不知火に落ち度はない 52(浜風)

前 不知火に落ち度はない 51(不知火&嵐) http://togetter.com/li/998445 次 不知火に落ち度はない 53(加賀) https://togetter.com/edit/1118841 続きを読む
7
前へ 1 ・・ 3 4 ・・ 8 次へ
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「浜風、俺駐車場で待ってた方がいい?」 「兵頭さん、来たそうな顔してますけど」 「おう。浜風のばーちゃんにちょっと挨拶させてくんねえか?」 「それはおまかせします。喜びますよ、きっと」 浜風は詰んであった菓子を持って、車から降りた。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:02:10
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そこは見渡す限りに石造りのオブジェが飾られた場所。 そのオブジェにはそれぞれ、名前が入っていて。 入り口の看板には『霊園』との文字が刻まれている。 そう、浜風の来たかった場所は、この共同墓地なのだ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:05:17
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そして、浜風は手にお供えの菓子と献花を持ち、俺は手桶と線香を持ってその後に続く。 この中の何人が、普通に天寿を迎え、何人が犠牲者だったかは、わからない。 「浜風。ばあちゃんはもしかして──」 「普通にお迎えが来てます。ご心配なく」 そっか。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:08:14
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「私が中学のころ、お迎えが来たんです。こんな夏の日でした」 「そっか……大変だったな」 「ええ、ちょっとだけ。身寄りは、おばあちゃんしかいませんでしたから」 それも予想はついてた。 そも、浜風は『しっかり愛されて育った』とわかる子だ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:12:16
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そんなお子さんを、軍に預け艦娘にするなんてのは、まずあり得ない。 きっとご存命なら、ばーちゃんは猛反対しておられることだろう。 浜風が軍に来た理由を考えれば、そこが失われたから、としか思えないのだ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:15:05
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あと、両親について深く聞いたことはないが、浜風の会話に一切出てこないことを考えると──多分他界した、って話じゃない。 他界したなら時折会話の端ぐらいには上るしな。 多分、ばーちゃんが親代わりで、親戚も浜風を相手にしなかったんだろう。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:18:38
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

理由を考えるが──まあ、それは詮ないことだろう。 浜風が艦娘になった理由は、他に縁が無かったから。 これ以上のことを探るわけにもいくまいて。 「ここです。兵頭さん」 「お──」 浜風の声で、思考を中断する。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:21:58
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

見上げると、そこには──霧原家、との名前が書いてあった。 霧原、ね。もしかして本名は霧原里美と言うまいね? 「浜風。本名書かれてんぞ?」 「大丈夫、私おばあちゃんと別性なんです」 あちゃー。 突っ込んで聞いたのまずかったな、それ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:26:30
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「でも、いつか霧原って名字に変えるつもりです」 「そっか。──ってそれ俺に教えちゃまずかろうに」 ばーちゃんは喜ぶけどな。 「そのうち兵頭って名字になるから問題ないです」 「ばーちゃんの前でなんてこと申してますか」 ばーちゃんが祟りに来てしまう。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 11:31:08
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「んじゃ、掃除するか。浜風、草引きの準備は」 「勿論万全です」 ポッケからいつもの手袋が顔を出す。 それって戦闘用じゃなかったっけか、とのツッコミは野暮だろう。 墓って気づくと草が周囲に生えまくってることがあるんだよ。 ここもそうなわけである。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 13:35:18
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

特にここいらの草は、掃除する人間があまりいないのか生え放題だしな。 管理する人間が相当少ないんだろう。 おかげで草引き放題で、ちょっぴりオシャレな浜風の洋服姿が作業着に見えてきてしまったりする。 俺? 勿論いつものアロハです。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 13:37:33
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

そうして草を引いて、墓に水をかけてお手入れ完了。 花壇には新しい花が入り、お供え物として菓子──というか甘食が捧げられ、盆の墓参りの装い完了である。 「その唐饅頭、もしかしてばあちゃんの好物?」 「私の好物です」 意外と肉親に遠慮ないな浜風?! #不知火に落ち度はない

