朝搾り専用彼女5話
- MikanPolarin
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死ねないのです
「ふぅ~、これでいいか」 ボールペンを置いて、ぐっと伸びをして息を吐く。 何度見直してみても不安が残る。何せ、こんなものを書くのは初めてだ。 ――自分のために頑張る。 1週間前、彼女にもらった言葉を考えてみた。
2016-11-02 23:33:27人のために何かをすることは、悪いことじゃないと思う。けれど、人のためだからと始めたことは、言い訳が利きやすく逃げるのも簡単……俺はそういう意味に受け取った。
2016-11-02 23:33:41親のためというのは建前で、本当は踏み出すのが不安だから、逃げやすい理由を探していただけなんじゃないか? 今の俺はきっと、自分のために頑張ることを怖がっている。 それは裏を返せば、自分のために頑張りたいということでもあった。
2016-11-02 23:33:48「って、もうこんな時間か」 時計を見ると日付をまたいで久しく、朝が思いやられる。 あさなさんに寝ぼけた顔を見せないよう、早く寝ないとな。
2016-11-02 23:33:56「ん……」 尿意で目が覚めると、窓の外はすでに明るく、日も出ていた。 ちちちとさえずる鳥の声と、微かに聞こえるバイクらしきエンジン音。 6時30分。街が起き出す時間だった。
2016-11-02 23:34:11朝特有の生理現象をなんとかなだめながら、用を足して部屋へ戻る。 「おはよ、今日は早いねー?」 「おはよう。たまたま目が覚めただけだよ」 さっきまで誰もいなかったこの部屋に、朝の天使が舞い降りていた。 「んー? なんかいつもより眠そう?」
2016-11-02 23:34:27「いつもより早い時間に起きたからかな」 「うそだ。30分早起きしただけで? 君、夜更かししたでしょ」 あさなさんにはお見通しらしい。 「…………うん」 観念して白状する。 しかし、あさなさんは怒ったり文句を言ったりはせず、代わりにこちらへ歩み寄り、 「んっ」
2016-11-02 23:34:40ただそっと、唇を重ねてきた。 ふわりと香ったあさなさんの甘い香りに、半寝状態の脳が溶かされていく。 「夜更かししても、ちゃんと早起きできたご褒美っ」 唇を離したあさなさんは、朝日の差し込む窓を背にはにかんだ。
2016-11-02 23:34:47今日は俺も朝食の用意を手伝ったので、早めの時間に食べ終わった。ついでに、食後のミルクとコーヒーも俺が淹れてみた。 「はい、あさなさんの分」 「ありがと~」 俺もコーヒーを持って、あさなさんの向かいに座る。
2016-11-02 23:34:57あさなさんと初めて会ってから2週間。朝、こうして一緒にご飯を食べてコーヒーとミルクを飲むのが習慣になっていた。 そして、俺の些細な楽しみでもある。 「君、最初に会った時とちょっと変わったね」 「え、そうかな?」 「見た目じゃなくて、なんていうのかなー? 雰囲気?」
2016-11-02 23:35:13「雰囲気……」 「うん。そうだねー、1つ例えを出すなら朝の君」 穏やかな表情で、あさなさんは続ける。 「初めて会ったときの君は、こう……絶望! この世の終わり! みたいな顔をしてたよ」 「朝、弱いからなぁ」
2016-11-02 23:35:22「でも、ここ最近の君は違う。エネルギーが溢れてて、お祭りに行く前の子どもみたい」 自分ではあまり変化は感じられていないが、そう見えている理由についてはすぐに思い至る。 「毎日、あさなさんに会うのが楽しみなだけだよ」 「んん~? 嬉しいことを言っても、わたしからは何も出ないぞー」
2016-11-02 23:35:32と言いながら、本当に嬉しそうに顔が笑ってしまっているので、俺も嬉しくなってくる。 「いや、ほんと……早くあさなさんに会いたくて、夜寝るのも早くなったし」 おかげで、睡眠不足も解消されてきて、余裕を持って登校できている。
2016-11-02 23:35:40「ふふ、わたしは順調に役目を果たせてるってことだね」 「役目?」 「いつも言ってるでしょ? 君に、毎日を元気に過ごしてもらうこと」 確かに、あさなさんに出会ってから、1日1日が楽しくて活発的になったと思う。
2016-11-02 23:35:49昨日みたいな例外を除けば夜更かしをしなくなり、苦痛だった朝もスッキリ目が覚める。全部、良い方向に進んでいる。 けれど、あさなさんの役目とは、誰が何のために課したものなんだろう? そして、その役目が終わったらどうするんだろうか。
2016-11-02 23:35:58……聞いてみたいけれど、もしそこで決定的な答えが返ってきたらと思うと、躊躇してしまう。 「ところでさ」 俺の葛藤を知ってか知らずか、あさなさんが俺のいるほうへ、すりすりと身体を滑らせてやって来た。 「君は、女の子の身体のどこが好き?」
2016-11-02 23:36:07俺の隣に身体を落ち着けると今度は、そんなことを聞いてきた。 「急に聞かれても」 「別に恥ずかしがらなくてもいいよー? 胸かな? 手? 足? それとも、お口?」 「えーっと……」
2016-11-02 23:36:16胸で挟んでもらったこと、手でしてもらったこと、口で気持ちよくしてもらったこともあった。どれも、俺にとっては記憶をブルーレイディスクに焼きたいぐらいのものだが、女の子の魅力はえっちな部分だけではない。 「髪かな」 「髪の毛?」 「うん」
2016-11-02 23:36:25女性ならではの綺麗なところはたくさんある。どこが好きかも人によってバラバラだ。 俺は中でも髪が女の子の魅力として、重要だと思っている。髪型をちょっと変えただけで、ガラッと印象が変わることもある。 「ほうほう。男の子は胸とかお尻とかかなって、思ったけど君は違うんだ?」
2016-11-02 23:36:33「一番好きなのは、ってだけだけど」 「ふふふ、じゃあ……今日は君の大好きな髪で、気持ちよくしてあげる」 「えっ!?」 「驚きすぎだよー」 「いや、いやいやいや、今のそういうアンケートだったの!?」 「そうだよー。って、もしかして、うそだった? 本当は胸とかお尻がよかったの?」
2016-11-02 23:36:45「あー、いや、そうじゃなくて……本当に髪は好きだよ。ただ……そういうえっちな部分とは切り離されたものだと考えてたから……」 「あはは、女の子の髪がえっちなものになるってこと、わたしが教えてあげる♪」 「…………」
2016-11-02 23:36:57