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151 ただ松ぼっくり投げ合うっちゅう単純な遊びは思いの外、楽しかった。 童心にかえれたし、生徒達とも仲良くなれた。 自分でも言うのもなんやけど、手応え感じてたし、生徒からも他の先生からの信頼もちゃんと得てたと思う。 そんな中で、採用の通知がきて、ほんまに嬉しかった。
2016-09-11 18:15:33152 松ぼっくり戦争に誘ってきたあいつは、あんな突拍子もないことやる割には、普通の生徒やった。 成績はずば抜けて良いわけでもなく、底抜けに悪くもなく、ほんまに普通。 気になるくせに、毎日ひとりで中庭におるのを眺めながら、特に目立ちもせん生徒に俺から話すことはできんかった。
2016-09-11 18:15:44153 結構寒なってきたな、 ってベストをセーターに変えた頃。 中庭を覗くと、いつものようにあいつはひとりでおったけど、少し様子がおかしい気がした。 寒い中ベンチに寝転んで、あいつこんな外で寝るつもりか? 風邪引くんちゃうか?
2016-09-11 18:16:12154 起こしてやらな、って理由つけて、あいつんとこに行った。ほんまはこれがチャンスやと思ってたのかもしらん。 あいつの足元には進路調査票が落ちててた。 もしかして、これ、悩んでたりするんかな。ほんの2ヶ月足らずの教師の勘は図星やった。
2016-09-11 18:16:24155 ここの生徒達はみんな可愛かったけど、半年足らずしかおられへんのやから、深入りだけはせんとこうって思ってた。 せやけど、自分に自信をつけてくれたこいつの事はなんだか見捨てられんどころか、自分から首を突っ込んでしまっていた。
2016-09-11 18:16:35156 いつからやろう。あいつがただの生徒やなくなったのは。 ほんまに最初はただの可愛い生徒のひとりやったのに、そんなことも覚えてないくらい自然に、俺はあいつを一人の女の子として、好きになっていた。 あいつも俺のこと好きんやろうな、ってなんとなく言葉にせんでも感じてた。
2016-09-12 00:39:15157 この学校から離れるとはいえ、春からほんまもんの教員になる。 そんなんあかんことくらい、自分でわかってた。 せやのに、自分から生徒にキスするなんて思ってもなかった。でも抑えられんかった。こいつのこと好きや、って。
2016-09-12 00:39:21158 ほんまに好きやった。可愛くて、愛おしくして仕方なかった。 せやけど、一つ越えてしまった線をもうこれ以上越えんように。 矛盾した気持ちでも、そのブレーキだけはちゃんとかけなあかんって意識は日に日に強くなって、俺は教師としてとらなけらばいけない別れの選択をとった。
2016-09-12 00:39:31159 あいつの前からいなくなる最後の日。 自分勝手な選択をしたのは俺やのに、ココアをあいつに渡した。 なんも知らんと受けとって、「懐かしい」って笑うんや。 ココア飲む度に俺のこと思い出してくれるんかな。
2016-09-12 00:39:43160 きっと今度も缶は捨ててしまう。 せやけどそれでええねん。 一緒に捨ててまえばええねん、俺の記憶ごと。 また矛盾した気持ちや。 これを最後に俺は、松がたくさんある高校には一度も行っとらん。
2016-09-12 00:39:57161 新任として赴任した中学もめっちゃよかった。 先輩の先生らは優しいし、生徒も可愛かった。 2年目からは担任を持つようにもなった。 高校と中学で学校は違えど、半年臨時で働いた経験はちゃんと自分の中でいきていて、忙しいけどうまくいっていた。
2016-09-12 00:40:05162 けど、あいつのことだけはどうしても忘れられなかった。 親御さんとうまくいってるのかとか、大学に行ったのかとか、彼氏はできたんかとか…… 自分から捨ててきたくせに、ふと余裕ができると考えてまうねん。
2016-09-12 00:40:19163 俺かて彼女をつくろうと思えば、できた。でも、そうやって動かない自分がいて、ほんま女々しいな。 呆れるくらい、引きずってた。
2016-09-12 00:40:31164 校舎の見回り当番やっててよかったってこんなに思うことは、この先ないやろ。 門の前で変なもん配ってる人に、注意の声をかけて、振り返ったのがあいつやなんて、思いもせんやろ? 3組の高橋の知り合いっていうのは少し厄介やったけど。 「俺……もうええやんな」
2016-09-12 00:40:44165 一度手放したものが、こんなに近くにある。 それって運命ちゃう? こんな機会二度とないねん。 確かに教師と生徒なんは変わらん。何年経っても変わる事はない。 けど、あの時とは違う。
2016-09-12 00:40:55166 あいつはあそこ卒業して、成人越えた。俺もまだ教員かもしらんけど、違う学校で、定職持ったええ大人や。 やから、もう、ええやんな? 「…行くから、待っとけ」 ***
2016-09-12 00:41:04167 はぁ、って照れたようにため息ついて、あんな、って喋りかけたところで、ファミレスの店員さんが、お待たせいたしました、ってきて。 生姜焼き定食と、チーズインハンバーグを置いていく。あ、セットにしてライス頼むの忘れた。 先生は照れた顔を隠して、ええから食えや、って。
2016-09-12 16:21:42168 もぐもぐ。 したと思ったら食べる合間合間に、先生は、いろいろと話してくれた。 臨時採用のこと。 自信なかったこと。 緊張してたこと。 松ぼっくり戦争のこと。 先生が話してる間、ハンバーグだけ食べてたら、米食え、って自分のご飯を少しくれて、目で会釈した。
2016-09-12 16:21:54169 わたしが食べるのを見て、先生は、またもぐもぐしながら、合間に言葉を続ける。 キスしたこと。 学校離れたときのこと。 今の中学のこと。 今日、再会したこと。
2016-09-12 16:22:04170 先生は、全部話し終えると、残ってたご飯をがぁってかきこんで、勢いよく飲み込むと、 「やから、もう、あかんねん。また会うてもうたから。もう、俺から放すことはできん。」 そうやって、私の目を見て言った。 「好きやねん。お前のこと、ずっと。あのときから。」
2016-09-12 16:22:11171 あの時決して言葉にできなかったものを、今、先生はこうして、形にしてくれていて。 なんかわからないけど、知らないけど、涙出てきて。 でも、わたしもちゃんと言わないといけないから。
2016-09-12 16:22:52172 「…わたしも先生が好き。好きにさせといて急にいなくなってむかつくのに、でもずっと好きでした」 おぅ…ってはにかむ顔がぼやけた視界の先に見えた。やっと言えた。 ***
2016-09-12 16:22:58173 ふたりでファミレスを出て、帰り道。 家を聞いたら、案外近くに先生は住んでた。 頑張れば、徒歩圏内。 家まで送っていくっていうから、その言葉に甘えた。
2016-09-12 16:23:04174 「なぁ、お前、彼氏おらんよな…?」 「えっ、いまさら?」 「へっ、おるん!?」 「はぁ!?いるわけないじゃないですか!なんだと思ってんの!?」
2016-09-12 16:23:11175 腕をぺしぺし叩くと、先生はごめん!ごめん!せやんな!やんな!と開き直ってて、なんかおかしくなった。 「言われなきゃわかんないし。先生またどっか行っちゃうかもしれないし。」 「わかるやろもぉ……つーかどこも行かへんし」
2016-09-12 16:23:15