不知火に落ち度はない ５２（浜風）

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

浜風が何故、そこに向かうのか。 予想は付いてたが、口にするのもなんかな、とは俺がいるわけで。 そうして俺の私用車は、法定速度を軽くオーバーしたまま高速道を突っ走っておいでなのである。 いつもはすぐ軍務に行けるよう軍用車だが、今日は速度が要ったんでな。 #不知火に落ち度はない

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それにまあ、『浜風の帰省』に軍用車で乗り付ける無粋もあるまいて。 俺は運転手に徹し、足代わりになるのが仕事だ。 浜風を目的地まで運んだ後は、寂れたパチ屋でちょっとばかり時間を潰すとしようか。 #不知火に落ち度はない

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そうして、車がインターチェンジを降りたあたりで、浜風の目が少し変わる。 「あ……こっち側、こんな風になってたんだ」 浜風の目に映るのは、大型ショッピングモールの案内看板。 最近出来たものらしく、でかでかと駐車場の広さを謳っていた。 #不知火に落ち度はない

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「そいや、いつもは電車なんだってな」 「はい。1時間に1本しかない電車で中心地に行って、そこからは2時間に1本しかないバスに乗ってたんです」 うし。返事が普通になってる。 「基本田舎は車社会だもんな」 「そうなんです。免許取ろうっていつも思ってます」 #不知火に落ち度はない

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かくいう俺の田舎も、車社会って言えば車社会だ。 湾岸近辺ならともかく、あのへんじゃ歩いて駅まで向かうのは正気を疑われる行為だしな。 「免許取りたきゃ指導してくれるの一杯いるからな」 「神通教官ですか？」 うむ。神通もそいや指導枠に居たな。 #不知火に落ち度はない

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「ちなみに那珂ちゃんがわりと教え方上手いぞ」 「……え？」 あ、やっぱ驚いたか。 「知らんのか。那珂ちゃん補給任務とかよくやるし、大型免許持ってるんだぞ」 「冗談ですよね！？」 どうやらうちの基地祭のメイン輸送班を知らんと見える。 #不知火に落ち度はない

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「航空機はともかく、ヘリぐらいは乗れるんじゃないかな、那珂ちゃん」 「……あの、兵頭さん？ 那珂さんってどんな任務をしてたんです？」 「ウチ来る前は方々で作戦の調達役とまとめ役してたぽい」 アイドルはなんでも『やる』のが仕事だと申しておられるんだ。 #不知火に落ち度はない

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そりゃ俺もびっくらこいたよ？ フォークリフトを普通に運転したり、クレーン使って運搬する那珂ちゃんとかさ。 川内型三姉妹で一番重機使えるの那珂ちゃんだしさ。 ぶっちゃけ軍辞めても、普通に免許だけで仕事つける那珂ちゃんだしさ。 #不知火に落ち度はない

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「もう、なんて言って良いかわからないんですけど……」 「那珂ちゃんは意外と頼れるんで、頼って良いぞ」 ただし、お前のステージ衣装が用意されて十七駆バックダンサーにされたり、アイドルユニットデビューが決定されても、俺は一切知らなかったと証言するけどな。 #不知火に落ち度はない

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「でもって浜風さんや。お前さんの故郷はどっち方向？」 「あ。そっちの国道を──って兵頭さん！？ 今何って言いました？」 「うん。お前さんの生まれ故郷どっちだって」 目を白黒させながら言う浜風が居るが、さすがにおじさんを侮りすぎではないでしょうか。 #不知火に落ち度はない

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「……あう。バレてたんですか」 「うん。つか、過疎地域に行くってことは、それがまず最初に出るだろ？」 「あの……いえ、えっと。あまりですね、深い意味は」 「知ってる。内緒にしてたっつーことは、個人情報もあるからな」 ただま、一応口には出しておかんと。 #不知火に落ち度はない

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「……その、すみません。最初に言うべきでした」 「俺も聞くべきだったし、お互い様だって。駅で降ろしたら適当に時間潰してるから、戻りたくなったら連絡頼むな」 「……あ、はい」 と、浜風は頷きかけ──そして。 #不知火に落ち度はない

