不知火に落ち度はない ５２（浜風）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「あの、そういうんじゃなくて……別にいいもの食べてないとかそういうんじゃ……あ、いえ、贅沢してるわけじゃなくって…」 おう、わかる。自分が思ってたよりも、テンション上がりすぎたんだよな。 心のセーフゾーンを美味に壊されただけなんだよな。 #不知火に落ち度はない

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しかし、冷静になって考えておくれ浜風。 今俺が食ってるのはラーメンで、お前が食ってるのもラーメンだ。 庶民派代表の食い物であるので、そこまでテンション上がったことを恥じらわんでも。 #不知火に落ち度はない

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や、ちょいテンション上がりすぎると恥ずかしいけどな。 俺も素に帰って恥ずかしいことはあるけどな。 「じゃ、そんなに気に入ったんなら交換すっか」 「ふぇ？……あ、ちょ、ちょっと！？ いえ、嬉しいですけど！ ですけど！」 浜風が抗議するが放置である。 #不知火に落ち度はない

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「気に入った方を食えよ。俺はこっちもらうからさ」 ずるると、麺をすすりつつ、つくねを一口。 お、つくねいっぺん焼いてるのか。香ばしくていいな。 「あ、ちょ、ひょ、兵頭さん！？」 「お、悪い。もしかしてこれとっときだった？」 それなら悪いことをした。 #不知火に落ち度はない

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「あ、あの。いえ。そ、それ、食べさし……なんです、けど……」 「おう。気にならんぞ。俺のも食べさしだろ？」 「……あ──」 おや。浜風君や。 なんでまたタコみたくなってしまわれましたか。 ぶつぶつと、いやでもキスしたことあるしとか聞こえるけどさ。 #不知火に落ち度はない

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「まあ、もちつけ。口移ししてるわけでもないし」 「……もしかして、楽しんでますね……？」 うん。わりと。 浜風の防御力、なんか今日は下がってるご様子ですし。 ここでちょびっとからかっておけば、今後のカードになるし。 あと新鮮だからな。純粋に。 #不知火に落ち度はない

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「あとで覚えておいてくださいね……」 「あと3分で忘れるから早めにな」 頬を膨らませる浜風をひとしきりからかって、俺は普段のストレスを若干解消したわけだが。 #不知火に落ち度はない

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──それが間違っていたと知ったのは、それから数分後のことなわけで。 「はい。どうぞ兵頭さん。あーん❤」 「……」 すっげえ笑顔の浜風が、最高に楽しそうにスプーンを差し出してくる。 浜風くんや。そう身を乗り出すと谷間が見えますぞ。 #不知火に落ち度はない

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「いや。お前の買った分だし、自分で食べるといいぞ」 「これ兵頭さんの分ですから❤」 マジですか。 そのボリュームちょっと多めのアイスを、ちまちま全部食うわけ？ 「スプーンくれ。一気食いするからさ」 「だ・め・で・す❤」 あ、これ怒りモードだ。 #不知火に落ち度はない

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「もしかして恥ずかしいんですか？ そんなわけないですよね❤」 「浜風くんや。お前わかって楽しんでるだろ」 おじさんを世間体という縄で縛っての遊びとは、なかなかたちが悪いぞ。 「何のことかわかりません❤」 確信犯の笑顔である。 #不知火に落ち度はない

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「お前ね。あんまりおじさんからかってると、後が怖いですよ」 「どう怖いか教えてくれます？ 兵頭さん？」 にっこにこしておられる。 すっごいにっこにこしておられる。 さらにいるならSAの客がこっち超見てる。 あの、これ空気としてもつらいんですけどさ。 #不知火に落ち度はない

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んじゃ。しかたあるまい。 「俺雪見だいふく好きなんだけどさ」 「え？」 ぱちくり、と唐突な言葉に浜風が止まる。 「浜風は雪見だいふくって知ってる？ あのコンビニであるやつ」 「は、はい。あのお餅に入ってるアイスですよね？」 #不知火に落ち度はない

