「ホワイル・ネオサイタマ・スリープス」――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

殺戮機械の黒い頭部は、イチジクの運命を狂わせた、あの恐怖の一夜の主、黒いニンジャのそれに似ていた。Kirinkirinkirinkirin……甲高い金属音とともに滝のように流れ落ちる空薬莢のきらめきは、黒いニンジャの唇から滴った涎を思い出させた。　34

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

ニンジャ。その連想がイチジクのニューロンを加速させた。感覚器官のインプットと、記憶のロードが同時に起き、急激な負荷がニューロンを瞬時に酷使した。ニンジャ・フラッシュバック・ショックで、イチジクのニューロンは極限まで張りつめた。そこへ。　35

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

（畜生！アンタイセイ！テメェら！アンタイセイだ！）　36

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

燃える言葉がインターラプトしてきた。咄嗟に（ギンイチ＝サン）その名が思い浮かんだ。恐怖の夜、自分を助けてくれた男の子。恐ろしいニンジャから、自分をかばい、立ち向かっていった。彼が、あの時、震える拳を振り上げ、泣きながら叫んだ言葉。　37

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「アンタイセイ」呟くと、恐怖に蒼白になっていた彼女の【魂】が炎を発した。炎は魂と重なる心臓に飛び移り、過激な速度で動き出した心臓から血管に送り込まれ、瞬時に全身を駆け巡り、満たし、それらをある色に染め上げた。イチジクは目を見開いた。彼女の瞳は血走って、ほとんど赤黒く見えた。　38

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「アンタイセイ！」イチジクは懐かしい言葉を叫んだ。あの時と違うのは、その言葉が彼女自身と直結していることだった。あの時は、一体感のために口にしていた。その場の楽しみのためだけに口にしていた。だが、今は違う。自分のために。怒りのために。……自分だけの怒りのために！　39

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「「アンタイセイ！」」二度目はダブになった。彼女の隣で、彼女にぶつかった、スーツ姿の若いサラリマンが、同じ言葉を叫んでいた。「「アンタイセイ！」」彼女の背後で同じシュプレヒコールがあがった。「「「「アンタイセイ！」」」」彼女の前方で、生き残りの人々が叫んだ。　40

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「アンタイセイ！」イチジクも叫んだ。やみくもな激情、理不尽に対する悲痛な怒りが、彼女を駆り立てた。黒い殺戮機械……オナタカミ製無人戦車シデムシが、冷却を終えたガトリング砲を向けても、彼女の怒りは収まるどころか、かえって轟々と論理の輝きを吹き上げて燃え盛った。　41

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

（わたしにだって、わたしたちにだって、言葉はある！拳はある！ふざけるな！こんな狂った運命なんかに負けてたまるか！ふざけるな！ふざけるな!!ふざけるな!!!）　42

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「「「「アンタイセ「イヤーッ！」!!」」」」　43

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

突如！シデムシの頭上に炎の輪が閃いた。イチジクが焦点を合わせた時には、炎の輪は消えて、小柄な影が、燃えるチョップをシデムシの頭部に叩き込んでいた。激しい熱を発するチョップは、シデムシの頭部を半ば溶かしながら真っ二つに切り裂いた。　44

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

一瞬の間。そしてKA-BOOOOOM！殺戮機械は爆発四散し、焼けた破片が群衆に降り注いだ。「アバーッ！」「痛い！」「アイエ！」「助けて！」……生き残りの悲鳴が響き渡る中、イチジクは殺戮機械を倒した小柄な影を探した。　45

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

その影、赤い髪の痩せた少女が、あの恐怖の夜を境に見失った、イチジク自身のように思われたのだ。しかし……今のイチジクにはもう、それを見つけることはできなかった。　46

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「アンタイセイ！」「アンタイセイ！」「痛いよォ！」「お助け?」「誰かァ！」「アンタイセイ！」……いつしかイチジクの周囲をシュプレヒコールがどよもしていた。言葉のダブが彼女を追い越していく。群衆は巨大なワームめいて、どこかへ向けて這いずり出していた。　47

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

イチジクはおもむろに立ち上がると、シデムシの破片に貫かれたコートを脱ぎ捨て、群衆に加わった。……「アンタイセイ！」　48

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

拳を突き上げ、声を枯らして叫ぶ"女"の赤黒い眼に、黒々としたビルの谷間の向こう、ひときわ巨大なシルエットが映っている……マルノウチ・スゴイタカイビル。 49

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

（「ホワイル・ネオサイタマ・スリープス」#3）（おしまい） （#4に続く）

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「ホワイル・ネオサイタマ・スリープス」#4 pic.twitter.com/gmpn9th7Ny

拡大

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

January 19, 2038 at 01:12 AM (1)

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

暗い部屋で、くぐもったＢＥＥＰ音が起こった。 #nakayoshi：KAYO：ムギコ＝チャン、どうする？ フートンを頭からかぶって、ケータイＩＲＣの画面に見入る少女の緑色の顔は、限りなく無表情だった。　2

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

再びＢＥＥＰ音。 #nakayoshi：KAYO：カワイイコがオーボンダンスしてるってリン＝チャンがいってる！　ネコチャンもくるかもって！ (3)

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

新たなメッセージが、ムギコをフートンから飛び出させた。彼女は先日解散したオイランドロイド・アイドル・デュオ「ネコネコカワイイ」のファンで、特に一般オイランドロイドへ復帰するためにアイドルを引退した「ネコチャン」のファンだったのだ。　4

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

「どうしよう」ムギコは部屋の隅に目をやったが、そこにあるべきものが今はもういないことを思い出し、すんすんと鼻を鳴らした。そして、片手にＩＲＣ端末を握りしめ、フートンを抜け出すと、窓辺に立って、カーテンを開けた。　5

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

彼女が両親と住む高層マンションからは、ネオサイタマの夜景が一望できた。今夜の輝きは、これまでとどこか違って、まるで眠っているようだった。……ムギコはそこになにかを想起しかけたが、しかし、彼女はそのことに思いを巡らすより先に、考えるべきことがあった。　6

ヤラカシタ・エンターテインメント @yarakashita_ent

同じ学校の親友から、三十分前に届いたメッセージ。暴動の収まったマルノウチ・スゴイタカイビルの前で、オーボン・フェスが行われているから、一緒にいかない？　……おうちの人には内緒で。　7