#ダークエルフ王国見聞録　その２

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

城門から複数回土塁の間を折れ曲がる道を一行と共に歩みながら族長の少女は馬上の村長に言葉を続ける。 「王都の徴税官殿は明後日のご到着とのこと。他の里の村長も皆様もいらっしゃっておりますので、荷物をお預け頂き、今宵は宴席にどうぞご参加下さい」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

虎口の先にある郭の中央には、大きな土蔵があり、ここに各々の里から持ってきた積み荷を集めているらしい。土蔵の前に荷馬車を止め、馬や冠恐鳥から降りるダークエルフ達と共に獣使いも私も荷台から降りる。 「アエリス、積み荷を下ろして差し上げなさい」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

族長がそう呼びかけると、土蔵の横の資材の中からむくりと何かが重たげに腰を上げる。それは、赤黒い肌をし、黒髪を後ろに束ねた頭部には２本の角と口から飛び出る牙が特徴的なオーガの男であった。麻の上着とズボンを身に付け、首と手には呪印が刻まれた輪を嵌められている #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

身の丈八尺はあろう筋骨隆々とした奴隷の男オーガは、私の方を見て少々驚いた顔をしながら荷馬車から荷を軽々と下ろし、里を示す木札を付け、それらを土蔵に丁寧に入れていく。筋肉質な体に残る刀傷や矢傷が彼がかつては戦場に出ていたことを示していた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

にこやかにその作業を見ていた女村長は、荷馬車と馬達を馬場に運ぶように村役人に申し付け、我々が居る郭から土橋でつながる別の郭へと案内する。その芝生の生える広い腰郭には遊牧民が用いるようなゲルがいくつも立てられ、各里の紋様がゲルを包むフェルトに描かれている #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「叔母様、あ、いや、村長殿はあちらの包に、付添いの皆さまはこちらの包にお泊り下さい。荷物を置きましたら、すぐにでも館での宴席にご参加下さいませ」女村長はそう告げると、こちらを見やる 「ところで、村長殿、この人間の男性は奴婢か何かでございますか？」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

微笑みは絶やさないものの、明らかに疑わしさを感じさせる表情の族長に村長は意外にも建前の部分を除いて事情を説明する。 「まぁ、人間にはそのような学問もあるのですね。異国の習俗の話も後学のために聞いてみたいものです。貴方も宴席に是非参加下さいね」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

ゲルの中に納税する貨幣などの貴重品を置き、同じくゲルから出てきた村長と合流して、城内にある族長の館へと向かう。そこかしこに篝火が焚かれ、武装した女兵士たちが、さほど緊張感はないようだが、警邏に立つ城内は戦を得手とする彼女達の種族らしい空間であった #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

城の主郭、霊樹に抱かれる様に建つ族長の館にある宴の間は、複雑な文様を織り込んだ絨毯が敷かれ、各々の里の長達と族長が語り合う輪と、随行の者達が賑やかに語り合う輪に分かれていた。村長は前者に、私や女戦士、女獣使いは当然後者の輪に加わり、宴は続けられる #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「今年は林檎の収穫が大変よろしいとか」「国境の諍いはどうなるのでしょう」「エルフどもの活動が西の国境で盛んだと聞きました」「呪術を扱うオークが出たとか」「今年のゴブリン駆除の方法は」 各里の村長達が話し合う輪に比べ、こちらの話の輪はいくぶん平和である #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「おお、百人長殿！お元気ですか？おや、その人間は奴婢か何かで？見たところただの中年の男に見えますが、変わったご趣味でったのですねぇ」 眼帯を付けた黒髪の女性が、私の隣に座った女戦士に話しかける 「既に軍務にはないぞ、その呼び名は止めないか」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

なみなみとつがれたエールを湛えた陶製のジョッキを互いにぶつけ、ガラスのグラスに注がれた葡萄酒を飲み干しながらダークエルフの女武者達は、軍役に就いていた頃の武辺話を重ねる。私の杯にもダークエルフの美女達が興味深げに見やりながら酒を注いでくれる #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

外の空気に当たりたいと申し出て、賑やかな宴席が続けられる館から酒瓶と手帳を手にして出る。村の女戦士が同行するかと聞いてきたが、それは辞退した。私はとある目的があって、そこらを見渡した。先程見たオーガの男奴隷の姿を探したのである #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

