亜里沙のことが大好きな雪穂 短編(4)「ウェディングライブ」
- yukiho_0_arisa
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「すごいね、雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん。まだ加速してるよ、このまえのPV」 「はい! 毎日チェックしてます! 嬉しいです」 「これに賭けてたからね。よかったね!」 部長の花陽さんが、嬉しそうに微笑みながら祝福してくれる。評判が評判を呼ぶ形で、さらに再生数は伸びていた。
2016-10-18 20:11:14「曲もいいからね」 「前より大胆な動きもできるようになってるにゃ!」 そして、誇らしげな真姫さんと凛ちゃん。 「ランキングのほうは、ちょっと出来過ぎかもしれませんけど」 「ううん。上位のみんなの動画は全部見てるけど、2人も全然負けてないよ」 「花陽さん……ありがとうございます!」
2016-10-18 20:12:45「ちなみに花陽さんから見て、今のスクールアイドルで一番輝いてるのは誰ですか?」 「それは……やっぱり、凛ちゃん!」 「かよちん……♡」 「そうね。私も賛成」 「真姫ちゃんも……でも、2人とも凛より可愛いにゃー!」 うーん。この先輩方も本当に仲良しだなあ。凛ちゃん照れ照れだ。
2016-10-18 20:15:07そう、μ'sだったみんなも、もちろんまだ活動しているのだ。ただ、好き好きにユニットを組み替えて歌ってて、固定したグループとしてはどこにも登録していない。だから、ランキングに上がることもない。でも、動画の再生数はいつもトップクラスで、さすがだ。
2016-10-18 20:18:23このユニット組み換え活動は、中途半端にμ'sの名残を残すより、もっと自由に楽しもう、という思いで始まったらしい。だいたい2人か3人で組んでいて、組み合わせごとに個性がはっきりと出るので、見ていて楽しい。 なんだけど。 「私はまだ、なかなか慣れてなくて」 苦笑いするのは、花陽さん。
2016-10-19 19:40:09「凛ちゃんのあとをついてばかりだったから、凛ちゃんと離れちゃうとこんなに動けなくなっちゃうのかなあ」 「かよちん、いつもどおり動けてるよ?」 「そう、かな……?」 「うん! ね、真姫ちゃんもそう思うよね?」 「そうね。ちょっと緊張してるようには見えるけど」 「う、うん」
2016-10-19 19:47:49私から見ても、凛ちゃんがいないときでも、花陽さんの動きに問題があるようには見えない。まあ、でも、私も、亜里沙と離れて歌うことになったら、そりゃやりづらいよね、と思う。毎回組み合わせを変えるというのは新鮮ではあるけど、考えてみるととても大変なことだ。やっぱりμ'sはすごい。
2016-10-19 19:51:14花陽さんが前回の曲で組んだ相手といえば、ことりちゃんだ。 「たぶん、だけど、花陽ちゃんが言ってること、わかるかも」 ことりちゃんにこの間の花陽さんのことを聞いてみると、そんな答えが返ってきた。 「花陽ちゃん、凛ちゃんが一番可愛く見えるように動いてるんじゃないかなって気がするの」
2016-10-20 19:12:45「花陽ちゃん、誰よりもアイドルの動画いっぱい研究してるから、どうやったら可愛く見えるか、どうやったら印象に残りやすいか詳しいんじゃないかな。前のPVの花陽ちゃん見てると、凛ちゃんとすれ違うときとか、ちょっと引いて凛ちゃんを目立たせようとしてる気がするの。ちょっとだけ、なんだけど」
2016-10-20 19:17:57「たぶん、それは凛ちゃんがどう動くか、細かい癖までわかってるから自然にできることで、そこまでわかっていない私に対しても同じことをしようとして、うまくタイミングがあわなくて戸惑ってるんじゃないかな」 「……なんか、すごい話だね」 花陽さんの性格を考えると、ありそうな話ではあるけど。
2016-10-20 19:20:31それはつまり、決められた動きを守るだけじゃなくて、カメラからの見え方を計算に入れてちょっとアドリブを入れていることになる。私に同じことができるかと言われれば、正直、ない。下手なことをして、タイミングが来るってダンス中に衝突してしまったら最悪だ。かなり高度なテクニックなのでは……。
2016-10-20 19:24:45当たり前のことだけど、PVとライブでは、同じ振り付けのようでも微妙に見せ方は違う。まず、カメラ相手とライブ会場では視線が違う。ただ、私たちはまだ自分たちの表現を確立するのに精一杯で、あまり細かいケアはできていない。
