#ダークエルフ王国見聞録　その５

へどばん👊🏽皇牙組 @Ero_Thrasher

「ねー、姉上、遊ぼうよー、退屈だよー」 「私は仕事で手が離せぬのだぞ。そこの暇そうな学士殿に付き合って貰え」 外で遊べぬ退屈を紛らわすためか、女戦士の妹が何かしらの玩具を女戦士の前に差し出すが、断られ不承不承ではあるが今度は私の座る机の前に持ってくる #ダークエルフ王国見聞録

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“遊び”というものは文化・習俗を研究する上で非常に重要なものである。ダークエルフの子らの遊びの内容が私は気になり、筆を止めて彼女に付き合うこととした。 「んー、じゃあ、センセイでもいいや」 穴が幾つか2列に掘られた木板と様々な色の小石が用意されている #ダークエルフ王国見聞録

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おそらく我々人間がマンカラと呼ぶボードゲームであろう、穴の中に置かれた石を定まった様式で移動していき、獲得した石の数を競う遊びである。地域によって様々なルールがある遊戯板であるため、ダークエルフの少女が説明するルールを拝聴することとする。 #ダークエルフ王国見聞録

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実際に遊んでみると、石のすべすべとした手触りが心地よさ、石を木製の遊戯板に落とした際の乾いた音も魅力的で、また対面の少女が何を考えているか推察しながらこちらの手を作っていくことが面白い。単純ではあるが、運の要素がない、思考力を要するゲームである #ダークエルフ王国見聞録

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いつの間にか仕事の手を休めて、女戦士が私の隣に座って遊戯板を眺めている。彼女にこのゲームは一般的なのかを尋ねる 「そうだな、子供から大人までやるものだと思うぞ。聞いた話では、王族方や貴族様などは螺鈿が施された遊戯板で翡翠や珊瑚、瑪瑙を石に用いるそうだ」 #ダークエルフ王国見聞録

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続けて彼女に何か他のゲームはしないのか聞いてみる 「他にこのような遊戯か・・・そうだな、軍務に付いていた頃、サイコロを振って木札を取る遊戯があったな。持ってこよう」 女戦士が席を立ち、柳行李を棚から下げてその中をごそごそと漁り出す #ダークエルフ王国見聞録

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彼女が取り出した皮袋の中から、１から５までの目と魚が彫り込まれたいくつかの賽子、個々に異なる数字と異なる数の魚が彫り込まれた多数の牌を机の上に並べる 「この賽子を振っていき、魚の目を確保すれば、他の確保した目の合計数以下の牌が取れる」 女戦士が説明する #ダークエルフ王国見聞録

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「賽子を振って魚の目を確保できなかったり、合計値が場にある牌の数字を上回らなかったりしたならば牌は取れず、牌を場から一枚取り除く。取った牌は自分の前に重ねていく。数字がぴったりならば他人の最上にある牌を取ってもよい。これを場の牌がなくなるまで続ける」 #ダークエルフ王国見聞録

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姉妹と私の3人でこのゲームを遊んでみると、賽子の目をどう確保していくかというシンプルなルールだが、運任せの部分もあって面白い。人間でもそうであろうが、兵は賭け事などで、運の要素があるものを好むのであろう。牛骨であろうか、白い牌に刻まれた魚の絵も美しい。 #ダークエルフ王国見聞録

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このゲームをしているうちにだいぶ時間がたったのであろうか、女戦士の母が昼ご飯を木皿に盛って机の上に持ってくる。今日の昼飯は、栗の粉と小麦粉を練り上げ、固めたものを揚げて溶かしたチーズをかけた揚げポレンタ、茸のスープに切ったリンゴである。 #ダークエルフ王国見聞録

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「こんな天気ですし、ご飯を食べたらしばらくは皆でこの遊戯をして過ごしましょうか。その代わり、二人とも後でちゃんと仕事をしなさいね」 ダークエルフの女主人はそう言いながら、微笑んで木皿と遊戯板が並べられた席につくのであった #ダークエルフ王国見聞録

