視界が滅茶苦茶セックスした 後編(完結)

短くまとめすぎて伏線貼り忘れてたかもしれない。
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劉度 @arther456

ザイルもマウントをひっくり返そうとするが、ジェイブが巧みにバランスを取るせいで身動きが取れない。振り下ろされる拳を避けるので精一杯だ。「挙句の果てに!生身の軍人だからクビだと!?ふざけんじゃねえ!体をいじくった!機械の!バケモン共がぁ!」22

2017-01-09 21:33:02
劉度 @arther456

トドメの大ぶりの拳が放たれた。ザイルはそれを待っていた。首を大きく捻り、拳を避ける。床を打ったジェイブの拳が一瞬止まる。ザイルは素早くジェイブの手首と襟を掴み、引き倒す。同時に腰の力でジェイブの体を持ち上げ、巴投げのようにジェイブのマウントを崩した。23

2017-01-09 21:36:08
劉度 @arther456

2人はほとんど同時に立ち上がった。ザイルの頭からは血が流れていたが、構う気にはならなかった。「テメェが貧乏だとか、そんなもん知るか」「何……?」「『この後滅茶苦茶セックスした』なんてクソ広告で世界が滅茶苦茶になるなんて、そんなギャグみたいな話があってたまるかあああ!」24

2017-01-09 21:39:03
劉度 @arther456

雄叫びを上げて、ザイルは跳んだ。そばの机を踏み台にして更に跳躍、ジェイブの頭上を取る。ジェイブは両腕をクロスさせて頭を守ったが、そんなものは関係ない。全体重を乗せた縦回転の回し蹴りを、躊躇いなく振り下ろす。骨の折れる音。そしてザイルが落ちた音が響いた。25

2017-01-09 21:42:04
劉度 @arther456

「ぐうっ……!」床に全身を強かに打ちつけ、ザイルは呻き声を上げる。「があぁっ!?チクショウ!」しかし、腕の骨が砕けたジェイブよりはマシだ。すぐに起き上がり、怯むジェイブの顔に拳を叩き込んだ。「ぐうっ!?」一発では倒れない。当然だ。そう簡単に倒れてもらっては困る。26

2017-01-09 21:45:02
劉度 @arther456

拳を振りかぶり、殴りつける。もう一度振りかぶり、殴りつける。義眼をつけてから今まで、ずっとザイルをイラつかせてきたのだ。2,3発で楽にはしない。鼻血を垂らし、頬骨が砕けて、殴る自分の手の甲にヒビが入っても、構わずザイルは拳を振るい続ける。そして。27

2017-01-09 21:48:01
劉度 @arther456

「オラァッ!」渾身の一振りが空を切った。ジェイブが膝から崩れ落ち、床に突っ伏したからだ。倒れたジェイブの頭に蹴りをくれてやろうかと思った矢先、『このあと滅茶苦茶セックスした』の広告が視界を遮った。「……クソッ」興が削げた。あるいは、冷静になったのかもしれない。28

2017-01-09 21:51:02
劉度 @arther456

「ジョニー、こっちは終わったぞ」証拠集めに奔走しているであろう仲間に、連絡を入れる。《本当か?》「ああ。ジェイブの野郎は叩きのめした」《そうか、完璧だ。こっちも証拠は集め終わった。今、タバサちゃんが相手のサーバーにトドメ刺してる》《乙》タバサからのメールも届く。29

2017-01-09 21:54:04
劉度 @arther456

「よくやった。後始末は任せる」《おk。保険も掛けたけど、必要なさげか》「保険?何したんだ?」《超下らないやつです。それよりスマホ》「ああ、それなら……」振り返り、机の上を見たザイルは凍りついた。30

2017-01-09 21:57:05
劉度 @arther456

「この野郎……何もかも滅茶苦茶じゃねえか……」顔を血塗れにしたジェイブが、机にもたれ掛かりながらスマホを握りしめていた。「ふざけんなチクショウ……何もかも滅茶苦茶にしてやる……!」ザイルは床に落ちた拳銃を見つけた。考える間もなくそれに飛びつく。31

2017-01-09 22:00:12
劉度 @arther456

だが、画面を一回タップするのと、拳銃を拾い、構え、撃つまでには、覆しようのない時間の差がある。ザイルが銃を構えた時、既にジェイブは画面に触れていた。その指令を受け、タバサの作ったウイルスが一斉に起動した。「焼け死ね、サイボーグ野郎……!」32

