- eightmaruter
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*錦戸先生! 「…つまりここの文法は…」 あー早く終わらないかな。 頬杖をついて外を眺める。 あと20分。 大っ嫌いな英語の時間。 別に英語が嫌いなわけじゃなくて… 「おい!聞いてるんか!」 大きな声に顔を前に向けると、憎っくき英語教師、錦戸が私を睨んでいた。
2017-05-12 19:13:292 はいはい。 『すいませーん。』 ぶすくれた顔で、教科書に身を隠す。 私の天敵。 「ちゃんと聞いとけよ。」 何かと私に絡んでくるあいつが嫌い。 ていうか、ちょっと…いや、かなり女子にモテるからって、調子に乗ってるところが嫌。
2017-05-12 19:13:353 他の先生にすっごく気に入られてて、愛想振りまいてるのもムカつく。 そんな、錦戸先生の嫌いなところをルーズリーフに黙々と書いていた所で、授業の終わりのチャイムが鳴った。 「じゃ、続きはまた明日な。」 今日もやっと1日が終わった。 早く、バスケ部の練習見に行かなきゃ。
2017-05-12 19:13:424 憧れの、横山先輩の姿が見たくて。 私はせっせと帰りの支度をしていた。 そこへ… 「おい。」 呼ばれて見上げると、目の前にヤツが立っていた。 手には、さっき私が書いていたルーズリーフが握られている。 やば… 「え〜…錦戸先生の嫌いなところ…?」
2017-05-12 19:13:525 「…俺めっちゃ嫌われとるやんけ。(笑)」 はい。その通りです。 『で?用はなんですか。』 「今日、お前居残りな。」 ルーズリーフを机にバンッと置きながら、無表情で言う。 『は!?なんで?』 「今週も先週も先々週も、宿題出してへんよな?」 『あっ…』
2017-05-12 19:14:126 「じゃ、待ってんで♡」 わざとらしい笑みを浮かべて、スタスタと去っていく。 錦戸が見えなくなり、私は机に崩れ落ちた。 はぁぁあ… こんな事ならちゃんとやっておくんだった…。 でも成績これ以上落ちたらやばいし… とりあえず行かなきゃか。
2017-05-12 19:14:207 --- 誰もいない視聴覚室。 扉を開けると、そこには錦戸が気怠そうに座っていた。 「遅い。」 『…すいません。』 「さっさと座ってこのプリントやれ。」 嫌味っぽい口調で、プリントを指差した。 …ムカつく。 やればいいんでしょ、やれば。
2017-05-14 02:30:578 無言で錦戸を睨んだ後、大きな音を立てながら席に着いた。 プリントをやる私を、錦戸が前の席に座って満足そうな顔をしながら見ている。 はぁ… 『…あの!』 「なに?」 『気が散るのでどっか行っててもらえませんか?』 「逃げるかもしれへんし、監視せな。」
2017-05-14 02:31:279 『逃げませんから。』 「いや、信用できへんな。」 ほんっとにこいつ… 『…どうしていつも私に絡んでくるんですか?』 「毎回ムキになって可愛いから♡」 『はぁ?』 「ほんまは嬉しいんやろ?俺に構われて。 もっと素直に喜べや。」 意地悪そうな顔でニヤニヤする錦戸。 pic.twitter.com/Gyc0LuAPuM
2017-05-14 02:31:5510 耐えられなくなった私は、シャーペンを乱雑に投げ、バンッと机を叩いて声を張り上げて言った。 『構って欲しくなんかない! 私はあなたが大っっ嫌いなの!』 息を荒くする私をよそに、錦戸は腕を組みながら淡々と答える。 「へぇ〜、強気やんか。 ほんま可愛いヤツ。」
2017-05-14 02:32:2011 そして馬鹿にしたように、ふっと笑った。 「横山くんみたいな人がいい〜♡ やろ?」 なんでそれを… 目を泳がせる私に、錦戸は目を細めながら意地悪く話を続ける。 「生徒のことは何でも知ってんねん。 あいつ彼女おるで。やめとき。」 『…ほっといて。』
2017-05-14 02:32:4212 怒りと何だかわからない感情が込み上げ、私はスカートを強く握りしめる。 『私が誰を好きだろうと、あんたには関係ないでしょ…』 「お〜ぜんっぜん関係ないわ。 でもな、」 すると、いきなり私にグッと近付いて、顎をクイッと持ち上げながら見下したように囁いた。
2017-05-14 02:33:3213 「お前みたいな生徒は、手なずけたくなんねん。」 そしてクスッと微笑む。 『セクハラで訴えますよ?』 「みんなに慕われる俺とお前、 どっちの言う事信じるやろな?」 バッ 唇を噛み締めて、錦戸の手を振り払う。 「なぁ。 賭け、しよや。」 『賭け…?』
2017-05-14 02:34:4514 「一か月前以内にお前が俺に惚れるかどうか。」 何という馬鹿な賭け。 『ふっ…そんなのあり得ない。』 「あり得たら?」 『もし私があなたに惚れるような事があったら… 先生の奴隷にでもなんでもなりますよ。』 絶対にこんな賭け負けるはずない。 私がこいつに惚れる?
