#ダークエルフ王国見聞録 その2

著者 へどばんさん pixiv版(https://www.pixiv.net/series.php?id=823771) その2 蜘蛛から糸をとるはなし 月見白鬼茸のはなし 税金を納めるはなし オーガのはなし 続きを読む
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へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

逞しい馬が2頭つながれた馬車の荷台に様々な品物が積み込まれていく。大蜘蛛の糸や天蚕の糸で編まれた艶やかな布や乾燥させた月見白鬼茸、上等な鹿やテンの毛皮、蜜蝋に鱒の燻製、鷹の羽を束ねたもの。いずれもこのダークエルフの山里に産するものである #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 21:50:52
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

王国は相応に貨幣経済が発展し、銀貨や銅貨も流通しているが、地方からの納税はまだまだ物納に頼る部分も大きい。これから里の一行が向かう彼らが属する部族の長が治める町に、同じ部族の各里から人と者が集まり、王都から来た徴税官の一行が税を回収するのである。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 21:53:55
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

武具や魔術に必要なものはそのまま税として物納され、食物や布などは町に立った市で売り買いされ、そこで得られた貨幣を税として納める。国境を越えて里の者達が人間の町に物産を売りに来るのは、人間の手による製品を買うためだけでなく、貨幣を得るという目的も大きい #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 21:56:30
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「積み終わったようですね。ご苦労様です。そういえば学者殿はこの里以外のダークエルフの村や町に行くのは初めてでしたね、やはり楽しみですか?」 いつもの質素な服装から着替え、煌びやかな装身具に身を包み、紫色の絹の外套に身を包んだ女村長が語りかけてくる #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 21:59:32
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「人間の、しかも男を連れているとなると、王都のお役人様にどう申し上げましょう?西の国境は色々ときな臭いそうですし。まぁ、民俗学研究でしたか?それにご理解頂けるか分かりませんので、村史編纂と交易の帳簿管理に雇っていると申告しましょう。嘘ではありませんし」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 22:03:37
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部族の紋章が彫られた木箱にロイヤルゼリーや特に上質の天蚕糸が納められた女王陛下への献上品が最後に荷馬車に積み込まれる。 荷馬車の御者は獣使いの女性が御者の席に座り、馬に乗れない私も彼女の隣に腰かける。村長と護衛の戦士たちは馬や冠恐鳥に騎乗している #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 22:14:32
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「こら、獣使い殿にあまりくっつくのではない」 「おや~、戦士殿、嫉妬ですか?センセイ、もっとこっちに寄ってもいいですよ~」 大切な税の運搬故、護衛は武装はしているが、これは他の村落と見栄えを競う意味が強いらしく、緊張感のない会話が交わされている #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 22:23:47
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

黒毛の馬に騎乗した女戦士は、細やかな彫刻が施された鉢金を巻き、長い銀髪を後ろにまとめている。手の先から上腕までを覆う白銀の篭手と膝足先から膝までを覆うやはり白銀の装甲、首元から乳房までを包む薄布と下腹部を覆う薄布は彼らの戦装束の正装・ビキニアーマーである #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-01 22:28:14
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

御者台に座る女獣使いは、獣を扱うという仕事柄か、革製の長手袋とブーツ、長袖の羊毛のセーターに麻の長ズボンを着て、艶かかな褐色の肌をほとんど覆っている。 首からは角笛や犬笛、大熊の歯を使った装身具などを様々下げている #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 19:29:34
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「出かける前に狼達や山猫達の世話をしてきましたから、獣臭くないか心配ですねぇ。どうですか、学者先生、わたしの匂いは?」 悪戯っぽい笑顔で問いかける彼女からは衣服に焚き染めたであろう高木の薫香が上品に香る。 後ろから私を睨みつける視線と咳払いの気配 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 19:32:33
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「それではそろそろ参りましょうか」 村長の一言で、荷馬車1台、馬4騎、冠恐鳥2羽からなる隊列が朝日の中、村の広間から出立する。 見送りに来ていた里の村人たちが笑顔で手をふりながら、一行を見送る。 「お土産よろしくねー」少年少女たちの声も賑やかである #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 19:36:55
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

村から緩やかに下っていく山路を3時間ほど下ると、形こそ不揃いながら丁寧に舗石が敷き詰められた街道にでた。ここで女獣使いは角笛を独特のリズムで数度吹くと、しばらくしてから道の両脇の森から3匹の恐狼が現れる。彼らに干し肉を投げ与え、次に鳥寄せを取り出す #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 19:44:43
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

