『この世界の片隅に』弾薬雑考その5(焼夷弾・後編)

遅くなりましたが、『この世界の片隅に』に登場する弾薬の解説5回目。焼夷弾を集束したクラスターの構造についてです。
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たまや @tamaya8901

冬コミの原稿が一段落ついたので、『この世界の片隅に』の弾薬解説5回目を。今回は焼夷弾のクラスター(集束)について。集束焼夷弾の子弾、M69については前回参照togetter.com/li/1056105   #この世界の片隅に

2016-12-25 16:58:36
たまや @tamaya8901

集束焼夷弾といえば大抵の本に載っているこの絵。パカッと空中でいきなり分解しているが、どういう仕掛けになっていて、上空5000フィートでバラけるのか、これでは全く理解できない。 pic.twitter.com/EQGkjcI2Os

2016-12-25 16:59:14
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こちらはまだマシなほう。『決定版 太平洋戦争⑧』から。 pic.twitter.com/9zH665wVSs

2016-12-25 17:00:20
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M69焼夷弾のクラスターは、いくつか種類があり、最もよく使われたE46というものは、このような外観をしている。断面図のように、M69焼夷弾19発が束になっていて、これが前後2段の合計38発入っている。36発とする説もあるがそれは全くの誤り。 pic.twitter.com/qeDgqyGsZS

2016-12-25 17:01:56
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米軍のクラスターの型式番号について整理しておくと、 ①クラスター容器の番号 ②小爆弾を入れたクラスターの番号 ③小爆弾の番号 の3種類がある。 六角焼夷弾のM69という名称は言うまでも無く③のこと。これを「E23」という①の名前のクラスター容器に入れたものが「E46」と呼称される

2016-12-25 17:04:17
たまや @tamaya8901

じゃあ、E23容器に他の子爆弾入れたらどうなるんだというと、 「M74焼夷弾」を38発入れたら「E48」 「E5R8ガス弾」を38入れたら「E61」 「M77発煙弾」を38発入れたら「E67」 という具合だ。任務報告書に書いてあるクラスターの名前を見れば、何を使ったのか分かる。 pic.twitter.com/sh4JPNIqsG

2016-12-25 17:06:12
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なお、M69焼夷弾を集束したのは、「E46」だけではなく、結束解除方式が異なる「E6R2」というクラスター容器に、同じく38発入れた「M18」(E28)というものもある。頭部に1つ信管がついていて後部には信管がない。日本の都市空襲に初期から使われているが後にE46が主力となった。 pic.twitter.com/IJslFdg3CM

2016-12-25 17:07:56
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他に、クラスター容器に信管がついておらず、爆撃機から投下されたすぐにバラけるものもあって、これには7発×2段=14発集束のAN-M12 100ポンド集束焼夷弾、20発×3段=60発集束のAN-M13 500ポンド集束焼夷弾というのもある。 pic.twitter.com/ytVOTLLawP

2016-12-25 17:08:58
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たまや @tamaya8901

この動画の1:53くらい、投下された直後に集束が捌けているのは、この速開型のクラスターのどちらかを使ったものと見てよい。その直前のE46の搭載映像は編集でつないだだけだろう。 youtube.com/watch?v=uPteVZ…

2016-12-25 17:16:32
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このクラスターの先端には鉄製で直径38cm弱の弾頭バラストがついている。これが非常に重く、落下してきものを漬物石代わりに使用していたという話もある。鋳物なので、こんなふうに割れてしまうことも。twitter.com/same_desu2/sta…

2016-12-25 17:17:20
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後部の断面は、このようになっている。中にはやはりバラストとして鉄の塊がつけてある。これが前の重りと合わせて、クラスターを爆撃機の弾倉内に吊るした際、前後のバランスが取れるようになっている。 pic.twitter.com/esMvUZxHWi

2016-12-25 17:22:11
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尾翼の中心となる円錐形の部分と、焼夷弾の集束部分とは、青丸の部分で繋がっていそうに見えるが、実はここはくっついておらず、赤丸のボルトで締めた所だけが、本体から伸びてきている弾尾棹との接続点になる。