2017-05-14 02:35:0815 ないないないない。 「言うたな…? 後悔すんなよ。」 『しませんよ! 絶対に。』 ---- こうして、私はよく意味の分からない賭けに乗ってしまったのです。 この悪魔みたいな錦戸のせいで…。 ほんとにほんとに… 大っっっっっ嫌い!! ---- pic.twitter.com/yd4rzdNLaL
2017-05-14 02:36:0016 --- 錦戸との会話がぐるぐる駆け回る。 頭から離れない。 このムシャクシャした気持ち、どうすればいいの! 髪の毛を掻きむしりながらトボトボ歩いていると、体育館からボールの弾む音がした。 目線をそこに向けると、憧れの横山先輩が、汗を流しながら試合をしている。
2017-05-14 23:20:3017 私が横山先輩を憧れるようになったのは中学の時。 道で転んだ私に、手を差し伸べてくれた。 “血、出てるやん。大丈夫か?” その優しい瞳に吸い込まれそうになり、頷くしかなかった。 “後でちゃんと洗い。 気ぃつけてな。” そして、ポンと頭を触って去っていった彼。
2017-05-14 23:20:5918 その日から私には、横山先輩しか見えなかった。 一目惚れ、というやつだ。 この高校に入ったのも先輩がいるから。 勇気がなくて、バスケ部のマネージャーにはなれなかったけど… ただこうやって、遠くから見てるだけでいい。 そんな事を考えながら、横山先輩を見つめていた。
2017-05-14 23:21:2119 すると、 『あっ…』 ポンッ、ポンッ、ポンッ… 足元を見るとバスケットボールが転がってくる。 それを拾って顔をあげると、 『!!』 目の前に横山先輩が立っていた。 “ごめんなぁ。ありがとう。 あれ?確かキミ、2年の…” 『は、はい!』 嘘…。
2017-05-14 23:22:2420 私のこと、知ってくれてる? 『あの… …ぶ、部活! 頑張ってください! 応援してます…。』 小さな声で言うと、横山先輩は少し照れ臭そうに笑って、 “おう。あ…ボールありがとうな!” と言った。 私は心の中でガッツポーズ。 中学ぶりに、横山先輩と話せた。
2017-05-14 23:23:1721 “あっ!そうや。” 『?』 駆け出した横山先輩が立ち止まり、 “また転ばんようにな!” そしてニヤッと笑った。 私はその後しばらく動けないで、ぼーっとしていた。 今、何が起きたの…? 横山先輩、 私の事覚えてくれたんだ…。 涙が出そうなくらい嬉しかった。
2017-05-14 23:23:3322 --- 「残り20分、自主勉強な。」 翌日。 私は嫌いな英語の授業という事も忘れ、夢見心地でいた。 横山先輩が私を覚えててくれた… それだけで天にも昇るような気持ちだった。 「………おい!」 『いった!』 そんな気持ちも、こいつのせいで無残に崩れ去る。
2017-05-14 23:24:0523 ぼーっとする私の頭に、教科書をぶつける錦戸。 「じ・しゅ・べ・ん! ノートくらい開けや。」 分かってるよ!そんな事。 私は無造作にノートを開き、英語の書き取りを始めた。 すると錦戸が耳元で悪魔のように小声で囁く。 「なんか良い事あったんやろ。」
2017-05-14 23:24:1724 『そ、そんな事ないです。』 「顔に書いてあるで〜。 横山先輩ラブ♡って。」 口角をあげてニヤつく顔をギロッと睨む。 [せんせーい!こっちきて〜] 「質問かー?今行くわ。」 生徒に呼ばれ、ふいっとその場を去る。 あああああ! ムカつくムカつくムカつく!
2017-05-14 23:24:2225 もう錦戸の事を考えるのはやめよう。 時間の無駄。 そう。 大好きな横山先輩の事を考えよう! でも… -- 「あいつ彼女おるで。やめとき。」 -- そうアイツは言ってた。 本当に彼女とか…いるのかな。 心のモヤモヤして、私はバシャバシャッと水で顔を洗った。
2017-05-15 01:19:08