2016-10-22 22:08:27「花陽さん、このまえの曲のライブ用の振り付けをこれから考えるんですけど、気をつけたほうがいいこと、ありませんか?」 尋ねると、花陽さんはきょとんと目を丸くしたあと、ちょっと困ったような顔をしてみせた。 「私でいいの? 絵里ちゃんのほうが、的確なアドバイスをくれると思うけど……」
2016-10-22 22:09:13「いえ、技術的なことではなく、もっと心構えとか……その、花陽さんが一番アイドルのことに詳しいですし」 「そんな、大したものじゃないよ」 「お姉ちゃんも、花陽さんの話を聞いたほうがいいって言ってました!」 亜里沙も後押ししてくれる。 「そうなんだ……」
2016-10-22 22:09:31「えっとね、あんまり上を見たり遠くを見たりしすぎないこと、かな。気をつけてないと空中を見ちゃうし、そんな前提で振り付けを考えちゃうから」 「それは……ダメなんですか?」 「具体的に誰かにしっかり目を合わせにいくの。ひとりひとりに、丁寧に届けるの」 「あ、なるほど」
2016-10-22 22:09:43「今私のこと見てくれてる、って思うとすごく嬉しい、って私の実感なんだけど、だから私が歌うときもそうしてるの。まあ――」 花陽さんは、ふふっと笑った。 「雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんの場合は、2人で見つめ合ってたほうが喜ぶ子のほうが多そうだけど」 私たちは、同時にお互いの顔を見つめた。
2016-10-22 22:11:39「今のは一般的な話だね。この歌の場合は、ストーリーがはっきりしてるから、考えやすいよね。視線もメリハリつければいいと思う」 「あ、それは考えてます。序盤は私たちそれぞれの話なので、まっすぐ前を見て――って、ここは、まっすぐじゃなくて誰かに目を合わせたほうがいいんですよね」
2016-10-24 19:11:13「ひとりひとりに語りかける感じでいいと思う。ライブ中相手のほうを確認したくなるときあると思うけど、ここは絶対にお互い目が合わないように徹底したほうがいいんじゃないかな。自信なかったら、確認する場所をそれぞれ決めておくといいかも」 凛ちゃんと花陽さんなら、問題ないんだろうなあ。
2016-10-24 19:18:55「で、この曲のクライマックスは間奏からのCメロだと思うけど、ここは逆で、完全に2人だけの世界に入っちゃう。ここは半端に周りを気にしちゃうと台無し、そんな歌だと思うから」 「はい! そうですよね」 「2人だけの世界に浸るのは得意です♡ ね、雪穂!」 いやまあ。まあ……うん。
2016-10-24 19:24:05と、いうわけで。細かい振り付けは絵里さんに相談してね、というまとめで、花陽さんへの相談は終わった。 「花陽さん、すっごい考えてやってるんだね。ライブいっぱい見てるのに全然気づかなかった」 「これで、考えやすくなったね」 「目が合わないように、っていうのが意外と難しいかもね」
2016-10-25 20:32:49「なんとなく視線を感じることもあるし、そのときは気をつけるっていうのもできそうだけど」 「雪穂、ちょっと向こう向いて?」 「うん」 「私が見つめてると思ったら、手を上げてみて」 「うん」 「……」 「……」 「今!」 「……私たちもまだ、愛の力が足りないみたい」 「足りないか」
2016-10-25 20:39:01「横から見つめられたら、さすがに気づくんだけどなあ……あ、ほら」 私の言葉にあわせるように横に来た亜里沙の視線を感じて、そっちを向く。 亜里沙は、ふわっと笑った。 「愛は、まだ50%くらいってこと?」 「まだまだ伸びしろがあるってことだね!」 「100%の雪穂が楽しみ!」
2016-10-25 20:44:38「じゃ、次は観客の目を見ながら歌うのを試してみましょう」 「みましょー」 といっても、まずは亜里沙が歌って私が観客になるだけだけど。 亜里沙が、自分の気持ちを込めた歌を、私をじっと見つめながら歌う。まさに、語るように。 「どうかな?」 歌い終わった亜里沙が、首をかしげる。
2016-10-26 22:02:48最初からドキドキが止まらなくて、終わった頃には息切れさえしていた。 「惚れる」 「今さら?」 「たぶん私が今日初めて亜里沙に会ったんだとしても惚れてる」 地上の天使のような亜里沙が、私のために歌ってるんだって思うと、ものすごい破壊力だ。視線の力って、すごい。
2016-10-26 22:03:54「これ、ヤバいんじゃない? 亜里沙に恋しちゃう子が続出するよ」 「嫉妬しちゃう?」 「しちゃうかも」 「でも、実際はひとりひとりは一瞬見るだけだよね」 「一瞬でも、目が合うと落ちそう」 「それは雪穂がもう私のことを愛してるからだよ」 「そ……そうかな」
2016-10-26 22:05:00