- GREAT_NONSIX
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(小枝が折れる音と共に突き落とした相手が回り、転がり落ちる。物にぶつかるが勢いは止まらずに、尚も落下する。一生のうちにそうは訪れない程の長く感じられた時間のなか、ドサリ、と生命が終わる時を告げた)
2016-09-25 22:11:14直視してはいけない。(生唾を飲み込み、) 直視してはいけない。(崖の底のその奥の、) 直視してはいけない。(地獄を、見た)
2016-09-25 22:15:57…………あの様に、関節が曲がるものだったろうか…………。 …………あの様に、首が根元から、ポッキリと真横に折れるものだったろうか……?
2016-09-25 22:20:40頭からは、赤と黒の絵の具を一緒くたに混ぜたような泥のような水が流れている。 ───人間は、自分の許容範囲を超えると事態を目の当たりにしても理解出来ずに、まともな反応が出来ないらしい。
2016-09-25 22:24:32死にきれずに悶えているのか、すでに事切れているのか判別が出来ないまま手足を痙攣させ、口から流れる血の泡。 誰が見ても察してしまうような状態の底に落ちた相手を眺め、其の事を身を以て知る事になるのは近くで鴉の鳴き声を耳にしてからだった。
2016-09-25 22:30:17「あ、あぁ……あああ……あぁあああ……あああぁあああああああ!!!!!! ………そんな、なんで…、なんで……!」 真っ赤になる感覚。心臓は痛いほど早鐘を打ち、脳はとっくに自分がやらかした事と現実に起きた出来事にオーバーヒートを起こし、自分に混乱を持ってきた。
2016-09-25 22:39:37「死んだ? 嘘、嘘だ、死んでない、まだ生きてる……。手だって、ちゃんと動いて、少し様子がおかしくなっただけで、たまたま打ち所が悪くてそうなっただけで人の形を保ってるならまだ……!! 」 ───本当は。
2016-09-25 22:42:19「……そうだ。助かるなら早く、こういう時は、そう、救急車…! 早く救急車呼ばないと……」 ───本当は、死んでいる事は気付いていた。
2016-09-25 22:42:52それを認めたくなかった。 少なくとも一縷の希望に縋るくらいには、自分が起こしてしまった事を認めたく無かった。
2016-09-25 22:45:29人を殺してしまった。本来あの場で死ぬ筈だった自分ではなく、話をしていたこれからの人生があった相手の、人の命を過ちとはいえ奪った。 許されることじゃない。救われない。これでとうとう自分は救いようがない存在になってしまった。 その未来が、約束されてしまった。
2016-09-25 22:48:11両親は、兄弟は、どのような顔をするだろう。泣くだろうか。殴るだろうか。両方だろう。定職にも就かず、貯蓄を貪り食うだけでは飽き足らず血で染まった自分を見て。 汚れてしまった手を一瞥して、絶望のあまり膝から崩れ落ちるように。
2016-09-25 22:50:52全身の血の気という血の気が引き、呼吸が乱れる。 この時ばかりよく動いてしまう脳味噌は、ありとあらゆる最悪な状況をいとも容易く自分に想像させ、これから担う罪の重さや責任と直面させ恐怖に陥れ、助けを呼ぶ足を縛り付ける。 縄と化した恐怖に引き剥がす事も出来ず、呆然と立ち尽くしていると
2016-09-25 22:57:19「すいません」 破滅と取るべきか、救いの糸と取るべきか。少なからず今の状況、これから最も会いたくない者になるだろう。 自分のこれからの人生の審判者といっても過言ではない立ち位置の者が、話し掛けてきた。
2016-09-25 23:04:19「……………………」 仮に此処で何でもないと答えたら、もしかしたら何か調べられるだけでこの場は助かるかもしれない。 だが、其れは。少なくともその場限りで。
2016-09-25 23:05:10それをしてしまったら最後。 お縄につく事になったとしても"其処から逃げた"という事実は変わらず、抗いようのない罪の意識から、生涯を終えて魂だけになっても逃げ続けることになる。 自分に其れは耐えられない。 背負う事は出来ても、それだけは耐えられない。
2016-09-25 23:05:32「………………、」 「…………人を、」 「……………………其処の崖で、人を」 警察に目線を伏せたまま、崖を指さす。 当たり前だが警察は顔色が変わり、事態を把握する為に突き落とした地獄へと歩を進めた。
2016-09-25 23:12:26「────」 この世全ての負の感情が、背中をじりじりと溶かすように身を焼いていく。 耐え切れず嘔吐を催すも堪える苦痛な時間はまるで、己の懺悔に充てているのだと。錯覚しかけたその時に、警察が近付いてきた。
2016-09-25 23:14:27掛けられる言葉はきっと署まで御同行願えますか、だろうか。それとも無言で手錠を掛けられるか。 どこか他人事のように考えてしまいながらも予想していた己に降り掛けられた其れ。 「誰も居ませんよ」 その言葉に、頭が理解することを拒否していた。
2016-09-25 23:18:51「…………そんな筈は……、だってさっき確かに……!!」 「いえ、周りは見ましたが死体は有りませんでした。それこそ何度も確認して……」 そんな筈は無い。死体が無い? それじゃあさっき自分が突き落としたアレは一体何なのか。 確実に同じ時間を過ごしたアレは。
2016-09-25 23:22:36