路線図職人、乗りつぶし路線図について語る

路線図職人の豊科穂さんによる理想の乗りつぶし路線図とはどんなものかという論。
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路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

既刊の乗りつぶし路線図が揃いも揃って正縮尺図を採用するのはなぜか? それは作図が簡単だからです。

2016-10-28 23:17:45
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

地図調製会社はたいてい独自の地図データベースを持っています。つまり海岸線、主要道路、鉄道、行政界、河川などといったさまざまな要素を描いた全国版のデジタル地図データがあり、必要な範囲と要素を抜き出してきてデザイン的な加工を施せばあらゆる地図が制作できる。

2016-10-28 23:18:05
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

私がかつて在籍していた昭文社でも地図データベースが整備され、あらゆる商品に活用しています。 JTBの乗りつぶし地図帳はジェイ・マップという会社が地図部分を手がけていますが、7年前に同社と仕事上のご縁があった際に聞いたお話でも、やはり同社独自の地図データベースがあるとのことでした。

2016-10-28 23:19:40
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

そういうデータベースを持たない会社でも、国土地理院が各種地図要素のデータを販売していますから、鉄道路線のデータを購入してAdobe Illustratorなどで白抜き加工してやれば乗りつぶし路線図はできる。デフォルメ模式図を一からデザインするよりはるかに安価でスピーディーです。

2016-10-28 23:19:56
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

ただ、JTB本では路線の白抜き加工の仕方がかなり雑なのが気になります。具体的には路線同士の交差が道路のような“平面交差”に見えてしまうケース、逆に分岐部では平面での合流に見えないケース。これはイラレ等のドローソフトにおけるレイヤー構造に問題があります。 pic.twitter.com/Gn8nTKDMBf

2016-10-28 23:20:26
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路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

道路や鉄道を白抜きで表現する場合、見た目は2本の平行線ですが、実際は「ククリ」と呼ばれる太い黒線の上に「ヌキ」と呼ばれる細い白線を重ねています。道路であればククリのレイヤーとヌキのレイヤーの2層で作成すれば2路線の交差が問題なく表現できますが、鉄道路線ではそれじゃダメなのです。 pic.twitter.com/rlzIqfoMPD

2016-10-28 23:20:55
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路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

鉄道は道路のように平面交差はしないので、1路線ごとにククリとヌキのレイヤーを分けなくてはなりません。それだけ作業が煩雑になりますし、各路線の上下関係を調べるのも面倒です。本書では少なくともJR・私鉄・地下鉄というまとまりではレイヤー分けされているようですが、 pic.twitter.com/XTVYJsrhYW

2016-10-28 23:21:30
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それぞれのレイヤー内の処理がわりとテキトーで、路線ごとにレイヤーを分けると交差はきれいに表現できるが分岐の処理がおかしくなるし、逆にククリとヌキのレイヤーをそれぞれまとめると分岐はきれいに表現できるが交差の表現が不適切になる。一冊の中で混在して統一されていないのも気になります。 pic.twitter.com/Dqzm4XpA2y

2016-10-28 23:21:57
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路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

だいたい「乗りつぶし路線図」の特性を踏まえると分岐の表現のしかたがおかしいのだけれど、それはまた後日詳細に考察します。

2016-10-28 23:22:21
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

乗りつぶし用に限らず、全駅を収録した鉄道路線図を正縮尺で制作する場合、路面電車や地下鉄など、駅間距離の短い路線を基準として縮尺を設定する必要があります。しかしそれでは都市部以外の駅間距離の長いエリアが無駄に間延びしてしまうので、エリアごとに縮尺を変えたり拡大図を設けたりします。

2016-10-29 19:34:26
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

しかしJTB本ではそれでも駅間距離が詰まりすぎている路線がある。たとえば紀州鉄道なんて駅が数珠繋ぎで路線を塗る余地がほとんどないし、伊賀鉄道に至っては駅が重なるこんな有様です。これでは途中駅までしか乗ってない場合や駅の乗下車を記録したい場合に不都合でしかない。 pic.twitter.com/wRO1Fo5mOa

2016-10-29 19:35:12
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路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

そういう点でもデフォルメ模式図のほうが断然有利です。乗りつぶし路線図の「目的」を考えれば、実際の駅間距離に関わらずその区間を「乗った(塗った)か乗ってない(塗ってない)かがすぐにわかること」が優先されるべきなのは当然と言えるでしょう。