2017-01-09 22:03:06
劉度 @arther456

起動アプリから放たれた指令は、電波に乗って中継点に届き、そこから全国へと届けられた。深夜番組を映すテレビがその指令を受け取った。夜更かししていた学生のスマートフォンが指令を受け取った。コンビニの売上を記録する計算システムが指令を受け取った。33

2017-01-09 22:06:09
劉度 @arther456

無人のATMが指令を受け取った。銀行のメインシステムが指令を受け取った。入院患者の健康状態を管理するAIが指令を受け取った。軍の早期警戒システムが指令を受け取った。全ての指令を受け取ったコンピューターウイルスは、目的通り、一斉に起動した。34

2017-01-09 22:07:03
劉度 @arther456

ザイルのサイバー義眼も例外ではなかった。銃を構えかけたザイルの動きが止まる。ジェイブは血を吐きながらも勝ち誇った笑みを浮かべた。『ヘカトンケイル』を起動したコンピューターは、例外なく異常発熱を起こし、自壊する。それが脳接続CPUであってもだ。35

2017-01-09 22:10:07
劉度 @arther456

灼熱に焼かれているはずのザイルの脳は、しかし彼の腕を動かした。ザイルはジェイブの顔を見据え、拳銃の照準をピタリと合わせた。ジェイブが驚く前に、彼の額を銃弾が貫いた。スマホが手から転げ落ちる。ザイルは握る銃口と同じように、細いため息をついた。36

2017-01-09 22:12:02
劉度 @arther456

「おい、ジョニー」《俺じゃない。思いついたのは俺じゃない!》「タバサァ!」《はい?》それだけの短い文章に、タバサの自信満々の表情と心の底からの煽りが篭もっていた。山ほど言いたいことはあったが、言葉が詰まってしまい、逆に何も言えなかった。37

2017-01-09 22:15:07
劉度 @arther456

ウイルスによって、確かに国中が大混乱に陥った。ネット上でも軽い祭りになった。だが、すぐに沈静化した。国中のコンピューターの画面に『このあと滅茶苦茶セックスした』という広告が表示されただけで、人ひとり、コンピューター1台失われることがなかったからだ。39

2017-01-09 22:17:01
劉度 @arther456

ザイルの取り調べは一週間にも及んだ。何しろ国内全土を巻き込んだサイバーテロだ。下らない結果に終わったとはいえ、一歩間違えばどのような惨事になったかわからない。その上、相手がテロリストとはいえ、ザイルは何人か人を殺していた。41

2017-01-09 22:19:01
劉度 @arther456

それでも取り調べは早く終わった方だ。テロの証拠はジョニーが集め、軍に提出した。予備役とはいえ、ザイルが軍属だったことも幸いした。無罪放免、いくらかの謝礼を受け取って、ザイルは自分の車に乗って自宅に戻ることができた。42

2017-01-09 22:21:02
劉度 @arther456

自宅の惨状は遠目からでも確認することができた。門はこじ開けられ、柵には破損や血痕が見える。窓には補修中を示す青い板が貼られているし、庭には爆発痕まで残っている。中もこれと同じぐらい酷いに違いない。片付けの事を考えながら、ザイルは玄関をくぐった。43

2017-01-09 22:24:01
劉度 @arther456

「お帰りなさいませー、ご主人様」恭しく一礼をして出迎えたのは、メイドだった。「……待て」ただ、それはロボットではなく、メイド服を着たタバサだった。「どうしました、ご主人様?」「どうしたじゃねえよ、顔がニヤついてるぞ。いや、まずなんで俺の家にいるんだ」44

2017-01-09 22:29:01
劉度 @arther456

「いやあ、前のアパートが現場保存のためとかいって、入れなくなってるんですよ。ですから戻ってきちゃいました」「マリナ!マリナァーッ!」《いかがなさいましたか、ご主人様》聞き慣れた電子音声が、近くのスピーカーから響いた。「なんでこいつを追い出さなかった!」45

2017-01-09 22:30:07
劉度 @arther456

《ご主人様。彼女はこの事件の重要参考人です。今、路頭に迷われて行方不明になられるのは不利益です。アレキサンダー氏の推薦でもあります》 「ぐぬ……」彼女たちの言うことは一理ある。だが疑問はそれだけではない。「それはわかった。だけどなんでお前がメイドになってるんだ?」46

2017-01-09 22:33:04