【書きかけ】大湊警備府の日常【第２話】

深海さかな @dzurablk_kai

ざわめきが嘆息と諦めの空気に変わる だが龍造寺は相も変わらず明るい声音で川内に窓のカーテンを閉めさせると、深水に指示を出し背後の漆喰壁にスライドを映し出させた 「なに、空母がいなくとも飛行場は潰せるさ」 「どういうことだ？」 怪訝な顔の財前に龍造寺はニヤリと笑うと、 #今夜の川内

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続けて信じられないことを口にした 「軽巡で敵の飛行場を空襲してやるんだよ この面子ならそれができるだろ？」 #今夜の川内

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背後の海図を指し示しながら龍造寺が説明したのは、以下の内容だった 軽巡の主砲や水偵では飛行場の滑走路は使用不能にできないが、空母の支援も望めない以上、手持ちの装備でなんとかするしかない そこで、軽巡に水偵よりペイロードの大きい陸上機を積み込み、これを爆撃する #今夜の川内

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幸い潰さなくてはいけないのは滑走路一本なので、爆装した艦攻ないし艦爆一機に護衛の戦闘機、偵察機で事は足りる 川内型と木曾、鬼怒はかつて艦首に滑走台を積んでいたので、そこに陸上機を積み込んで空母の代わりをさせよう 概ねそんな内容だ #今夜の川内

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龍造寺が一通り説明し終わると、また会議室は深水のタイピングの音を残して静まり返った 「無茶だ」 最初に口を開いたのは、木曾の艦長の大門 「滑走距離が短すぎる 今の水偵並の爆弾しか積めない複葉機ならまだしも、滑走路を破壊できる艦爆なんて艦首から発艦させられる訳がない」 #今夜の川内

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川内型と鬼怒の滑走台は長さ10m、一番長い木曾ですら20mしか無いのは龍造寺もとうに知っている 大門が言うのも当たり前を通り越してむしろ常識的だ 「そんな無茶で航空機を無駄にするのなら、まだ艦砲射撃の方がマシだ」 「いや、それでは滑走路は潰せない」 #今夜の川内

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龍造寺が深水に、図表で埋め尽くされた新たなスライドを出させる 「ここに13式試爆の資料がある これによると全金属製の単葉機が離陸するのに必要な速力は、およそ100ノットだ」 「だからなんだ？ たった20mでそんな距離、出せる訳がないだろう」 #今夜の川内

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「そうだな、『通常の』航海では絶対に無理だ だがこれならどうだ？」 背後に現れた新たなスライドは天気図だった 「深水、来週の天気は？」 「目的地付近は激しいハリケーンに襲われるようです」 「最大風速は？」 「予測ですが、およそ44m/s」 「つまり85ノットか」 #今夜の川内

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ここにきて会議室の面々も、話が飲み込めたようだった 「85ノットの風速に艦首を立てたとして、ここにいる軽巡なら35ノットは出せる これなら、金属単葉機でも離陸には充分だろう？ 他に何か質問は？」 龍造寺の自信に満ち溢れた満面の笑みの前に、挙手する者は一人もいなかった #今夜の川内

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「さて、最後になったが」 補給計画や作戦の日程など細かな説明を一通り終え場の空気が緩みかけた頃、龍造寺は会議の議題を各艦長の背後に立ち尽くしている艦娘たちに向けた 「各軽巡の、機体の割り振りを決めたい 俺の考えだと、神通 君に一番重要な爆撃機の運用を任せたいんだが」 #今夜の川内

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そう龍造寺から突然話を振られるも、昨晩の寝不足で半ばぼんやりとしていた神通は肝心の内容を聞き逃してしまった 「神通？」 「は、はい！ すみません！！」 「引き受けてくれるか？」 「ええと、あの・・・」 「爆撃機担当だよ、君に頼みたい」 #今夜の川内

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そう言われ、神通もしばらく何を言われたのか分からずにぽかんとしていたものの 次第に暗く沈んでいたその顔に、喜びが表情となって現れた 「ほ、本当に・・・？ 私でいいんですか？」 「ああ」 「嬉しいです、ありがとうございます！！」 そう言って勢いよくお辞儀をする神通 #今夜の川内

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だがその会話に、ずっと押し黙っていた氷室が割り込んだ 「俺は反対だ」 「なんでだ？ 本人もこう言ってることだし」 「これにそこまでの能力があるようには思えない」 氷室の発言に会議室の空気は一転、重苦しさを帯び始める #今夜の川内