2016-10-29 19:35:30
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

駅間距離が長い分にはあまり不都合はなさそうですが、そのぶん塗る手間はかかりますし、ページ数もなるべく少なくコンパクトにまとまっているほうがチェックリストとして機能的です。九州や北海道なんてA4判ならそれぞれ1見開きで収めることができるし、そのほうが一覧性に優れるのですから。

2016-10-29 19:35:42
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

私は「塗りやすさ」を考えた場合にも模式図のほうが有利だと考えます。実際の線形どおりに曲がりくねった路線と、直線的に描かれた路線とでは当然後者のほうが塗りやすい。先月ご協力いただいたアンケート結果でもユーザーの半数は「線からハミ出さずにきっちり塗る」と回答していますが、 pic.twitter.com/N8xlAEj4Jk

2016-10-29 19:36:05
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路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

そういう方々にとっては定規でもあててピッと線を引くように塗れる直線的描画のほうが好まれるのではないでしょうか。また、線路同士の交差部分では上を通る路線をきちんと飛ばして塗るという人が多数を占めました。これも鋭角に交差するよりは直角に交差するほうがきれいに塗りやすい。 pic.twitter.com/Mb1NwDbZwk

2016-10-29 19:36:28
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路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

次回、「乗りつぶし路線図には正縮尺図より模式図のほうが適している」という主張について一旦締めくくります。

2016-10-29 19:36:40
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

乗りつぶし路線図には正縮尺図より模式図のほうが適している主な根拠 ・縮尺や方位に制約のない自由度の高い作図ができる ・全国が細切れにならず、ひとつながりに一覧できる ・駅間距離が短過ぎたり長過ぎたりするアンバランスを解消できる ・その結果、乗車済み区間・未乗区間が容易に把握できる

2016-10-30 19:58:18
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

これらの根底にあるのは「乗りつぶし路線図の第一義はチェックリストなのだから、その機能性を最優先させる」という観点です。それを覆すだけの説得力を持った「正縮尺図を積極的に採用する理由」があるとは私には思えません。

2016-10-30 19:58:37
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

予想できる対抗意見としては「リアルな線形のほうが距離感が感じられるし、旅程をトレースするように塗るのが楽しい」といったあたりでしょうか。でも距離感が必要というのであれば、それこそ市販時刻表の巻頭や、駅や車内の掲出路線図のほうがよっぽど「正確な距離」の描写が求められるはずです。

2016-10-30 19:59:05
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

つまり、距離感の演出はことさら乗りつぶし路線図に必要とされるものとは言えない。だいたい既刊の乗りつぶし路線図はページごとに縮尺がまちまちですし、乗車距離を図上で計算するわけでもないのだから、距離感を云々するのはちょっと説得力が欠けるように思います。

2016-10-30 19:59:18
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

さて、図式の問題はこれでひと区切りとし、次回以降は既刊本の制作者がこぞって勘違いしているとしか思えない点、すなわち「路線図を単純に白地図化すれば乗りつぶし路線図になる」と思ったら大間違いだ! ということを論じていきます。

2016-10-30 19:59:31
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

「乗りつぶし路線図には正縮尺図よりデフォルメ模式図のほうが適している」ということについて、ガッテンしていただけたでしょうか?

2016-10-30 20:00:23
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

「乗りつぶし」は鉄道趣味としてはメジャーな分野であり、私も含め多くの人がチャレンジしていますが、乗車対象の「基準」については各人まちまちで、絶対的な統一見解というものが存在しません。したがって乗りつぶし路線図を制作するには掲載基準をどこに置くかが重要かつ難しい問題となります。

2016-11-06 16:15:22
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

ところが、既刊の乗りつぶし路線図は掲載基準の検討が十分になされているとは言い難いのが実情で、この路線はなぜ載っていないのか、逆にこの路線はなぜ載っているのか、この区間の表現はなぜこうなのか、同じ基準ならこの区間とあの区間ではなぜ表現が違うのか、といった疑問が山ほど出てきます。

2016-11-06 16:15:34
路線図職人:豊科穂 @Toyoshina_M

乗りつぶしの基準が各人まちまちなのは仕方がないので、路線図制作では「最大公約数」をとる努力がなされるべきです。最も根幹となる基準は「鉄道事業法・軌道法に基づいて免特許を受け、現に定期旅客列車が走っている路線」でしょう。ここを否定する“乗り鉄”はまずいないはずです。

2016-11-06 16:15:44