2016-10-15 13:45:47
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あとは線香を添え、手を合わせてのご挨拶。 お隣では浜風が目を閉じて、何か近況を報告してるのだろうか。 さて、ちょっとだけすまん浜風。 ばーちゃんに挨拶させて貰うとするわ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 13:47:43
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「えー。霧原さん、どうも初めまして。海軍で大佐やっとります兵頭と言います」 「……え?」 浜風が隣で顔を上げた。 「本来なら軍服で顔を出すべき何でしょうが、他の皆様のご迷惑にもなりますんで、私服で顔を出すことをご容赦ください」 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 13:54:40
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「お孫さんには日頃から世話になっており、常に感謝しております。本来ならば──」 ここからは俺の本音の部分。 「本来ならば、私達軍人が真っ向から戦うべきなんですが。申し訳ない、現状彼女らに頼らなければまともに戦えないのが現実です」 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:03:19
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

俺達が向かえば、ほぼ無駄死にする。 だが、艦娘ならば戦える。 だが、だからといってそれを正当化できるわけじゃない。 正規軍人の枠に入ってるが、ならざるを得ない人間がほとんどだ。 ──というか、長門のように望んで飛び込んだ奴はそうそう居ないだろ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:07:11
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「訓練はします。後方支援もします。護衛も勿論やります。ただ、それだけじゃ済まないってお気持ちもあるでしょう」 俺がもし親だとして。 娘が艦娘になったと考えたら、まず、ざけんなの一言である。 安全に帰れる保証のない『戦争の主力兵器』にされるんだからな。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:10:45
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ですので、軍ではなく兵頭一也一個人としてお約束します」 軍でそれが出来るか、と言われたら正直な話、どうかねって思うところがある。 現状、艦娘は深海棲艦側に有効な兵器であるが、連中がそこを打開しないと言う考えは楽観が過ぎる。 戦況は常に変わるもんだ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:17:31
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「お孫さんはどんな状況でも必ず無事に帰還させます。毎年ここに来られるように」 それぐらいは、誠意として言わねばならん。 それが俺がやるべき最低限のラインだ。 クソッタレな特攻任務が来やがったら、そいつを蹴飛ばすぐらいやらんとダメだ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:22:42
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ですからどうか、お孫さんを見守ってやってください。無事帰って来たらねぎらってやってください」 どうかお願いします、と手を合わせて祈る。 浜風の本当に帰る場所は、多分ここだろうから。 じゃなきゃ、ここまで足を運んだりしないしな。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:31:41
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「それでは、失礼しました。あとはお孫さんと話してやってください」 そうして、墓に刻まれた名前に頭を下げた。 浜風が盆に返ると言いだしたときから、これだけはやっときたかったのだ。 そうしなきゃ、指揮官として申し訳が立たないからな。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:33:43
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

さて、と。俺の用は済んだから、速やかに撤収しよう。 家族の時間を邪魔する権利は、俺にはないのだから。 「どこ行くんですか? 兵頭さん」 「車。戻ってきたら出られるようにしとくからさ」 ばーちゃんに報告があるだろ? 浜風。 じっくり話してこいよ。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:36:23
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「ダメですよ?」 浜風がそう言うと、腕にもっふりとした感触が来る。 うん。腕を思いっきり抱えられておりますなう。 「私も今ので、おばあちゃんに報告すること、できましたから」 浜風がすごい良い笑顔で言う。 近年まれに見る浜風スマイルの極上版である。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:40:55
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「いや、邪魔するわけには行きませんでしょうそれなら余計に」 「兵頭さんも関わることなんですから、ちゃんとここに居てください!」 ぎゅーっと思いっきり腕を圧迫されて谷間から腕が生えてるみたいになってる。 浜風のボリュームは日々成長してるんだな。マジで。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:43:54
不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「いやいや、俺は遠慮しておくっつーかばーちゃんが何事かと思ってるぞナウ」 「それなら立ち止まって大人しくしてください!!」 ざりざりと引きずりながらの光景ですなう。 浜風は体重結構軽いはずなんだけど、低重心を意識すると途端に重たくなるみたいである。 #不知火に落ち度はない

2016-10-15 14:49:44
前へ 1 ・・ 3 4 ・・ 8 次へ