少し恥ずかしくなった。長谷部くんの言う“それ”とは、僕の左手薬指に光る指輪のことだ。先月のお返しと同じ気持ちを込めて、と長谷部くんが渡してくれた同じ色の指輪は、僕の宝物だ。

2016-02-14 19:05:09
燭へし同棲bot @dousei_skhs

僕はもらった指輪を会社でもつけるようになった。初めこそいろいろ詮索されたけれど、素直に「大事な人からもらったものなんです」と言えば、大体は納得してそれ以上突っ込んでこない。ちなみに長谷部くんは、会社には指輪をつけて行かない。普段は細いチェーンを通して首に掛けている。

2016-02-14 19:10:08
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「こんなに大事なものを会社の人間に晒してやる必要はない」というのが彼の持論だった。初めは正直寂しかったけれど、家に帰ってからチェーンを外していそいそと指に通し、それを眺めて微笑む長谷部くんの様子を見ていたら、僕の独占欲なんてどうでもよくなった。

2016-02-14 19:15:12
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「あ、長谷部くん」 「うん?」 「好きなのあるよ。あげようか」 「お前宛てだ。お前が食え」 「お堅いなあ」 「失礼だろう」 「そういうところ好きだよ」 「どうも」

2016-02-14 19:20:10
燭へし同棲bot @dousei_skhs

僕たちはたまに言葉を交わしながら、紙袋から出した包みたちをテーブルに並べはじめた。その正体は、会社の人たちからもらったバレンタインの贈り物だ。 「……それ、すごいね」 「高そうだな」 「高いんだよ」 「そうなのか」

2016-02-14 19:25:43
燭へし同棲bot @dousei_skhs

僕には軽いノリで渡してくれる人も多いから、ちんまりした可愛いものや義理かなあと思うものがたくさんある。けど長谷部くんの方をちらっと見ると、こっちはどれもこれも値段が張るものばかりだった。……いわゆる“本命”というやつだろう。

2016-02-14 19:30:10
燭へし同棲bot @dousei_skhs

お返しどうしようかなあ、と真面目に考えている長谷部くんを眺めて僕は思う。長谷部くんは会社でもらうものは全部義理だと思っているみたいだけど、悔しいかな、僕にはわかってしまうんだ。……これを渡した人は、これを選んで、長谷部くんに渡すのに、一体どれだけの勇気が必要だったんだろう。

2016-02-14 19:35:31
燭へし同棲bot @dousei_skhs

好きな相手になにかを贈ることは、心が潰されるような不安と期待を伴うものだ。僕は先月それをいやと言うほど思い知った。……思い知った、はずなのに。そんな僕が今考えているのは、これを贈った彼女たちの思いを無下にすることで。 「……ごめんね」 「? 何か言ったか」 「ううん。なにも」

2016-02-14 19:40:03
燭へし同棲bot @dousei_skhs

ごめんね、お姉さん方。君たちが好きな長谷部くん。彼が好きなのは誰でもない、この僕なんですよ。……なーんて、意地の悪い言葉が胸を回る。普段はここまで狭量じゃないのに、長谷部くんが絡むとなるとすぐこれだ。指輪の件しかり、僕は長谷部くんと結ばれてから子どもっぽくなった気がする。

2016-02-14 19:45:08
燭へし同棲bot @dousei_skhs

これじゃいけない。行き過ぎた嫉妬はよくないよ。 自分に言い聞かせながら、僕もお返しどうしようかなあと呟いて包みに手を伸ばすと、長谷部くんが僕を……正確には僕の手元を見つめていることに気がついた。 「……なーに?」 「え? ……いや、なんでも」 「えー、気になるんだけど」

2016-02-14 19:51:19
燭へし同棲bot @dousei_skhs

口ごもった可愛い顔を見つめ返して笑顔を向けると、少しの逡巡のあと、長谷部くんはゆっくり言葉を零しはじめた。 「……お前、が」 「僕が?」 「そんな、……指輪をつけていても、その、モテる? っていうのか」 「……」 「それが、なんだか」 「……嫌?」

2016-02-14 19:55:27
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「嫌じゃない、嫌じゃなくて」 「じゃあ」 「そんなに人に好かれる男が俺のものなんだと思うと、……なんだ、……気分がいい、というか」 「…………」 「……なにを言ってるんだろうな、俺は」 長谷部くんは困ったように笑っていた。

2016-02-14 20:00:22
燭へし同棲bot @dousei_skhs

僕がどう返したものかと言葉に詰まっている間に「こんなこと言うべきじゃなかった」とでも思ったんだろうか。長谷部くんは取り繕うかのようにむすっとした表情になって、並べていた包みを紙袋にしまいだした。

2016-02-14 20:05:55
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「つまらないことを言った」 「そんな、」 「俺も意地が悪くなったものだな」 「……それは、そうかもね」 「……嫌いになるか」 「ほら。そういうところが意地悪だ」 「…………」 「なにしても嫌いになるわけないって」 「……光忠」 「わかってるくせに」

2016-02-14 20:10:11
燭へし同棲bot @dousei_skhs

無自覚に可愛いことを言っておいて、すぐ不安になる長谷部くん。同じこと考えてたんだねーなんて、いつもならするっと出てくる言葉も、今の僕には言えなくて。 「はは」 「……なんだ」 「いや、似てくるものだと思ってね」 「なにが」 「なんでもないよ。こっちのこと」 「? ふーん」

2016-02-14 20:15:06
燭へし同棲bot @dousei_skhs

同じように意地悪なのが嬉しくて、僕はもう一度口の中の重たい言葉を飲み込んだ。僕と長谷部くんに贈り物をくれた人たちに対して、「僕たちお互いで精一杯なんです。ごめんなさい」と。 【了】

2016-02-14 20:21:09
燭へし同棲bot @dousei_skhs

(おまけ) 「ところで、長谷部くんからはないの?」 「……」 「あるんだね?」 「……ある」 「ん」 「なんだその手は」 「あるんでしょ? ください」 「雰囲気も何もないな」 「君の前では格好悪くても素直にいこうと思って」 「……」 「ダメ?」 「悪くない」 「やったー」 (了)

2016-02-14 20:25:04
燭へし同棲bot @dousei_skhs

【管理人より】バレンタインでした。本日燭へしクラスタ様におかれましては某イベントへ参戦された方も多いのではとお見受けいたします。お疲れ様でした。管理人は指を咥えて留守番組でした。春の足音が近づいてくる今日この頃、皆様風邪など召されませんよう。明日からもよい燭へし日和を。

2016-02-14 20:31:13