#ダークエルフ王国見聞録　その２

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

大蜘蛛の糸取りは、気温が下がり蜘蛛の活動が弱まる時期に行われる。四尺はあるかと思われる大蜘蛛であるが、ダークエルフの弓の前には敵ではなく、簡単に屠られる。残った巣は溝を螺旋に彫った樫の木の棒で重なり合わぬよう丁寧に巻き取られ、里に持ち帰られる。 #ダークエルフ王国見聞録

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大蜘蛛の糸は樫の棒から一外され、薬師の調合した薬液に一晩漬けられる。この薬液は大蜘蛛糸の表面の粘液を劣化させるものであり、漬けた後は川水に晒されることで丈夫で艶のある繊維が得られる。山地のダークエルフ達にはこの大蜘蛛糸を税として納めることが定められている #ダークエルフ王国見聞録

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里を出発して３日目の夕刻、我々は目的地の山の裾野で天幕を張り休憩を取っていた。たき火を挟んで正面には紫の髪をした背の小さなダークエルフの薬師が淹れた茶を啜り、左には銀髪の女戦士が座り、右には籠を背負った二匹の恐狼が伏してウトウトとしている #ダークエルフ王国見聞録

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「ようやく目的地に着いたが、夜までは小休止だな。今宵満月の夜に笠を開いた月見鬼茸が調剤に必要でな、護衛に戦士殿に付いてきて貰ったわけだ。人間のそなたは、まぁ、荷物持ちをして頂けると助かる」さほど期待していないという表情で女薬師は語る #ダークエルフ王国見聞録

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女薬師が語るには満月の夜にその霊光を浴びて笠を開いた白い鬼茸は、そうでない鬼茸と異なり、毒がなく、治療薬の調剤に重宝するそうである。彼らの部族を含めた山岳系ダークエルフでは、これを税の一種として宮廷に納める者も多いと聞いた #ダークエルフ王国見聞録

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夜に備えて天幕で仮眠をとった我々は、梟が寂しげに鳴く山道を登っていく。夏にあらかじめ月見鬼茸の生えそうな場所を薬師は当てを付けているそうだ。ダークエルフの彼らは夜目を効かし、俊敏に山道を登っていくが、私は恐狼の首輪につけた握り紐を頼りに何とか付いていく #ダークエルフ王国見聞録

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私を億劫そうな表情で先導してくれる恐狼だが、もう一匹は先行し、周囲を警戒している 「なにかと物騒であるからな、人間のエルフ狩りなども怖い」 「薬師殿、彼は客人なのですから、嫌味もほどほどに」 「ふふ、いつもは戦士殿の方がよほどからかっている様に見えるが」 #ダークエルフ王国見聞録

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などと彼女達に言われながら山の中腹を流れる沢のそば、樹が囲む開けた場所に出た。白いキノコが点々と生え、中には笠がまだ閉じたものも見受けられる。 「ふむ、確かここでよいはずだな」 女薬師が呪文を唱えると陰火が掌の上にぼうと燃え、辺りを青い炎が照らす #ダークエルフ王国見聞録

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ダークエルフの陰火がある白樺を照らした時、その木肌にやはり青い燐光で紋様が浮かび上がる。彼女達の部族を示す紋様である。我々が先に見つけているので別の部族の者はここの月見鬼茸を採集するなということであろう #ダークエルフ王国見聞録

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「木札に紋様を記して吊るしておいても良いのだがな。まぁ、それで奴隷狩りの人間どもや、おっと失礼人間や、オークなどに待ち伏せされてもかなわぬからな。我らの種族にしか分からぬようにしているのだ」。女薬師は背負い籠を下しながら説明する #ダークエルフ王国見聞録

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満月に照らされる山腹で待つことしばし、月が天頂に至ると、涼やかな月光が森の中を照らし出す。すると、傘をまだ閉じていた白鬼茸がこちら、またそちらとゆっくりと傘を開き出す。白く棘の生えた茸が開き切ると、傘の上部がうっすらと染料がにじむように黄色く色付いていく #ダークエルフ王国見聞録