これを上空に向かって吹き、赤い布をぐるぐると回すと、上空から1羽のイヌワシがゆったりと荷馬車の御者台へと下りてくる。 「お疲れ様、君達はここで里に戻っていていいよ」 そう伝えると恐狼達は主人に向かって一声吠え、めいめいに干肉を咥えて茂みの中に消えていく。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 19:47:22
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

イヌワシの方はと言えば、ご主人様に近づくなと言わんばかりに私と女獣使いの席の間に羽を休めている。 見送りの恐狼達と別れた後、我々の隊列は街道を東へ向かう。昼食で休息を取ったのを除けば、森林の中にある敷石の街道を日が落ちつつある時まで進み続けた。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 19:51:23
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「どうやら刻限に間に合ったようですね。さて、この辺りの気に目印があったはず・・・あぁ、これですね」 そう女村長が言うと、先頭の冠恐鳥に乗った弓使いが街道の横にある森の茂みへと分け入り、それに隊列が続いていく。 道なき道を進み、町まで行くのであろうか? #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 19:57:01
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

複雑に曲がりくねりながら進み続ける一向。樹木の横枝や茨の茂み、視界を塞ぐように垂れ下がる蔦が次々と目前に迫ってくるが、不思議と顔や体に当る気配はなく、荷馬車の歯車が根や石に車輪を取られることもない。 間違いなくダークエルフによる何らかの呪法であろう #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 20:03:03
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

荷馬車の傍らに馬を寄せてきた女戦士の説明するところによると、これは幻惑の呪法であり、ダークエルフ以外には見えない道であるらしい。立ち入ることができるのは日の出から日の入りまでであり、複雑に曲がった道故にたまたま入り込んでも見えぬ道を辿ることは困難である #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 20:05:10
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

なお、この呪法は彼女らの山里にもかけられており、街道から村への山路に入り進もうとすると効果が生じるらしい 「道を進むほど、毒草や毒蛇、毒虫などそれぞれの種族が嫌うものが見えるらしい。これで目隠しをするとよいだろう」 女戦士は鉢金を解き、私に投げてくれる #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 20:09:26
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「私は鞭を持っているし、センセイは目隠しをされている。こんな様子、人間の描いた閨房の絵草紙で見たことありますねぇ」 悪戯っぽく笑いながら目隠しをした私の横で女獣使いが冗談を言う。文化人類学的には、そんなものまで彼らが交易で手に入れているとは驚きである。 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 20:25:41
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日の光が薄まり、半月がうっすらと天頂に現れ始める頃、不思議な術がかけられた森が終わり、ぱっと視界が開けた。 道の先から月を映す大きな湖と、湖畔の丘に築かれた水濠に囲まれた城、その主郭に生える大きな樹、そして城の周囲に立ち並ぶ家々とその灯りが目に入ってきた #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-03 20:31:27
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

森から町へと続く石畳の道の両脇には刈取りが終わり、秋播きの麦種を待つ畑が広がっている。しばらく道を歩むと槍と弓で武装したダークエルフの女性が数名待ち受ける関所に至った。一行は歩みを止め、代表者である村長が馬から降り、彼らに話しかける #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-06 22:23:38
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「お勤めご苦労様です。西の里、熊鷹の巣山の麓より参りました」 「よくおいでなさりました。族長も皆さまをお待ちです。どうぞお進みください」 うやうやしく礼をする女ダークエルフ達を、再び騎乗した村長と共に通り過ぎる。下り坂の先には町の灯りが煌々と見えている #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-06 22:28:56
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町の中心を通る道を迂回し、湖畔の丘に築かれた土城の正門に至った一行を認め、跳ね橋が城の周囲を囲う水堀に下げられる。入口は虎口となっておっり、櫓を両脇に備える門から入ると道は右に、次いで左に屈曲しており、土塁の上には弓を持つ兵士が控えている #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-06 22:34:18
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「まぁ、叔母様。1年ぶりでございますね」 下げられた跳ね橋の対岸に立っていた、白い長衣を身に付け、熊鷹の羽々を頭の両脇に立たせたダークエルフの少女が一向を出迎え、そう口にする。 「あら、すっかり族長の貫録が出まして」 村長が応じる #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-06 22:38:17
へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

人間でいえば年の頃十五かそこらに見える少女が、里の者を含めた“山を覆う翼の熊鷹”氏族の族長であった。白い長衣には各々の里を示す紋様が染め抜かれ、小さな肢体の肌には氏族が信奉する様々な精霊の呪印が刺青されている。 「ともかく、城内にどうぞ」 #ダークエルフ王国見聞録

2016-10-06 22:44:13