風見SS与太話1 -男心と早朝の空-

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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

1. 「うひぃっ、寒っ…!」 正面扉を開けた瞬間に肌に突き刺さる朝一番の冬の風。 思わず身震いしながら五十鈴は時間を確認する。午前5時。まだまだ日の出の時刻まで大分ある。 昨今の彼女の朝はとりわけ早い。 旗艦として、そして一負けず嫌いとして基礎体力作りから欠かさないように。

2016-12-19 22:34:21
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2. ぴしゃりぴしゃりと両の頬に掌で気合いを入れ、先ずはストレッチ。 ゆっくりと呼吸の調子を整えながら、身体を慣らしていく。胸・肩・腕・腿…順々に行う内に、幾ばくか寒さもマシに感じるようになる。 「…ん?」 腱を伸ばしている内に何気なく屋舎を眺めていると、窓の人影に目がいった。

2016-12-19 22:39:24
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3.「んん…?」 そこは雲龍の部屋。そして、窓の先に見えるのは勿論雲龍…の、横顔。 窓際のドレッサーに座っているようである。 「アイツもこんな時間に起きてるの…?」 身体を横に反らしつつ、怪訝な目を彼女へと向ける。 90°倒れた世界の彼女は、ただただじっと鏡を見つめていた。

2016-12-19 22:43:20
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4. 五十鈴が一通りの身体慣らしを終え、ジョギング開始前にもう一度窓に目をやってみたが、彼女の位置は先程と一切変わらず。壁に張り付いた蜥蜴のように微動だにしていない。 「…何やってるのかしら?」 首を捻りつつも、五十鈴は走り出した。 ずっと観察している訳にもいかないだろう…

2016-12-19 22:47:10
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5. 雲龍の部屋。そして当の本人こと雲龍は、ドレッサーに肩肘で頬杖をついたまま鏡の自分をじーっ…と見つめていた。 実はもうかれこれ1時間程はそうしている。 これが初めてでは無い。また、時間も不規則だ。何も毎朝こうしている訳では無い。 というより、この時間を選んだのは『彼』だ。

2016-12-19 22:51:09
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6. 鏡の前で固まったままの彼女の額…五十鈴の側からは流石に見えなかったが、じっとりと汗が滲んでいる。 「…」 そして、目や眉には微妙にイライラした調子が見受けられた。 雲龍の目線がもう一度まじまじと自分の姿を見る。 整った顔を、艶やかな手を、腕を、肩を、そして豊満な胸を。

2016-12-19 22:55:44
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7.「…」 一通りに目線が回ると、雲龍はまたしても苛立ったオーラを放ち… そして、静かにそのままの体勢で目を閉じた。 もう何度目か。そして何度やり合ったか。 手を変え品を変え時間を変え…だが、敵の方が上手なのである。 彼女の脳内、いや、心の中では、激戦が繰り広げられていた。

2016-12-19 22:58:30
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8. 心の中に意識を集中すると、それまで居た簡素な自室とは違う景色が見えてくる。多数の近代的な牢獄で構成された、想いに蓋をしてきた『彼』の世界、T-83号独房。 その中央部に乱雑に張り巡らされた空中回廊の手すり、そこにもたれ掛るようにして、照海と雲龍は並んで立っていた。

2016-12-19 23:02:37
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9. お互いにお互いの顔は見ていない。視線は向かいの壁側に並ぶ牢屋のどこを捉えているのか?…どこも見てはいない。 「…なぁ、おい、雲龍」 照海がぽつりと呟くようにして切り出した。 そして間髪を入れずして、雲龍が一言だけ返す。 「イ ヤ」

2016-12-19 23:05:19
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10.「んぐぐぐぐ…!」 照海がもどかしそうに呻く。 このやり取り、何度目か。二つの心が同居するようになってからずっとだ。 ずっと。 「…一回ぐらい良いだろうがよ?なぁ!?」 「良い訳ないでしょ、このヘンタイ」

2016-12-19 23:10:58
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11. …簡単な話である。 雲龍は心が溶け合って以来、照海に『ただの一度も』性欲関連のコントロール権を与えていないのだ。 「お前、お前ェ…目の前にこんなキレーな女がいてよ、それが自分自身だってのに『触れない』んじゃなくて『触らせる気を起こさせない』とか…俺を生殺しにする気かよ!」

2016-12-19 23:14:12
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

12.「なによ、入渠の時に裸は十分見てるでしょう?そ・の・あ・た・り、こっちは妥協してあげてるんだから、その位我慢なさい」 「ぐぎぎぎ…!」 おかげで感性も感受性も決定権は彼女側に有り、先程のように顔を見ようが胸を見ようが『普通』に見えてしまい、照海としてはたまったものではない。

2016-12-19 23:19:25
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13.「…上等じゃねぇか、だったらその権利、そろそろこっちに渡してもらうまでよ…」 照海が手すりの横に無造作に転がっていた鉄パイプを手に取る。 「それ、もう何度目かしらね?幾ら心的環境を変えようと企んでも人間のアナタが私に敵う事は、無い」 雲龍も持っていた錫杖を一周させ、構えた。

2016-12-19 23:22:51
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

14.「うぉおおおおらあぁあああ!!!」 T-83号独房では今日も大量の爆撃が行われる。心の中の世界とお互い分かっているだけに、遠慮も配慮も無く。 「…」 午前6時。2時間に渡る心内の決着がつき、今日もドレッサーの前には先程とうって変わって澄ました表情の雲龍が居た。 「全く…」

2016-12-19 23:26:59
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

15.「…ホントに何してんの?アイツ」 窓の向こう、地上では…朝のトレーニングを終えた五十鈴が、開始した時よりも更に怪訝な目で、トレーニング開始前と同じ位置に同じ体勢で座っている雲龍を見上げているのだった。

2016-12-19 23:29:00