Side Story4 『幸運』の対価

脳内妄想艦これSS 独自設定注意 現在進行中の「エンドウ沖の残火」とリンクした話。 また、記録室メンバーのSSとの連携要素有り。
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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-1 上手く行きさえすれば報われる、成功までは後僅かに一歩のところまで来ている。 そう自らを幾度となく鼓舞し、幾度となく失敗を重ね、今に至る。 何度回路を組み直しても、何度修正を重ねても、どうしても成功してくれない。 理論は間違っていない。技術も問題は無い。 ならば、何故。

2016-10-31 22:47:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-2 カプセルを前にして白衣の男達は今日も頭を掻きむしる。 彷徨い彷徨って孤島の奥地に遂に見出した隠れ家は上層部に気付かれてはいない…少なくとも『今』は。 男達には後ろ盾が無い。 『今』を乗り切らなくては明日が無い。 自分達の研究が認められる明日を作らない限り。

2016-10-31 22:48:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-3「どうだ…これで!」 プロジェクトリーダーと思しき男が祈るように『起動』のコードを入力する。 …しかし、今日も目の前の機械は反応を示してくれない。 鋼鉄の沈黙を守ったまま頑として動こうとしないのである。 「…何故!何故なんだ!」 男は癇癪を起こして起動端末を殴りつける。

2016-10-31 22:49:43
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-4 艦娘が人類の希望となっているこのご時世、少しでも戦況を有利にするために艦娘に関する研究は軍内で盛んに行われている。 それは彼女達の使う兵装の研究であり、より強い力を得るための改装研究であり、より深い絆を結ぶための研究。 これが艦娘に関する研究の『オモテ』の姿である。

2016-10-31 22:50:45
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-5 …現実はそう綺麗事ばかりでもない。 『彼女達』自身が実験材料となった事が無いか、と言えば答えはNoなのだ。 彼女達は同時に謎の多い存在でもあり、多くの研究者達が彼女達の力に迫ろうと試みた。 そして、手酷い火傷をしつつも、幾つかの研究は成果を収めた。

2016-10-31 22:51:00
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-6 これ即ち『ウラ』の側面。 そうして生まれた技術は ー 安全面、金銭問題、人道性等々…問題視する声も多い。故に公表もされず、管理の目も光るようになる。 だが、『総意』ではない。 ハイリスク・ハイリターンの魅力に目を瞑り、管理の目からの隠れ蓑を作り上げる者達が居る。

2016-10-31 22:52:24
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-7 研究者・技術者のポジションからすれば、『ウラ』の研究を続けるためにはそうした権力者達の後ろ盾を得て庇護を得るのが一番安泰だ。 逆に、取り入るのに失敗すれば自分の身を危険に晒す。 白い目で見られたり昇進ルートから外れる程度ならまだ良し。下手すれば罪人ともされかねない。

2016-10-31 22:53:27
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-8 そしてこの男達は…失敗組にあたる。 彼らの目標は艦娘に勝る強力な対深海棲艦兵器を作り上げる事にあり、また、戦争の『切り札』となる存在を作る事にあった。 考案者…リーダー格の男だが、彼にはこの研究に乗り出すにあたっての勝算もあった。 だが、売り込みに失敗した。

2016-10-31 22:55:40
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-9 コスト面が非常に悪く『売り込み先』には難色を示され、用意した『切り札』も半ばオカルトめいていて信用を得られなかった。 …そうこうしている内に彼らには監視の目が向けられるようになってしまった。 困り果てた彼らはある人物と交渉の末、研究を続けるチャンスだけは取り付けた。

2016-10-31 22:57:08
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-10 …大芝居である。 彼の研究に賛同する一派は南西深部で行われた作戦に同行し、作戦中のM.I.Aを装って改造小型艦船一隻丸ごとと共に行方を晦ました。 そして誰の目に触れる事もなく指定されたエンドウ沖の無人島に辿り着き、船を『島そのもの』と同化させてカムフラージュした。

