Re:Incarnation #04

2015/9/20に頒布した艦隊これくしょんの二次創作小説『Re:Incarnation』をTwitter小説の形態で組み直したもの。
0
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

「……その程度の練度じゃ、一生無理です、だもんね」

2016-12-26 23:26:56
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

古鷹たちの数的有利で始まったはずの勝負。 けれど蓋を開けてみれば、青葉が圧倒的な差を突きつけた結果となった。 三人を相手取ったにも関わらず、青葉の明確な被弾はゼロ。対する三人は揃って大破判定で。 誰も口を挟む余地がないくらい完璧で鮮やかに、青葉は自分の意見を押し通した。

2016-12-26 23:29:49
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

思い返せば、あの日の青葉ははじめから様子がおかしかった。 執務室で顔を合わせたときから表情は常に固く、口元は引き結ばれたまま。 演習開始の直前、真正面から砲口を突きつけられたとき以降、青葉は古鷹と目を合わせようとしなかったし、公の場以外で同じ空間にいることもほぼなかった。

2016-12-26 23:34:15
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

有り体に言えば、青葉はずっと古鷹を、古鷹たちを避け続けている。 本来なら編成を終え、慣らしをした後すぐ、出撃任務と連続するはずだった予定は、演習の結果を受けて、無期延期になってしまった。 状況が覆る様子は今のところない。

2016-12-26 23:35:26
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

青葉に真っ先に大破させられたのは案の定古鷹だったが、身体が動かなかった理由は、戦いへの準備ができてなかったせいだけではない。 船底にへばりついた固着動物のように、湧きあがった疑問が払拭できないままで、集中力を欠いていたせいだ。

2016-12-26 23:37:50
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

考えていたのは、青葉のことだ。 青葉の態度と、その急激な変化について。

2016-12-26 23:38:43
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

艦娘として生まれ落ちて、初めての記憶。 忘れられるはずもない。 ここで建造され、目を開いたときに真っ先に飛び込んできたのは、泣き笑いの表情の青葉だった。会えて嬉しいですと泣きじゃくる青葉を、生まれたばかりの古鷹が肩を叩いて宥めた光景は、今では遠い出来事のように、古鷹には思える。

2016-12-26 23:40:56
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

ほとんど間を置かず、加古と衣笠に転籍命令が下され呉にやってきたとき、入り口で出迎えたのは古鷹だけだった。 建造初日除いて、二人が着任するまでの数日間、古鷹は青葉と話す時間を作れないでいた。きっと秘書艦の仕事が忙しいのだろう、そう思っていた。

2016-12-26 23:42:07
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

「自分の妹が着任してきたときくらい、出迎えてくれたっていいじゃない、バカ青葉。古鷹ねーさんはちゃんと来てくれたっていうのに」 口を尖らせて拗ねる衣笠の姿がおかしくて、横にいた加古がぷっと吹き出した。釣られて古鷹も微笑んでしまう。

2016-12-26 23:44:15
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

青葉が捕まらず、仕方なしに一人で出迎えた古鷹だったが、微かな申し訳無さよりも、四人が揃う嬉しさの方が勝っていて。だからこそ、頬の弛みが抑えられなかった。加古と衣笠もだ。 ――思い返せば、古鷹が心の底から笑顔でいれたのは、この日が最後だったかもしれない。

2016-12-26 23:46:28
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

加古と衣笠が呉に着任して、次の日が件の演習。 だから古鷹からすれば、初めて出会った日からしばらく会えずじまいで、数日ぶりに顔を合わせた青葉の態度が、まるで別人のように豹変してしまったことへの困惑しかなかった。

2016-12-26 23:54:58
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

いや、正確には建造初日、とある出来事が青葉を傷つけてしまった自覚は、ある。 もう一度話せればきっと大丈夫だと信じていた。自分たちの繋がりはそんな脆いものではないと。けれど実際は古鷹が思い描いたものとは程遠く、遠すぎて手の伸ばし方すらわからない。自身の楽観的な考えを、今も悔やむ。

