【紫、雨でなくても】福間健二 #k2fact143

厚いやつ、薄いやつ、不揃いに切ったパンにバターを塗りながら、鳥たちを見ていた。鳥たちは地面の虫を探している。ぼくも土の匂いをかぐ。大きな湖の近くの、崖下のキッチン。奪う。あたえる。何十回もお返しのキスをして世界は紫になる。雨でなくても。(紫、雨でなくても1)#k2fact143
2016-05-01 12:38:25
移ってくる熱を、構成的に、眠る石で受けた。隣の、夜起きている人の首を絞めたくならないように、右手と左手に議論をさせる。とんちんかん、なんでもいいから一歩出たい開拓者と再会しないための、遠まわりの散歩。カサブランカ、高いから買わなかった。(紫、雨でなくても2)#k2fact143
2016-05-02 10:28:15
カサブランカ、大好きだからつい買ってしまうとSが言うのを聞いていて、ふと影を入れかえたくなってぼくは花屋でその白いユリを見た。素直な人だね。そう言われたの、初めて。でもないか。構成は、人生が決める。選択じゃない。Sは元気に荒稼ぎしている。(紫、雨でなくても3)#k2fact143
2016-05-03 08:12:41
人生。嵐が運んできたポリバケツ。よく洗って、不安な雲が入らないように存在の音を鳴らす。ここじゃない。いまじゃない。半身はそう歌いながら、開拓も強盗も心中も二人ですることは未遂に終わり、気がつくたびに組み合わせの変わるサラダができている。(紫、雨でなくても4)#k2fact143
2016-05-04 08:59:28
だれの死んだ目だ。キッチン、使ったナイフの汚れ、若い崖への視線。普通以上に食べたあとに不満を言うな、か。見抜かれている。Sの着たかった紫のトップス。外階段で生まれた「思想」に許される限界ぎりぎりの可愛い「事実」とおなじロープに干してある。(紫、雨でなくても5)#k2fact143
2016-05-05 07:49:46
リアーナの懐かしい曲がかかって。胸と胸、鼻と鼻、くっつけあって。手段はどうでも、頭脳の訂正装置。分類しやすい小さなまとまりになるのに苦労したいわけじゃないよ。何を望む。滅亡を先取りして踊る芸人、夢でもいいからだれかの命の恩人になりたい。(紫、雨でなくても6)#k2fact143
2016-05-06 11:13:36
未接続に悩むよりは紛いものでオーケーの、トーキョーの夢。41階から見る夜景と「したいことがある」の、せつない合成。その中にいて畏縮しないこと。面会室で泣かないこと。でも、何人もの紫に染まること。痛くてもね、はがれにくい移民の歌を盗むのだ。(紫、雨でなくても7)#k2fact143
2016-05-07 09:33:01
そのために迷ったのではないが、これはプリンスを追悼する群れに会う迂回だ。当たり前のことを言う「紫の雨」に色褪せた美貌を洗う者、ラップを加えて悲しみから逃れる者。ごめん、紫の好きなSもそれほどじゃないぼくもそんな冷却には免疫ができている。(紫、雨でなくても8)#k2fact143
2016-05-08 09:02:47
賢くあきらめてるきみにただの趣味だと片付けさせないロックンロール。彼はそれだった。頭悪すぎてズルイぼくが原因と結果をさかさまにしたへんてこりんな模様を売ったりしていない惑星の、五月。二番目に簡単な美しさ、白いシャツとデニムで、人生に戻る。(紫、雨でなくても9)#k2fact143
2016-05-09 08:31:01
質問しかけると飛び立ってしまう鳥たち。空中にも虫がいるのだ。憐れんでどうなる。本当はあきらめてないし、頭悪すぎもしない人間様。突然じゃない行き止まりと引き返せない紫の世界のあいだで食べごろのSとぼく。管理人をやめた藤本さん、どうしてる?(紫、雨でなくても10)#k2fact143
2016-05-10 13:20:11