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「ところで──言いにくいですけど、近所にパチンコ屋ないですよ？」 「え。ないの？」 ここで明かされる新情報。 「さらに言うなら唯一残ってた喫茶店は去年閉まりましたし」 「うっそ。コンビニあるよな？」 「一軒だけ。おばあちゃんたちの集会所ですけど」 #不知火に落ち度はない

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「あと、お酒あるのもそのコンビニぐらいで、他は全部隣町のスーパーが支えてます」 「運転してるから酒はいいけど、陸の孤島じゃねえか」 「谷風がそう言ってました、一昨年」 「過疎こええ。マジでこええ」 おじさんの時間つぶしスポットが皆殺しにされましたよ？ #不知火に落ち度はない

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「と、いうわけで案内しますから、一緒に回りませんか？」 「選択の余地がないっていう素敵な提案をありがと浜風」 これは俺のミスだしな。まさかそこまで過疎が進んでたとは。 「でもそれ、住民の方々は不便じゃないのか？」 「スーパー名物の配達があるんです」 #不知火に落ち度はない

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なるほど。買い物はチラシで済み、遊興施設は必要なく、か。 「ちなみに小学校はもうないとか？」 「幼稚園、小学校、中学校と高校まで含めて全部廃校済みです」 徹底的に子供の居るご家庭が暮らす余地ないな、それ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

どっかの議員も言ってたな。地方再建は単なるテーマではなく、絶対必要な条件なのだと。 車が進むにつれて、徐々に人気の無くなっていく住宅地や、荒れ果てた田んぼが目に入ってくると、それは現実だと教えられる。 ここの土地はもう、死にかかってるのだと。 #不知火に落ち度はない

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「と、言っても寄るところもほとんど無いから、帰りは隣町のスーパーに寄り道しません？」 「急に主婦臭出てきたな浜風」 こんな状況下で急に頼もしさを出してくださる。 「主婦じゃないですけどね？！」 「ああ。魂に刻まれた主婦スキルが出ただけだもんな」 #不知火に落ち度はない

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「そんなに主婦主婦って言うなら、誰か貰ってくれませんか？」 「それ、工廠課の連中に言うと大盛り上がりで殺人事件が起きるぞ」 なお、それでまだ手ぬるい方。 浦風と磯風が言ったら、殺人事件ではなく聖杯戦争が起きる。 宝具としてガスバーナーとか出ちゃう。 #不知火に落ち度はない

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「兵頭さーん？」 「腕つつくのやめようぜ。手元が狂う」 だめだ、スルースキルは無効化された。 「誰か、貰って、くれませんか？」 「俺の友達は期待するな。嫁もちか彼女居なくても生きてける奴ばっかだし」 モグリはその典型だしな。 #不知火に落ち度はない

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「そろそろはっきりした方がいいですよー？」 「それについては後日じっくり話し合うのがいんじゃないかなーっておじさん思うの」 じとーと、湿度高めな目線をこちらに向けておいでな浜風がおられる。 お盆の空気と合わせて、すっごい蒸し暑さがでてきてしまう。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「浜風、エアコンちょい強くしていい？」 「だめです。凍死しますから」 ブッブ－と×マークをしつつ、俺にぺたぺたと触れてくる。 浜風の体温が低めなのもあってか、ひんやり気持ちよくはあるのだが。 いかんせん俺の体温は高い目なので、エアコン様が必需品なのだ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「俺が熱中症で死んだときは、犯人浜風になるんだぞ。ぽちっとな」 「手で冷やしてあげます。えい」 そうして、室内エアコンオンオフ戦争が始まってしまったのである。 設定を28度以下にさせない浜風と、25度以上はキツい俺の妥協無き戦いであった。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうしてさんざんエアコンの設定温度を操作する遊びを終えて、一段落。 俺も浜風も微妙に疲れたあたりで、車はようやっと目的地に着いた。 それでやっと、浜風が帰り着く場所がどこであるかを、俺は知ってしまったわけである。 予想出来てたわけではあるんだが。 #不知火に落ち度はない