2016-12-26 23:58:26
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

それから、あの日青葉とした会話を一つ一つ思い返した。またさらになにかを取りこぼしてしまうことが嫌だった。自分自身も高揚していて、当時の青葉の細やかな変化を覚えていないことに唇をかむ。 それでも、やはり最後に交わした会話に間違いないと古鷹が確信に至った頃と時を同じくして――

2016-12-27 00:03:32
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

――もう一人の青葉が建造された。通常ありえないことだった。

2016-12-27 00:04:03
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

珍しいケースだからだろうか、解体も近代化改修もされず、呉には二人の青葉が所属することとなった。もう一人の青葉が建造されたときの秘書艦も、もちろん青葉で、その時に二人の青葉の間でどのような会話がなされたのか、古鷹は知らない。

2016-12-27 00:08:09
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

さておき、青葉の心変わりの理由を見つけ出した古鷹は、以来時間を見つけてはここ資料室に足繁く通っている。残念ながら今のところ成果はない。 徒労感を拭い去ろうとするように、コーヒーを口に含む。ことりと音を立ててカップをテーブルに戻すと、大きく一つ息を吐いた。

2016-12-27 00:09:42
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

「……本当にこころって、必要、なのかな」 視線を落として、緩やかに上下する胸元と、その奥で脈を打つ心臓を思う。心という文字を冠していようとも、古鷹にはそこに意識があると思えない。

2016-12-27 00:14:25
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

目を閉じて、意識を瞼の裏側に向ける。脳が複雑な化学反応の溶鉱炉であることは知っている。その結果が意識に様々な影響を与えることも。 けれど、心の発生源かと問われれば、きっと違うと古鷹は返す。感情や意識が生まれるところかもしれないけれど、心はもっと違うところにある気がするのだ。

2016-12-27 00:15:18
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

どこから生まれるものかわからないけれど、確かに艦娘にだってあると古鷹は思っている。古鷹にも、加古にも衣笠にも――青葉にも、もちろん。 ただ、それが足枷になっていることもまた事実。本来、通常以上の力を発揮するための駆動力として期待されているものが、今はむしろ抑止力として働いていた。

2016-12-27 00:20:03
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

だから古鷹は迷う。迷っている。この機能は、この身体は本当に私たちにとって必要なものなのだろうか、と。 「なーに言ってるのよ、古鷹ねーさん。心が不要なら艦娘なんてお払い箱じゃない。だったら、深海棲艦と戦うのはただのふねか、ロボットで充分よ」 「えっ……衣、笠?」

2016-12-27 00:22:06
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

「はい衣笠さんですよー。隣、いーい?」 古鷹の返事を待たずにどかりと座る。いつの間に入れたのか、コーヒーが満たされた紙コップを手にしていた。 「今、すぐ脇を通って入れたんだよ。古鷹ねーさんは気づいてくれなかったみたいだけど。あと、独り言はもう少し声を抑えた方が良いんじゃないかな」

2016-12-27 00:23:19
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

「……もしかして私、声に出してた?」 「そりゃもう、盛大にね。他に誰もいないから、いいと思うけど」 ずずず、と音を立ててコーヒーを啜る。正直あまり品が良いとは言えないが、古鷹は衣笠のそういう大らかさが好きだった。

2016-12-27 00:31:51
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

「んー、この苦みが味わえるだけで、私は人間の身体になって良かったって思えるんだけどなあ」 「私は、ブラックはちょっと、苦手かな」 「古鷹ねーさんはおこちゃま舌なのね」

2016-12-27 00:35:24
Re:Incarnation広報室 @ReI_rebuild

そんなことないよ、味の好みは好き好きだし、と言い返そうと思った矢先、衣笠にくしゃりと頭を撫でられてしまった。身長は古鷹よりも衣笠の方が高いので、端から見れば本当に衣笠の方が姉に見えてもおかしくない。 「……私が、一番お姉さんなんだよ」 (重巡洋艦の中では、だけど)

2016-12-27 00:39:05