『この世界の片隅に』弾薬雑考その3(時限爆弾)

『この世界の片隅に』に登場する日米の弾薬についての解説です。第三回目は時限爆弾について。
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たまや @tamaya8901

『この世界の片隅に』の弾薬解説3回目は、すずさんと晴美の運命を決めた爆弾について。#この世界の片隅に pic.twitter.com/Jl8xWvJaPD

2016-11-27 16:14:15
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日本側の資料として参考にするのは、昭和19年度の『爆弾処理之参考』という綴り。様々な爆弾の種類と特性、処理に関する規定がまとめられている。米軍側の参考資料は『BOMBS FOR AIRCRAFT』ほか。 pic.twitter.com/RABlb8FlgE

2016-11-27 16:15:14
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6月22日の呉空襲で使用されたのは、AN-M65 1000ポンド通常爆弾(1/10・1/40秒延期弾頭と1/40秒延期弾底信管)、AN-M64 500ポンド通常爆弾(1/40秒延期弾頭と弾底信管)、AN-M66 2000ポンド通常爆弾(1/40秒延期弾頭と弾底信管)の3種。 pic.twitter.com/04jRUCfxIs

2016-11-27 16:15:57
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各爆弾の構造図はこの通り。基本的に、爆弾の先に弾頭信管を、後部に弾底信管をつける。 pic.twitter.com/mkaoWyPnZo

2016-11-27 16:17:33
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「この世界の片隅に」原作漫画中では、路傍の地面に爆弾が刺さった状態で描かれている。このように露出しているのは、あり得ないわけではないが特殊な状況で、一般の場合においては地中に潜り込んでいるのが通常である。 pic.twitter.com/vXQajtY1yY

2016-11-27 16:18:47
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土中に埋没した爆弾が爆発すると、地上で爆発した場合に比べて被害は著しく減少する。状況によるが、数十分の一から数百分の一となる。とはいえ、被害範囲に入ってしまうとやはり危険なことにかわりはない。

2016-11-27 16:19:23
たまや @tamaya8901

その被害範囲はこの図のようになり、原作漫画の状況は(イ)の図で、正直これだと多分二人とも助からない。対して映画版の状況は(ロ)の図で、点線ラインの中か外かが生死を分ける。(ハ)の状況なら良かったのだが…。 pic.twitter.com/KumX4fdt0M

2016-11-27 16:20:18
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原作と比較して、映画ではより状況に忠実になるような表現になっていることが良く分かる例である。 pic.twitter.com/umxmtlgGJ2

2016-11-27 16:21:21
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ちなみに作中で言っていた漏斗孔(ろうとこう)とは砲弾や爆弾が落ちたり爆発した、逆円錐形の孔だ。これは、昭和19年2月に三重県の陸軍明野飛行学校で行われた爆破処理実験の際に撮られた写真。 pic.twitter.com/t9u3c6LCno

2016-11-27 16:22:19
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日本陸軍の九四式百瓩爆弾の水平爆撃による着弾状況。 漏斗孔の底部に尾翼だけがのぞいている。 明野飛行学校がやった実験の写真なので、 恐らく伊勢市の海岸部にあった演習場での撮影だろう。 とすれば土質は砂地。 土質・投下高度・弾種などによりこの状況は様々に変化する。 pic.twitter.com/4Voq3hKZj1

2016-11-27 21:37:42
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時限爆弾というと、時計が入っていて赤と青のコードがあって…というのをイメージされる方が多いと思うが、米軍が使用した爆弾だと、爆弾の後部についている普通の弾底信管に代えて長時限で作動する信管を取り付けて時限爆弾に仕立ててある。

2016-11-27 16:22:56
たまや @tamaya8901

誤解の無いよう補足すると、多くの爆弾は着弾時に作動する弾頭信管とこのような弾底信管がついていて、時限爆弾はその中に少しだけ混ぜられている。なので、現在見つかる不発弾も、多くは普通の爆弾が信管の作動不良などで爆発しなかったものである。twitter.com/tamaya8901/sta… pic.twitter.com/nX3xU2H5NH