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背後で川内が怒りを露にしていることを気配で察しながらも、龍造寺は冷静な口調を保ったまま続ける 「神通は確か艦首にカタパルトを持っていただろう 射出を確実にこなせるし、適任だと思うが」 「いいや、賛成できない」 #今夜の川内

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あくまで首を縦に降らない氷室に、一度は明るくなりかけた神通の表情は見る見る暗くなっていった そこへ突然、はす向かいから黙って聞いていた大門が唐突に口を挟んだ 「なんだ、よほど自分の乗艦に自信がないのか、それとも無いのは自分の実力の方か？」 「なんだと！？」 #今夜の川内

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逆上した氷室が立ち上がるも、大門は表情一つ変えずに堂々と言い放つ 「どうやら貴様は自分の乗艦を虐める嗜好があるみたいだが、正直言わせてもらえば悪趣味だ まるで何かを恐れている矮小な小動物のようで、見苦しいことこの上ない 何があったか知らないが任務に私情を持ち込むな」 #今夜の川内

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それを聞いた氷室が机を殴ろうと拳を振り上げるのと財前が振り上げられた氷室の左手を掴み取る動作は、ほぼ同時だった 「貴様、黙って聞いていれば・・・！！」 氷室の言を、深水がノートパソコンを閉じる一際大きな音が強引に遮る 「提督、本日の議題は全て消化できましたが」 #今夜の川内

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「そうだな、解散するとしよう」 龍造寺の言葉を聞いて真っ先に神通が目頭を押さえ戸口へ駆け出した 追いかける那珂に引き続き、大門と進藤のコンビも足早に会議室を後にする 「氷室、今日の件は不問に伏してやる が、いつまでもこうはいかんぞ」 #今夜の川内

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氷室に詰め寄ろうとした川内を片手で制しながらの龍造寺の言葉は、川内ですら聞いたことのないほど低いものだった 「・・・貸しを作ったつもりか」 「ほら、もういいだろ お前も少しは頭を冷やせ」 財前が氷室の肩を掴み半ば強引に連れ出すと、ようやく会議室は平静を取り戻した #今夜の川内

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「何なのよあれは！！」 「ずいぶんと上品な小僧だな あんなのがお前の同期とは驚きだ 少佐に格下げになるのも分かるよ」 川内と深水が同時に悪態をつく様に、言い返したい言葉を煙草に火をつけ飲み込むと、龍造寺はため息と共に紫煙を吐いた #今夜の川内

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「お前らまでそう言って、俺に心労を掛けさせてくれるなよ 昔はああじゃなかったんだ」 「じゃあなんで神通にあんな言い方できんのよ！！ ああムカつく、最低よ！！」 川内はそう言いつつ氷室の椅子を蹴り飛ばした 「お前らはあいつの過去を知らんから言えるんだよ」 #今夜の川内

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「さして知りたくもないがなぁ」 とハイライトを取り出しながら深水 「言いたいのなら聞いてやらんでもない」 「・・・あいつと神通は、士官学校を出た直後からの関係なんだよ 正確には俺と財前もだがな、あいつは俺ら以上に因縁があるんだ」 「どういうこと？」 #今夜の川内

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龍造寺はしばらく考え込むかのようにタバコを数口喫むと、重い口を開いた 「お前ら、神通が過去に夜戦訓練で、衝突事故を起こしたのを知ってるか？」 「一応は・・・」 「確か神通艦長が責任を取って自決した事件だな むしろ海軍内で知らない人間がいるのか」 #今夜の川内

深海さかな @dzurablk_kai

「その時、士官学校を出たばっかの俺ら３人は、二水戦の駆逐艦に乗ってたんだ 初めての乗艦にな 神通に乗ってた三上大佐は厳しかったがいい人だった 公私ともに色々とお世話になったもんだよ 氷室は出来が良くて特に三上さんからは可愛がられてたんだ」 「それって・・・」 #今夜の川内

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龍造寺はタバコの吸い殻を灰皿に押し付けながら、重苦しく言葉を継いだ 「氷室が乗ってた駆逐艦が、神通との衝突事故で沈んだ駆逐艦だったんだ あの事故で氷室は、敬愛する上官と初めての乗艦、大切な人間を二人同時に失ってるんだよ ・・・それ以来、あいつは変わっちまったんだ」 #今夜の川内