【風やナイフのように】福間健二 #k2fact154
風は礼儀正しくない。ぼくもそうだ。ナイフは威力あったりなかったり。ぼくも得意な場所や苦手な場所があるけど、スープはどこで出されても飲みほす。そのぼくを飲む群集のなかに佐藤泰志やドゥルーズがよみがえる。そういう新宿、苦手でも得意でもない。(風やナイフのように1)#k2fact154
2016-10-03 17:35:38風はつねに変化している。街の印象も刻々と変わる。いまは寛容さの靖国通り。近ごろ用があるのは博多天神とテアトル新宿と銀河系だけ。ラーメン、映画、今泉くん。風に運ばれるのではなく突き刺さること。目を避ける種族が育てる葡萄を食べすぎないこと。(風やナイフのように2)#k2fact154
2016-10-04 18:47:22紙、布、厚みのないものを動かしながら、風も物思いにふける。一瞬、微笑みと息を感じた。なにか言った。あかないもの。それがあいても、ルーティンの、つながりかけてつながらない孤独と孤独。破って、帰らない。あらしと黒い死の声が待つ「本土」には。(風やナイフのように3)#k2fact154
2016-10-05 11:07:56一九七三年、ぼくは佐藤泰志に出会い、ボブ・ディランに夢中で、好きな作家は「風の友」の丸山健二。きょう、テアトル新宿から地上に出る単純な理由の階段を駆けあがって、あのころ吹いていた風に吹かれる。これはよくない思いつきだ。何を落としたのか?(風やナイフのように3)#k2fact154
2016-10-06 20:14:08境界線の長所としての、トゲ。必死さのわかる、防湿。何も混ぜていない。セッちゃんたち、代表作のない三人の小川さんが歩いてきたデルタの、涼しい風。それが作るさざなみを思う。そのさざなみもぼくのことを思ってくれたらいいと願うナイフを光らせて。(風やナイフのように4)#k2fact154
2016-10-07 12:04:58拭えないもの。五十八年目の錆びたナイフについた泡の跡。切るべきもの。パプリカ色の髪。甘い夜を「アメリカの夜」で作ってハラハラするようなことだ。ここに、ふたつの死体。目的を風に言って蘇生させる。火を呼吸させない。よくしゃべるゲストにする。(風やナイフのように5)#k2fact154
2016-10-09 16:11:13月明かりで読む赤い文字のリクエスト。ひとつ捨ててふたつ拾う。では、滑り摩擦でよく切れるようになった彼女たち。北ではどんな名前の横で休み、南ではどんな男たちを林に誘いだして脅したのか。小屋の裏で陽気に語り、交差点への恨みは忘れましたとさ。(風やナイフのように6)#k2fact154
2016-10-10 12:46:33小屋の裏、針金と杭が使われずにおいてある崖下。「忘れました」。忘れていない。マッチの火と二十世紀が懐かしい。生物学といきおいづく風が敵。新宿が恋しい。どれも垢抜けない感じ方だ。KK、日本では株式会社。スロヴェニアではおいしいソーセージ。(風やナイフのように7)#k2fact154
2016-10-11 11:02:48そしてそこでは切って叩く。knifeとknock。ひどいことをされた者がひどいことをするだけのシステム。草や木にまでイティヴかどうかにこだわる最悪の感じ方が山々の影を窒息させる。自分が窒息しろよ。「忘れました」で終われない擬態の十月だ。(風やナイフのように8)#k2fact154
2016-10-12 10:17:40アドルフを何度も殺した? 油断するな、彼に手紙を書く者たちが彼を縮小して生かしている。シネマ通り、不完全な空白。ぼくはヨシフの孫娘に手紙を書いた。父親を批判して生きのびたSの娘。混線大好き。最近は自粛して麗しき「無」を育てているってさ。(風やナイフのように9)#k2fact154
2016-10-13 11:25:02風やナイフのように「事実」を信じない。そこからだった。いつまでも遠雷にドキドキしなくてはならないこの喜劇。ゴールじゃないけど、愛想のない生産者が最後の鎖を解いてるよ。ディラン、傲慢さと謙虚さの両方をもって生き抜くきみの声を聴きながら。(風やナイフのように10)#k2fact154
2016-10-15 10:39:28【訂正】 風やナイフのように「事実」を信じない。そこからだった。→ 「事実」を信じない。風やナイフが信じないように。そこからだ。 (風やナイフのように10)#k2fact154
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