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秋も深まった晴天の下、ダークエルフの女戦士と私は里の環濠から出て、胡桃や栗の樹園、蕎麦畑の合間にある草地に向かった。里からは他にも箙を背負ったダークエルフの女性達が集まっている。少女から大人まで彼女達の年齢は様々である #ダークエルフ王国見聞録

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「今日は鳥撃ちの大会でな。この季節、普段なら鴨撃ちや鷹撃ちの季節であるが、今日は遊びのようなものだ。この辺りの野や山で鶫（ツグミ）や茶鶫（チャジナイ）を撃って数を競う。」 女戦士はそう説明する #ダークエルフ王国見聞録

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女戦士は背負った箙から１本の矢を抜き出す。先端は丸く削られているが、手渡された矢を持ってみると先端を中心にそれなりに重い 「帽錘矢といってな、先端から軸内に鉛の錘を打ってある。鉄や石の矢尻では小鳥の体をバラバラにしてしまうからな」 #ダークエルフ王国見聞録

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「むろん、どんな鳥であっても正確に射抜くには鍛錬が必要であるが、鶫くらいの大きさで動きが素早い獲物はよい鍛錬になる。年若い子らにも弓の練習を兼ねて、この遊びに参加させるのだ。学士殿も見学だけでなく、参加してみるか？」 #ダークエルフ王国見聞録

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秋に渡来してくる鶫や茶鶫の類は、枝にも止まるが、地面で餌を探していることも多い。ダークエルフ達がこの遊戯に鉄や石の鏃を使用しないのは、矢を地面で痛めることを避けるためでもあろう。とは言え、あのような大きさの鳥を射るとは、さすがダークエルフの弓使いである #ダークエルフ王国見聞録

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広間に集まった狩人達に、村長が夕刻までの刻限と今回の狩場の範囲を説明し、行商人から購入した葡萄酒の樽酒や取っておいた上等な矢羽、香木といった大会の賞品を皆に示す。子供たちには大人と別に菓子や玩具の賞品が用意されているそうだ #ダークエルフ王国見聞録

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私も女戦士の母である女家長に借りてきた短弓を形ばかりに持って、女戦士に付いて山裾の農耕地や草地を歩く。貫通する鏃ではないとはいえ、私の腕では外した矢を他の参加者に当てないかの方が心配である。 #ダークエルフ王国見聞録

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畑の横の茂みから「ツィーツィー」といった鶫の地鳴きが聞こえ、ガサガサと枯葉をかき分ける音もしている。 「よし、じっとして待っていれば顔を出すぞ」 膝立ちの姿勢で矢をつがえた弓を構える女戦士。その顔は凛々しくも楽しげである #ダークエルフ王国見聞録

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茂みから白い眉班のある顔を出した鶫がこちらに気付き、キッと警戒音を出して飛び上がろうとする瞬間、女戦士の放つ風の加護を受けた矢が首を直撃し、その衝撃で動けなくなった鶫が地面に落ちる 「まずは１羽。うん、なかなか羽色のよい個体だ」と女戦士は納得気だ #ダークエルフ王国見聞録

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私の放つ矢はことごとく外れ、むなしく枝の間をすり抜ける有様で、女戦士は呆れた顔をしているが、一方彼女は正確な射撃で獲った鶫類を腰に下げた胴乱に詰め込んでいく。 「学士殿の世話をしているせいで、一等は逃したかもしれぬな。まぁ、楽しいからよいが、ふふ」 #ダークエルフ王国見聞録

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刻限の日没に至り、里の広間に集合したダークエルフ達は、獲物の計数を受け、参加者達の順位が村長から告げられる。女戦士は三等であり、行商人との交易で村長が得たという上物の葡萄酒を二瓶を得た。彼女の妹は子らの部門で残念ながら参加賞のクッキーとなったようである #ダークエルフ王国見聞録

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優勝者の得た樽のワインは直ぐに開けられて宴席に供され、本日取られた鶫も手早く下処理されて、炙り焼きにされていく。誰かがシタールを持ち出してそれを奏でながら渡り鳥の歌を奏で、大人達は酒と子らは菓子で、狩猟や農作業に忙しい秋の合間の休日の夜を楽しく過ごすのだ #ダークエルフ王国見聞録