2016-10-31 22:57:58
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-11 艦船の内装は技術研究施設として使えるように改装されており、彼らはそこで漸く『監視の目』から逃れた限られた時間を手にした。 同時にこの脱走劇によって彼らは背水の陣となった。勿論承知の上ではあったが。 彼らの理論を実装した兵器を完成させない限り、彼らに未来は無い。

2016-10-31 22:59:33
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-12 彼にもちょっとした研究開発の経歴は有る。 異形の者達との戦いが本格化する前、彼には無人制御型の大型兵器の開発で名を上げた過去があったのだ。 故に今回も大筋やる事は変わりない筈…だった。 素材は揃え、技術者も用意し、自らの理論も詰め込んだ。 だが、上手く行かない。

2016-10-31 23:00:29
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-13 そのまま空しく数日が過ぎ、一週が過ぎ、半月が過ぎ… 思いもかけない出来事が起きたのは、彼らにかなりの焦りが見えてきた丁度その頃だった。 地面の下に身を隠した船の探信儀が、「戦い」の起こりを告げていた。 …彼らの隠れ家の目と鼻の先で、第二次マレー沖海戦が始まった。

2016-10-31 23:02:10
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-14 最早彼らに選択肢は無かった。巣穴の奥で襲撃者から怯える小動物の如く、今まで以上に縮こまって身を潜め、見つからないよう戦いが過ぎるのを待つしか無くなってしまった。 …何という不幸かと、彼らは運命を呪った。 だが、ある日の探信儀は思いがけない事実を映し出した。

2016-10-31 23:04:03
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-15「た、大変です!」 画面を確認した一人の研究員が大声を上げ、画面に映ったものを周りに共有する。 探信儀は紛れもなくこの島に深海棲艦が上陸している事を示していた。 それも、ただ拠点を求めて上陸している訳では無い…『真っ直ぐに』此方に向かってきているのが分かった。

2016-10-31 23:05:31
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-16 この場所の存在がバレている事が判明したのと、相手が深海棲艦であること、そして此方が丸腰である事実は瞬く間にパニックを引き起こした。 それはリーダーとて例外では無かった。 自分達の命を繋ぐには、兵器を動かし、敵を殲滅するしかない… そこで彼は『切り札』に手を伸ばした。

2016-10-31 23:06:35
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-17「ハァッ…ハァーッ」 自室の金庫から取り出した小さな木箱を小脇に抱えて、彼は肩で扉を開けて乱暴に製造室へと入った。 技術者の数名が驚いた顔で彼の顔を見る。 彼は周りには目もくれず、少々ふらついた足取りで自らの生み出した兵器を見据える。 「リ、リーダー!何を…!?」

2016-10-31 23:07:53
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-18 ざわつく衆目の中、質問には答えずに黙々とステップを上り、彼は兵器正面の端末にコードを打ち込む。 ガシャン… 重々しい音を立てて、彼の目の前で兵器の鋼鉄の頭部が開いた。 そして、思いがけない行動を取った。 「…これが、本当に勝利を呼び込むと言うのなら!」

2016-10-31 23:09:55
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-19 彼は抱えていた小箱の紐を解き、中身から転がり出てきた小さな陶器の壺を手に取ると、頭部の上に翳して『逆さ』にした。 「今を逃して何時勝利すると言うのか!!」 壺の中から、液体とも個体ともつかない透明な物体が『するり』と零れ、一瞬照明に照らされ無色の光を周りに返した。

2016-10-31 23:12:07
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-20 変化は直ぐに訪れた。 それまでどんなに修正を施しても一切動くことの無かったその兵器は、途端に全身に血が通ったかの如く稼働音を立て始めた。 突然の出来事に、部屋全体からどよめきが起こる。 「や、やった…」 誰が口にしたかは分からない。 だが、その呟き声が口火となった。

2016-10-31 23:15:17
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS4-21「やった!やったぞ!」「成功したんだ!」「これで深海棲艦も倒せるぞ!!」「助かったんだぁ!」 部屋の中は興奮と歓声に包まれ、誰もが喜びで拳を振り上げていた。 兵器の目の前に佇むリーダーも、興奮を抑えきれぬ様子で兵器頭部のカプセルに震える手を伸ばす。

2016-10-31 23:16:42