G.マーラー 実演用スコアの作成について

指揮者、高関健氏がマーラー交響曲の実演にあたりどのようにスコアに手を入れているのかを語る。
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高関 健 @KenTakaseki

改訂について、その重要さを認識したのは1987年の津山国際音楽祭、九響と広響の合同オケと第2交響曲を演奏した時である。旧全集版はサイズが小さ目なので、大型のK社リプリント(ソヴィエト時代のMuzyka版のコピー)を購入、Ratzの校訂を書き込むことで作品の理解が進むと考えた。

2011-02-28 23:19:17
高関 健 @KenTakaseki

2)同じ頃、第2交響曲の自筆ファクシミリが出版された。初版を含む4種類を比較して、度重なる改訂により表現が精密になることを実感。また津山ではGM研究を牽引するDe la Grange, Floros, Mitchell氏が集まり座談会を行い、その内容も私に大きな影響を与えた。

2011-02-28 23:19:32
高関 健 @KenTakaseki

3)交響曲の作曲にあたり、GMはスケッチをたくさん準備。続いて4段組みのピアノ連弾に近い形で作曲。この段階で構成をほぼ決定する。続いて横長の五線紙を使い、オーケストレーションしながら具体的な下書きを作り、これを基に改訂を加えながら清書原稿を書いていく。

2011-02-28 23:19:42
高関 健 @KenTakaseki

4)完成した清書原稿から製版のための写しが取られ、この写しを基に製版、試し刷り、確認訂正の後に印刷されて出版となる。GMは写しや試し刷りにも改訂を加えていくことがある。また初演での練習と本番を経て行われた改訂が重版に含まれることもある(例:第6交響曲の曲順)。

2011-02-28 23:19:55
高関 健 @KenTakaseki

5)GMの場合、下書きの段階で曲の構成が完成。その後は表現の正確を期した記譜の変更、楽器間のバランスを調整、表現の具体化をめざす強弱の追加などに限られ、構成に関わる変更はない。しかし、ほぼすべてのページに改訂が加えられるので、改訂の前後でスコアを比較するとその差は歴然としている。

2011-02-28 23:20:06
高関 健 @KenTakaseki

6)私事で恐縮ではあるが、GMの演奏を積み重ねるに従い、全集版のスコアにも錯誤や不備な点が多くあることがわかってきた。最も顕著に気が付いたのが1993年に第7交響曲の初演奏の準備に取り掛かった時である。

2011-02-28 23:20:19
高関 健 @KenTakaseki

7)GM7の楽譜の状況については先日記録した通りである。初版は言うまでもなく、Ratz版でもたくさんの誤植が残されていることは判っていた。特にパート間のアーティキュレーションの不統一、強弱や表情の脱落(記載なし)など、演奏の実際に影響する諸問題が残されていた。

2011-02-28 23:20:33
高関 健 @KenTakaseki

8)1993年当時は、準備も行き届かず、演奏も残念ながら十分なものではなかった。Ratz版をそのまま使うだけでは納得の行く演奏にはなり得ないと考え、資料を調べ、それを拠り所に自分の演奏用のスコアを作り、それにマッチするパート譜を準備する必要を感じるようになった。

2011-02-28 23:20:46
高関 健 @KenTakaseki

9)契機となったのは、1999年の第9交響曲の演奏である。私はLBとHvK、二人の巨匠がGM9を演奏した際に、幸運にも練習から立ち会っている。演奏が素晴らしかったのは当然だが、二人が十分な準備のもとに演奏に取り掛かったことを私は目撃している。

2011-02-28 23:20:58
高関 健 @KenTakaseki

10)GM9は「大地の歌」と共に、作曲者の急逝により自作自演が叶わなかった。普段であれば、初演および再演のための練習で十分行えるはずの改訂が行われていない。出版された初版スコアには、不注意による錯誤や不十分な記載がたくさん残されたままである。

2011-02-28 23:21:10
高関 健 @KenTakaseki

11)RatzはGM9全集版の前書きで、清書原稿の不十分な状態と編集の指針を説明して、同時に出版したスコアの下書きファクシミリを参照して、演奏家自身が判断の上、演奏することを勧めている。

2011-02-28 23:21:20
高関 健 @KenTakaseki

12)私は99年群響との演奏を控え、下書きファクシミリ、初版、Ratz全集版を比較対照し、不揃いや不徹底な個所について自らの判断で変更を決め、買い求めた初版パート譜(K社)に書き込んで演奏版を作った。成果の是非について判断はできないが、効果が上がったことは実感している。

2011-02-28 23:21:30
高関 健 @KenTakaseki

13)以後、GMの演奏では、楽譜についての考察の後、自分なりの演奏版を決め、パート譜を作ったり、オケのライブラリーに書き込みをお願いしたりしている。近年は待望された新全集版(NKG)の出版も始まり、幸い編集者たちとの知遇も得て、より深い知識を教えていただき、演奏に取り入れている。

2011-02-28 23:21:40
高関 健 @KenTakaseki

14)2006年に第2交響曲を演奏する際に、出版前のNKG試刷版をお借りすることが叶い、新版による演奏が実現した。その際、新しいスコアをチェックした際に、不明な点や誤植では?と疑われる個所についてIGMGに思い切ってメールを送ったところ、折り返し返事を頂いた。

2011-03-01 00:50:40
高関 健 @KenTakaseki

15)返事をくださったのが代表編集者のStark=Voit女史で、数回のメールでの議論の結果を演奏に反映させることができ、大変有意義であった。その後第5、第6交響曲でKubik博士と意見を交換し、今回の第7についても2007年の群響での演奏以来、議論を重ねている。

2011-03-01 00:51:03
高関 健 @KenTakaseki

16)幸い第7も精度の高いファクシミリが出版されている。群響との演奏のために、第9と同じ目的で書き込んだパート譜を作った。前に述べたように第7では前後上下のパート間の不統一、不徹底が非常に多く残っていたので、明瞭な響きを獲得するために不可欠と判断した。

2011-03-01 00:51:33
高関 健 @KenTakaseki

17)自らの判断で変更した個所を記録して、リストにまとめるとA4で25ページを超えてしまったが、そのままKubik博士に送ったところ、数日後に○×で添削した回答を頂いた。まだ練習開始前だったので、そのまま演奏に反映させることができ、非常にありがたかった。

2011-03-01 00:51:58
高関 健 @KenTakaseki

18)私からの質問リストは、演奏する側からの根拠の乏しい、感覚と経験のみに頼るものだったことは明白である。Kubik博士からの回答は×が3分の2を占めたが、内容を確認するにつれ、NKGの編集方針がようやく理解できるようになった。

2011-03-01 00:52:19
高関 健 @KenTakaseki

19)第7交響曲もNKGが間もなく出版される。今回の演奏を前に試刷版をお借りすることができた。またスコアには含まれない校訂報告については、Kubik博士から直接送って頂いた。こころから感謝する次第である。

2011-03-01 00:52:43