2016-11-27 21:04:43
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不発弾の発生率と時限爆弾の割合は、時期や攻撃目標によって当然違いはあるが、昭和18年1月から19年1月に蘭印に投下された爆弾を日本軍が調査した統計では、平均して不発弾発生率は4.6%、時限爆弾は0.9%というデータがある。 pic.twitter.com/6qps7VPGUq

2016-11-27 16:23:46
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米軍の長時限信管は何種類かあって、それぞれの設定時間も色々な種類があるが、日本に落とされた主要なものとしてはAN-M123A1に代表される「123系信管」というものがある。 pic.twitter.com/c8XMT9gBAZ

2016-11-27 16:24:50
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123系信管とは、取り付ける爆弾の大きさに応じて全長が違う3種の信管の総称で、M123A1(全長6.3インチ)、M124A1(全長9.3インチ)、M125A1(全長13.3インチ)、といったものがある。「A1」がつかない無印のものは、プロペラの構造が違う他同じ。

2016-11-27 16:26:30
たまや @tamaya8901

この写真は海外のサイトから。 pic.twitter.com/MQwYjyMQA0

2016-11-27 16:28:52
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時限の作動部分は3種とも共通で、 これがさらに1、2、6、12、24、36、72、144時間の8種類がある。 このうち、現在不発弾で見つかるのは1時間のタイプが多い。

2016-11-27 16:29:59
たまや @tamaya8901

ストーリーの時間経過から察するに、すずさんたちが被害に遭った爆弾は、仮に123系信管付きとすれば、500ポンド(250kg)ならM124信管の1時間タイプ装着であった可能性が高いだろう。

2016-11-27 16:30:41
たまや @tamaya8901

爆弾にこうした長時限弾底信管を装着する場合、通常は弾頭信管を装着せず、弾頭プラグを代わりにつけておくのが基本だ。それで、映画の爆弾投下シーンを良く見ると、本来は銀色のはずの弾頭信管部分が本体と同じOD色になっている。

2016-11-27 16:31:09
たまや @tamaya8901

一瞬なのではっきり分からなかったが、これ、ひょっとして弾頭プラグを表現しているのではないだろうか?また見に行って、それでもよく分からなかったら、BDが出た後で改めて一時停止で確認してみたい。

2016-11-27 16:32:36
たまや @tamaya8901

ということなので、この理屈でいえば不発弾が見つかったとして、弾頭信管がついていれば時限爆弾ではない・・・というほど実は単純じゃない。

2016-11-27 16:33:19
たまや @tamaya8901

たまに弾頭信管と長時限信管を併用していることがあり、弾頭信管が不発だったら時限爆弾と化すようになっている。しかも、そういうのに限ってやたらと長時間のタイプがつけてあったりするというのだから、実にタチが悪い。やはりきちんと識別しないとはっきりとは分からない。

2016-11-27 16:33:58
たまや @tamaya8901

この信管は外観上、装着してある根元の部分に、ヘンテコな形の「ロックナット」が付いている点で識別ができる。自衛隊では通称「菊ワッシャー」と呼んでいる。これは、123系に類似した時限信管の132系弾底信管も共通する特徴である。 pic.twitter.com/R6skpq7FEe

2016-11-27 16:35:08
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たまや @tamaya8901

厄介なのは、装着されていると外見からはどの時限のものがついているか全く分からない上、時間はあくまでも公称で、必ずしもこの通りで爆発しないということ。時限装置に化学反応を用いているので、こんな感じに気温によって時限は大きく変化する。 pic.twitter.com/GZMyagtTz7

2016-11-27 16:37:11
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たまや @tamaya8901

これの作動機構も非常に凝っていて、爆弾が落下する際にプロペラが回転すると、その中心軸が一定のところまでグリグリと信管の中に下がってくる。その下には、アセトンの入ったガラスのアンプルが設置してある。(このカットモデルの写真も海外サイトから) pic.twitter.com/bQilga8Vy3

2016-11-27 16:38:24
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