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「ふむ、もう良い頃合いであるな」 手近な石に腰かけていたダークエルフの女薬師は象形文字の描かれたナイフを取り出し、白い茸の中から今開いたばかりの黄色く染まった鬼茸を選んで根元から切り取り、側に控える恐狼の背負う籠に放り込んでいく。 #ダークエルフ王国見聞録

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恐狼の背負う二つの籠が半分ほど満たされたところで、女薬師は次の場所に移ると言う。 「取り過ぎては来年の実りが悪くなるからな。それにしても、ここはなかなかよい採り場であったな」と少女めいた容姿ながらも、老練な狩人のようなしたり顔の笑みをこぼす。 #ダークエルフ王国見聞録

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その時であった。茂みの中から警戒に回っていた恐狼が森の中の開け地に駆け戻ってき、その茂みの奥の方に向かって威嚇する様な唸り声を上げる。 「むっ、ゴブリンかオークの類か？面倒な」 女戦士は愛用の長刀を引き寄せつつ、これも愛用の短弓に矢をつがえる #ダークエルフ王国見聞録

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「ミツカッタ？」「ミツカッタカナ？」 ささやくように場の空気に合わないのんきな声が静かな森の中から聞こえる。 「あれは・・・、オークの子のようだが、魔術使いの姿をしている？面妖な・・・」 夜目が効くダークエルフらしく、薬師は相手の姿を捕えたようである #ダークエルフ王国見聞録

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問答無用でオーク殺すべしと考えている女戦士は無言で短弓を放つ。鋭い音がしてオークの子片割れが持つ木の棒、いや、あれは杖であろうか、に突き刺さる。二の矢三の矢も次々と放つが何やら面妖な術を使うのか、女戦士の尋常ならざる技を以てしても、急所には当たらない #ダークエルフ王国見聞録

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「キノコホシイ」「牝モイル！」「ドウシヨウ！」「ドウシヨウ！」 視れば片方は怪しげな触手を振り回し、片方は土壁の魔術で矢を懸命に弾きながら何やら相談をしている 「・・・！これはおどろきだ、オーク風情に魔術や召喚使いがいるとは」 女薬師と女戦士は目を見開く #ダークエルフ王国見聞録

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「オーク風情に精霊の加護があってたまるものか」 舌打ちしながら相手に更なる詠唱をさせないために鋭い弓矢を繰り出す女戦士の横で、女薬師は人語ではない呪文を唱えながら取り出した薬瓶に手をかざし、瓶の中の液体が淡く赤色の光を放ち出す #ダークエルフ王国見聞録

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女薬師がオークの魔導師に向けて投げた薬瓶は、放物線を描いて彼らの頭上に至り、そこで破裂した。 独特の芳香と煙が立ち込める 「ウワ、ナニコレ！」「ナンカキモチワルイ！」「デモ牝イル！」「キノコホシイ！」 #ダークエルフ王国見聞録

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苦悶しながらどうも逃走するふんぎりがつかない様である。女戦士の鋭い口笛と共に恐狼が大顎を開いて駆け出すと、しげみの奥から月に照らされた白い体が飛び出し２体を抱えて遠くに飛び去る 「バカ！」「エルフキライ！オボエテロ！」悪態と恐狼の鳴き声が響き合う #ダークエルフ王国見聞録

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彼らの潜んでいた茂みを確認すると、我々が採集していたのと同じ黄色く染まった月見鬼茸が散在していた。彼らが荷物から落ちたのであろうか。 「うーむ、これは薬の調合も知ったのか？どうにも面倒。ここいらの山にはしばし近づかない方がいいのかもな」女薬師は唸る #ダークエルフ王国見聞録

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「とは言え、これは有難く頂いておこうか。今宵に採る量としては十分であろう」 そこに落ちている茸と、先程の戦闘で恐狼の背負い籠から零れた茸を拾い集めると、我々は山を下り始め、天幕のある山裾へと戻ったのであった #ダークエルフ王国見聞録

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あの時に出会った子オークの魔術使いは、ひと時ダークエルフの里でも話題になり、部族長や王都の担当官にも注進が入った。驚きを以て迎えられた情報であるが、その後にそれらしき者に会ったという報告は続かなかった。 彼らは何処から遠出をしてきたのだろうか？ #ダークエルフ王国見聞録