2016-12-25 17:22:53
たまや @tamaya8901

尾翼には、2つ時限信管が取り付けられている。信管にはプリマコード(導爆線)がくっつけてあり、その線の一端がこの接続点に巻いてある。

2016-12-25 17:23:33
たまや @tamaya8901

「導爆線」とは、火薬が入っていてゆっくり燃えていく「導火線」とは違い、中に爆薬が入っていて、端で起爆すると導火線とは比べ物にならない速さで爆発(爆轟)を伝える火工品で、発破などで使う。

2016-12-25 17:24:03
たまや @tamaya8901

どんなものかは、この動画で。ビア缶に巻きつけて起爆すれば真っ二つだ。youtube.com/watch?v=2OmFms…

2016-12-25 17:24:55
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たまや @tamaya8901

さらに、木に巻きつけて起爆し、切断するのにも使える。薄い金属板やフレーム程度ならその爆発で簡単に切断できるので、解体作業にも使われる。 youtube.com/watch?v=aleeJ9…

2016-12-25 17:25:27
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信管が起爆すると導爆線も爆発し、さきほどの尾翼と本体の唯一の接続点を吹き飛ばす。こうなると、尾翼は空気抵抗を受けて自然に後方に外れていく。 pic.twitter.com/UbDOSyGkJX

2016-12-25 17:27:46
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この尾翼には、もうひとつ仕掛けがある。クラスターの本体は、9本の薄い金属ベルトで〆てあるのだが、それには各々締め金具がついている。この金具に2本の針金(安全解除線)が通してあり、これが抜けると金具が緩み、ベルトが外れるのだ。

2016-12-25 17:28:15
たまや @tamaya8901

この安全解除線の端が、尾翼にくっつけてある。つまり、尾翼が外れると安全解除線も一緒に金具からすっぽ抜け、ベルトが外れてクラスターがバラバラになるというわけだ。

2016-12-25 17:28:53
たまや @tamaya8901

ところが、この信管が作動しないことも考えられるし、実際そうなった例も少なくないらしい。そのため、予備にもう1つ信管がついている。この信管にもやはり導爆線がくっつけてあるが、こちらの線はクラスターの側面にずーっと通してあり、先は弾頭の辺りまで入っている。

2016-12-25 17:29:41
たまや @tamaya8901

もし最初の信管が不発だったら、2秒遅らせてセットしてあるこちらのほうの信管が作動し、クラスター側面に通してある導爆線が起爆、ベルトを強制的に爆断してクラスターを分解するという、荒っぽいことになる。 pic.twitter.com/vzo2XK2rjK

2016-12-25 17:30:39
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たまや @tamaya8901

信管の図面と現物がこれ。赤い羽根のものが「E23」クラスターにつけるM152またはM153信管の頭部。クラスターの先端につけるM138と比較するとやや大型なのと、受ける風の向きが逆なので羽のねじりが逆になっているのが特徴。 pic.twitter.com/sNXBPSicbL

2016-12-25 18:02:55
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たまや @tamaya8901

で、2つとも不発になる場合もたまにあって、その場合はクラスターのまま降ってくることになる。M152・M153信管は体部が銀色、羽根が赤というおもちゃみたいな外観なので、子供が面白がってこれに触り、爆発事故になった例が複数ある。

2016-12-25 18:03:43
たまや @tamaya8901

余談だが、焼夷弾にまつわる「ハマグリ発火事案」の話。黄燐入りのM74焼夷弾が使われた三重県津市の近傍で、戦後に潮干狩りでハマグリを獲った人が鉄道で帰る際、突然ハマグリが発火するという事案が発生した。

2016-12-25 18:04:32
たまや @tamaya8901

それで、潮干狩りをした周辺を掘り返すと、E48の不発クラスターが出てきて、M74焼夷弾から黄燐が漏れていた。土中でハマグリが移動する際、この黄燐が殻に付き、列車の中で乾燥した頃合で発火した、というのが事の真相だったのだ。

2016-12-25 18:06:08