- katsuragi_rivea
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「その息子さん…あぁ!男の子だっていうこと言ってませんでしたっけ、 私ったらいつもいつもうっかりしてしまってて、すいません。 それで何の話をしてたんでしたっけ?あぁ、そうでした。その息子さんがですねー、 あ、この春大学を卒業する息子さん、ですね…」
2016-11-21 21:24:08「そこでコーヒーと一緒にですねー、朝食までいただいちゃったんですよー トーストにスクランブルエッグ、これもともとは船長さんが食べる予定だったらしいんですけどー 私のお腹の虫が鳴ったことを気にかけてくれたんですよーホントに優しい人ですねー」
2016-11-21 21:25:14女の話は…連絡船から貨物を降ろすのが完了し、 船に残る人員が船の点検作業や整備などの作業員と彼女と男の二人だけになっても未だに続いていた。 その途方もなく長い話を男は嫌な顔一つせず真摯に耳を傾け続けていた。
2016-11-21 21:25:50時折、その話に相槌を入れ応える様から彼がその話を適当に流しているわけではないことが伺える。 女はひと時も己の話をやめるような、そんな素振りなど微塵もみせず、話を続けた。
2016-11-21 21:26:25「それで朝食で思い出しました。食べ物繋がりの話なんですけどー、 大湊ではホタテはもちろんおいしいと評判なのですが、 これは提督もご存知ですねー私も知ってるくらいですからねー 以前いただいたこともありましたね。すごくおいしかったですー」
2016-11-21 21:27:21「他にもおいしいものがあればいいなーって私、気になって聞いてみたんですよー そしたらそしたら、なんと!なんと! コロッケもおいしいということを船長さんが教えてくれたんですよー」 「ほう!それは初耳だねぇ…楽しみが増えたね!」
2016-11-21 21:28:12延々とループを繰り返す話の中で男は興味を引く話を聞き、表情を明朗とさせた 自身の至り知らぬ情報を耳にして心を踊らせたのか、その一言に強く反応を示すとようやく重い腰を上げる。
2016-11-21 21:28:59男はつらつらと続くやり取りを耳にしていたのか、げんなりとした様子を見せる船員たちに一瞥すると、その場を後にするべく足を進めた。 それでも女は話を途切れることなく続ける。 「それでですねー、船長さんがおすすめするお店も警備府の近くにあるらしいんですよー」
2016-11-21 21:29:51「明治時代から創業している古いお店らしいですよーそれでそれで…」 「いやぁ、実に興味深い話だ。深く話を聞きたいからこそ――コロッケを食べながら話そうじゃないか!」 「あー、提督ー!まだ話は終わってませんよー、待ってください」
2016-11-21 21:30:38慌てる護衛の女を尻目に男は話を聞きつつも湧き上がる食欲に浮足立つ 男は話の内容だけを先へ進め、歩みは後ろからついてくる護衛の歩調に合わせて前をゆっくりと歩く 「そこのお店の場所なんですけど、ここがなかなか素人には見つけにくい場所らしくて 人ぞ知る老舗!って感じがしますねー」
2016-11-21 21:31:32その背に向けて女は夢中で語りかけ続け、 男はその声を背で聴きながらもしっかりとそれに応える、 という様子はすれ違う船員の誰もが視線を送り目を丸くするほど不思議な状況。 しかし、その状況はそう長くは続かなかった。
2016-11-21 21:32:15連絡橋を渡り大湊の大地へと続くタラップを降りようとする男は、ふと歩みを止め、片眉を吊り上げた。 「んん?」 耳に届く聞き慣れない轟音と、視界に投げかけてくる光を認め、そちらに注意を取られたからだ。
2016-11-21 21:33:14「あれは…?」 「聞き覚えのない音ですねー、私の使う艦載機にもあんな子達はいませんよー」 後に続く護衛の女もその音を捉え、首を傾げてみせる。 遠目に見える海の上、そのさらに上の宙を駆ける複数の翼、航空機だ。
2016-11-21 21:34:12彼らの目に映るのは…機体後部から火を吐く噴進機。 この世界の技術ではまだ試作段階の域を出ず、拝めることは非常に稀で失敗した例も少なくはない。
2016-11-21 21:34:40男としては噴進機自体はそれほど珍しいものという認識ではなかったのだが、 その航空機は記憶の隅から隅まで攫ってもくみ取れない独特の形状をしていた。 そんな未知の物体が空を舞っていることに男は目を輝かせた。
2016-11-21 21:35:47好奇心が刺激され、満たされる感覚に男は充足感を得ると頬笑をその顔に張り付けた そして高らかに、おおらかに、肩を上下させ笑い声をあげる。 その声は、狂喜と狂気が入り混じる妖しさをも醸し出す。
2016-11-21 21:36:45男の名は、―――江見悠。幌筵泊地の長官にして、 日本国海軍において彼のみに与えられた元帥海軍大将と同等の位、唯一無二の階級「上級大将」という地位を持つ将官だ。
2016-11-21 21:38:22彼がこの地に訪れたのは「気まぐれ」以外の理由はないものの… 携えていた情報を始まりとして、この地に戦乱の渦を巻き起こす事件の幕開け、その発端となるのは… この時はまだ、誰も知る由もない。
2016-11-21 21:39:32―――幌筵長官「江見悠」上級大将、及びその隷下、対潜軍団長兼対連合艦隊迎撃作戦想定艦隊六甲、第五位「”蝕み”チヨダ」、大湊警備府に到着。
2016-11-21 21:40:21