宴の続く館の裏手、井戸のある場所に彼は居た。宴席に運び込んだワインの空き樽に、井戸から水を注ぎ、それを軽々と抱え込んでガブガブと飲みこんでいた。私の姿を認めると、一瞬軽い驚きの表情を示し、畏まって巨躯を折り畳んでお辞儀をする #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

私は彼に持ってきた酒瓶と杯の片方を渡し、畏まらなくてもよいこと、話を聞かせてほしいことを伝える。どうにもよく分からないという表情のオーガであるが、既に彼の仕事の時間は終わっているようであり、客分であるこちらの質問に素直に答え初めてくれた #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

北方の戦線で捕虜となり、奴隷となった彼は既に標準エルフ語を覚えているようであり、意思疎通に問題は概ね存在しなかった。 「死ニ損ナッタ俺ハ、だーくえるふニ治癒ノ魔術ヲ施サレテ、奴婢二ナッタ。ココデノ扱イハヨイシ、族長ハ好キダ。ダガ、自由ガナイノハ辛イ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「サッキ、オマエト一緒ダッタ銀髪ノ女戦士、アレハスゴイ戦士ダ。俺達ノ古強者ヲ一騎打チデ屠ッタ。熊鷹ノ印ヲ付ケタだーくえるふの女戦士、噂デ聞イテイタ。オマエモ、弱ソウダガ、ヤハリ戦士ナノカ？」 そう問うオーガの奴隷に私はただの学士であると伝える #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ソウカ、みんぞくがくトヤラハヨク分カラヌガ、俺達ノ国ニモ、色々ナ歌ヤ女達ノ舞ガアッタ。見セテヤリタイガ、戦デ名誉ノ死ヲ遂ゲラレナカッタコノ身、最早国ニハ帰レヌ。」望郷の念であろうか、さみしげな表情で元・戦士のオーガは語る #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

久々の酒であったのであろうか、元々赤い顔を更に赤くさせて彼の思い出話はたどたどしいエルフ語で、しかし雄弁に続く。美しい故郷の森のこと、ダークエルフの軍勢に戦友達と共に大斧を振って勇ましく戦ったこと、奴隷の身であっても何時か戦場で戦って戦士を遂げたいこと。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「オマエハ、女だーくえるふニ惚レテイルノカ？だーくえるふノ女達ハ、小サイシ、細クテ駄目ダ。俺達おーがノ女ハ、モット丈夫デ肉ガ付イテイテ情ガ深イ。歌モ上手イゾ」何処か誇らしげに奴隷のオーガは、古傷だらけの巨躯を振いながら熱っぽく語る。 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

人間からは食人鬼とも呼ばれる彼らオーガに、私は深い思慮と情緒を感じとり、一人の学士として、また一人の人間として感じ入った。オーガの国に分け入り、調査をした事例を知らぬが、彼の語る内容を私は手帳に書き留めた。彼の語る美しい北の森に想いを馳せながら #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

そろそろ宴席の場に戻ろうと、彼に礼を伝える。オーガの奴隷はこちらこそと礼を返しながらふと気づいたように腰にぶら下げた道具袋から、文字の刻まれた動物の骨と色とりどりの水晶が連なる数珠を取り出した 「旅ノニンゲン、コレヲ持ッテ行ッテクレ」 #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「コレハ、戦友ノ形見ダ。俺ハ、名誉ノ戦死シナカッタ虜囚ノ身、国ニハ帰レヌ。オマエガ、モシ北二旅ヲスルコトアラバ、俺達ノ国ニ寄ッテモラエヌカ。コレヲ見セレバ同胞ニハ分カル」 数珠を受け取った私が彼の国で見聞きしたことはいずれ別の書物に記録することとする #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「オーガどもから奪った金鉱の成果は上々のようだな」「また、戦の一つもないものか！功名を上げたいものだ」「オーク如きでは腕がなまってしまいますわ」 武辺話に花を咲かせるダークエルフの女戦士たちの輪に再び加わる。オーガの身の上話を聞いた直後である故に少々辛い #ダークエルフ王国見聞録

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

夜も深まり、宴席は解散となった。上気した表情で程好く酔い、色香を更に高めた同村のダークエルフ達と共に、館を辞去し、宿泊のために用意されたゲルへと向かう。明日は、村から持ってきた産物を売って貨幣に変え、一部は税金に、一部は村の買い物に当てることになる #ダークエルフ王国見聞録