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「垂らすとよく似てるよな」 「垂らす？ 似てる？」 首をこくんと傾け、まだ分かっておられない様子。 「大福は二つあるし、丁度」 「まあ、二つありますけど」 眉間に皺を寄せて、考える浜風。 #不知火に落ち度はない

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「俺、アレ舐めながら溶かして食うの好きなんだ。ちょっと品がないけどさ」 「……舐めて溶かして？ ……え」 お。引っかかったな。 「そういうアイスの食い方、するか？」 「ちょ、ちょ！？ も、もしかして！？」 おし。ばっちり意図が伝わったらしい。 #不知火に落ち度はない

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「だ、だめですからね？！ そういうのココじゃダメですからね！？」 「俺、そう言う食い方したいなー」 胸の谷間を隠しながら、浜風が少し距離を開けた。 だがもう遅いのですよ、浜風くん。 「待ってください！ ストップ！！」 #不知火に落ち度はない

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顔を真っ赤にし、大きく両手を前に突き出してNoの姿勢を取る浜風。 俺はその隙を突いて、スプーンをすっと奪い、アイスに刺し直す。 「じゃ、それ俺は食べないから一人で食べてくれ、浜風」 「え……？」 ぱくぱくと、何か言いたそうな口はまず放置。 #不知火に落ち度はない

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「どうしても食べさせたいなら、次は雪見だいふくで頼むわ」 「……っっ～つつっ！！」 浜風ン中では、どんなビジュアルがかんでるかは謎だが。 ろくでもないことが思い至ったのは、想像に難くない。 #不知火に落ち度はない

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「じゃ、ごゆっくりどうぞ。浜風くん」 ウインクなどして、どうぞと促す。 浜風は恨みがましく俺を見上げて、ぽそっと呟く。 「兵頭さんのえっち」 失敬な。 俺を聖人君子と思ってたのか。 悪いが俺はもともとスケベですから。 #不知火に落ち度はない

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そうして、俺は。 浜風が黙々とアイスを食う姿を眺めて、時間つぶしをすることにしたのであった。 その間、浜風は俺に何も話しかけては来なかったという。 雪見だいふくが好きだつっただけなのにな。 まだまだ、俺をハメるにゃ、経験がたりんわな。 #不知火に落ち度はない

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さりげない勝利の味は、どうやら後の移動時間に影響を及ぼしてくれたようである。 運転中浜風はほぼ沈黙し、時折方向を言うだけとなっていた。 ラジオは盆の交通情報を伝え、今の俺が向かう方向には帰省する人間は居ないと仰ってる。 そりゃそうだろな。 #不知火に落ち度はない

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なにせ、俺の向かってるのは一度避難命令が発令され、人がごっそり退避した地域だ。 今じゃ愛着のある地元住民と、移動する術のないご老人ぐらいしか居ない。 既に俺達軍が取り返した場所だが、そこに人が帰るのはまだ先のようだった。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その海岸線にはかつて防衛兵器や、臨時の軍施設などが据え付けられていたが、今では幾つかを除いて撤去されている。 元から少しばかり寂れかかっていた田舎町は、こうしてトドメを喰らって過疎化したわけだ。 これも戦争の爪痕と言えるだろう。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

もち、まだ戦争は終わってねえけどな。 おかげで、日本各地にはこうして今でも、人口集中と過疎化する土地が生まれている。 集中した区域には重点的に軍施設が配備され、そこで連中を押し返す。 産業もそこを中心として発展するわけだ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

それで懐がふくれる地域もあり、そうでない地域も生まれる。 俺達軍の課題は、深海棲艦の脅威を打ち払うことだが、政府の課題はこの状況から復興することなのである。 彼らは、俺達よりずっと長い戦いを強いられることになりそうだった。 #不知火に落ち度はない