燭へし同棲botログ:クリスマス

2015/12/25:酔っ払いに振り回される光忠の受難。
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燭へし同棲bot @dousei_skhs

【クリスマス】 「ん……」 「……長谷部くん」 ――クリスマスの夜。二人きりの寝室。ここだけ聞けば艶っぽいあれこれを想像して然るべきだろう。でも残念ながら、今の僕たちにそんな雰囲気は皆無だった。何故なら。 「……うぅ……」 「どれだけ飲んだの」 長谷部くんが酔っ払っているからだ。

2015-12-25 23:30:04
燭へし同棲bot @dousei_skhs

世間はクリスマスでも、僕と長谷部くんは今日も普通に仕事だった。一時間くらい前に帰宅して、時間も時間だから軽めのものを適当に作って食べ、風呂に入ってさっぱりした僕のところに、このへろへろ状態の長谷部くんが帰って来たのだ。……昔馴染みで同僚でもある、宗三くんに引き摺られて。

2015-12-25 23:33:22
燭へし同棲bot @dousei_skhs

(お届け物です) (は?) (あとはよろしくどうぞ。僕はもう知りません) (え、ちょっ) (おやすみなさい) お疲れ顔の宗三くんはそう言って、僕の返事も聞かず颯爽と去っていった。長谷部くんのビジネスバッグとコートとマフラー。それに長谷部くん本人を残したまま。

2015-12-25 23:36:46
燭へし同棲bot @dousei_skhs

とろんと閉じた目と、支えていなければへたってしまう身体。……長谷部くんが、僕のいないところでここまで飲むなんて珍しい。それについてはいろいろ言いたいこともあるけれど、取り敢えず今は寝かせた方がよさそうだ。そう思った僕は、長谷部くんを連れて寝室に足を向けた。

2015-12-25 23:39:10
燭へし同棲bot @dousei_skhs

そして、今に至るというわけだ。水は飲んでくれたからよかったけれど、それでも明日は二日酔いだろう。自業自得とはいえ可哀想に。僕より強い長谷部くんがこんな風になる酒量なんて、考えるだけでも恐ろしい。少しでもましになるようにと、僕は寝転ぶ頭を撫でた。……すると、

2015-12-25 23:42:19
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……今日な、おれ、みつただが」 「ん?」 「光忠が、もっと遅いと思ってたから」 「……から?」 「出たくもない忘年会に、出ることにした……」 「……え」

2015-12-25 23:45:14
燭へし同棲bot @dousei_skhs

長谷部くんはいつもみたいにはっきりした口調じゃなくて、怪しい呂律でもってそう言った。耳を寄せた僕にぽつぽつ話し始めたそれは、まるで予想していないもので。 「それって、」 「光忠が今日、仕事入ったって聞いて……光忠がいないのに、ひとりでいてもさみしいし」 「…………」

2015-12-25 23:48:06
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「それなら俺も用事を作れば、気にしなくてすむとおもって」 「……長谷部くん」 「こんなイベントごと、お前と会うまではどうでもよかったのに」 「そうだって言ってたね」 「お前のせいで、気にするようになって」 「ふふ。僕のせいか」 「恨み晴らさで……」 「なんてこと言うんだ……」

2015-12-25 23:51:08
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「責任を取れ……」 「ぼ、僕に出来ることなら何でもしますけど……」 唸る長谷部くんに思わず敬語になった。でもこれはいい機会だ。もともと長谷部くんと今日の埋め合わせをしたいと思っていたところだったから(僕の自己満足なんだけど)そこまで気に掛けてくれていたことが、単純に嬉しかった。

2015-12-25 23:54:06
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……光忠」 「え」 返事に満足したらしい長谷部くんが、突然僕の首にするっと腕を回してきた。……これは、驚いた。普段あまり積極的にこういうことをしてくれないから。 「……えっと、これは?」 「これはとは」 「プレゼントは長谷部くんってこと?」 「…………」 「すみません嘘です」

2015-12-25 23:57:32
燭へし同棲bot @dousei_skhs

機に乗じて少しふざけてみたら、長谷部くんの視線が鋭くなった、気がした。酔っ払って積極的でも、こういう冗談は通じないんだ……。しかし「ごめんね」と謝って流そうとしたら、長谷部くんはすんっと真面目な顔になってこう言ったのだ。 「いいぞ」

2015-12-26 00:00:13
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「は?」 「いちおう用意してあったやつも、結局店に取りに行けなかったし……今はなにもないから、俺でよければやってもいい」 「……」 僕にとって何よりの僥倖だった。いやでも相手は酔っ払いだとかなんとか思いながら、それでも誘惑に逆らえず遠慮がちに手を遣った。……そのときだった。

2015-12-26 00:05:28
燭へし同棲bot @dousei_skhs

長谷部くんの手がずるずる脱力して、僕の首からベッドに落ちたのだ。 「っ! 長谷部く、」 「……ぅ……」 「……おい」 具合が悪くなったのかと思って顔を上げると、安らかに目を閉じる長谷部くんがいた。そこで全てを合点した僕は、今度こそ固まった。 ――寝てる。寝てるんだけど、この人。

2015-12-26 00:09:38
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「え? ねえちょっと、嘘だろ」 「…………」 「……勘弁して……」 嘘じゃなかった。がっくり項垂れる僕をよそに寝息を立てる長谷部くんは、そこから声を掛けても揺すっても一向に起きる気配を見せなかった。あれだけ期待させておいておあずけなんて、あんまりだろう。

2015-12-26 00:12:58
燭へし同棲bot @dousei_skhs

「……仕方ないなあ」 普段より幼い寝顔にいろんなものを諦め、同じく横になって長谷部くんの身体を抱き込んだ。風呂上がりの僕は酒の匂いが気になったけど、こんな状態で風呂に突っ込んで溺れでもしたら大変だからこのままでいい。それにいくら酒くさくても長谷部くんだ。僕の可愛い、長谷部くんだ。

2015-12-26 00:16:30
燭へし同棲bot @dousei_skhs

片腕を長谷部くんの枕にしてから、僕はふと傍のクローゼットに目を遣った。 (本当は僕も君にあげるもの、あったんだけど) 中に隠しておいたプレゼントの出番は明日になりそうだ。中で開けられるのを待っているものに心の中で謝って、僕は再び、愛しい酔っ払いの頭を撫でた。 【了】

2015-12-26 00:19:52
燭へし同棲bot @dousei_skhs

【管理人より】かつてない駆け足かつ日付を跨ぐ有様で恐縮の至りですが、お付き合いいただきありがとうございました!今年も残すところ僅かとなりましたが、皆さまの毎日がよい燭へし日和となりますように。

2015-12-26 00:24:18