姫「嫁に行くことで戦争を止めたいが、わたしの顔は普通なので美しい身代わりを立てることにした」

顔は普通だけど多少小賢しい末っ子の姫様と、察しが良くてめちゃくちゃ顔がいいけど性格の悪い王様付の文官と、その文官の妹で心も顔も美しい娘の話です。 2020.01.24 完結しました。
107
前へ 1 ・・ 3 4 次へ
乃井 @no_el_ty

「要らないなら、貰ってく」

2019-12-14 18:39:04
乃井 @no_el_ty

「……しまった。誤魔化すつもりが、物語の起点みたいなものを作ってしまった。姫様のことだ、流されるようなことはなかろうが……否、万が一があっては……ううん……どうしたものか……」

2019-12-14 18:39:05
乃井 @no_el_ty

「お兄さま!」 「姫、どうぞお声を抑えて」 「どうしましょう、どうしましょう……あの子が、あの子が南の国に取られてしまう……」 「……落ち着くのだ。その衣服の乱れはどうした」 「あの子が連れていかれるのを見て追いかけたのです。そうしたら、わ、わたくし……」

2019-12-19 18:11:54
乃井 @no_el_ty

「……未遂だな?」 「ええ、ええ……王にお助けいただいて……」 「王は狩人の存在にお気付きになられたのだな」 「お兄さま、知っていらしたの」 「俺も先頃知ったのだ。これから探るつもりだった」 「まさかあの子を使って!?」 「いや違うが」 「あの子はただの女の子よ!わたくしと一緒!」

2019-12-19 18:11:55
乃井 @no_el_ty

「だから違うと」 「おはなしみたいな出来事にはもうこりごり!わたくしとあの子を解放してください!」 「……お前、本当に嫌なのか?」 「い…………嫌に決まってます」 「お前のことだ、本当に嫌なら王をひっぱたいてでも拒絶すると思って任せていたが」 「……嫌です、が、お兄さまを思えば……」

2019-12-19 18:11:55
乃井 @no_el_ty

「本音は」 「…………言うほど嫌ではないです」 「王、お前の好みだろう」 「……好み……ですけれど……!強引な性格もお顔とお声と意外な優しさで許せてしまいますけれど!嫌だけど嫌じゃないのが嫌!」 「女性向け恋愛小説みたいな葛藤だな」 「それもこれもわたくし以外の人が無事だからこそ!」

2019-12-19 18:11:55
乃井 @no_el_ty

「……傍女はどうしたのか、わかるか」 「あの……忍の者が連れていって……その先はわからないの……」 「──お前が姫を続けるにあたり、あの女は必要だ。連れていかれては、俺も困る」 「…………ねえお兄さま、あの子はお兄さまのなんなの?秘密の恋人?」 「なぜそうなる」

2019-12-19 18:11:55
乃井 @no_el_ty

「だって、ふふ、お兄さまが"困る"なんて。はじめて聞いたわ。わたくしにこの役目を仰せ付けたときだって言わなかった。同じような役割を果たせる子の用意なんて、無理な仕事じゃないでしょ?」 「…………代わりがいないという点では、大事だ」 「どうしてそう素直になれないの?」

2019-12-19 18:32:13
乃井 @no_el_ty

「俺があの女に恋してるとでも言いたいのか」 「そうよ。あの子を見る目は優しいもの。身体中に冷たい血を巡らせてるお兄さまとは思えないくらい」 「見間違いだよ。まったく我が妹ながら、頭に恋愛小説の頁が詰まってるみたいな思考回路だ」

2019-12-19 18:32:13
乃井 @no_el_ty

「……いいわ、認めないなら。それでも、あの子を助けてくれるでしょ?」 「代わりはいない、と言った」 「ああ、よかった!ありがとう、お兄さま!」 「声が高い!……顔の覆いで顔の見分けがつきづらいとはいえ、限度というものがある。誰が聞くとも分からん」

2019-12-19 18:32:14
乃井 @no_el_ty

「あ……ごめんなさい」 「──いえ。それでは姫、御前を失礼いたします。陛下がどのように動かれるのか、それによってはあの傍女を取り返す機を過ぎてしまうやもしれませぬ。事は迅く運ばねば」 「頼みます、フェイ。あの子は……気丈なだけの女の子です」

2019-12-19 18:32:14
乃井 @no_el_ty

「…………存じております」

2019-12-19 18:32:14
乃井 @no_el_ty

「お久し振りねえ、お姫様♡」 「恐れながら、他人の空似かと存じます。陛下」 「嫌だわこの子ったら。アタシを誰だと思ってるのかしら。この目と耳で幾多の商機を掴んできた南の王よ。10年経った程度で分からなくなるわけがないでしょ」

2020-01-16 15:20:20
乃井 @no_el_ty

「…………。お懐かしゅうございます」 「知らない顔をアナタの名前で紹介されてずいぶん驚いたのよ。あれは誰なの?」 「話せば長いことながら……」 「短く話して」

2020-01-16 15:20:20
乃井 @no_el_ty

「……替え玉を嫁がせてございます」 「なぜ?」 「我が国には美しい姫が必要だったのです。嫁ぐことで戦争を止められる、美しい姫が」 「確かに顔かたちは美しい。苛められると顔が真っ赤になるのもそそるわねぇ。北の国の王にとっては、国を買うだけの価値でしょうとも」 「ご納得いただけましたか」

2020-01-16 15:20:20
乃井 @no_el_ty

「それとこれとは別よね」 「さようでございますか」 「まずその喋り方をやめて頂戴。知らない仲じゃないでしょ」 「あなた様が末姫と仲のよい王子殿下であったのは過去のことでありますゆえに」 「お堅くなったわね。それとも距離を取られてるの?」

2020-01-16 15:20:20
乃井 @no_el_ty

「……国をあげて奴隷商をするなど、見下げたものだというだけのこと」 「仕方ないわ。だって南の国は──東の国とずぶずぶの蜜月なんですもの♡」

2020-01-16 15:20:20
乃井 @no_el_ty

「あなた様もまた、国を守るために、強国へ別のものを売り渡しているのですね。……私がそうであるように」 「アナタはあの替え玉の。アタシは他国の民の……人生をね。ヒヒヒ、ねえアナタ、アタシのこと見下げられる立場なの?」 「…………」

2020-01-16 15:20:21
乃井 @no_el_ty

「さて……そろそろかしら」 「陛下。準備できた」 「積み荷は?」 「問題ない、です」 「待て、北の国民を積んで出港するつもりか!?」 「当たり前よ。せっかく仕入れた商品なんだから。人質にも出来るし、積み得でしょ?」 「陛下、これ、部屋持ってっていい?」 「まだダメよ。貸しておいて頂戴」

2020-01-16 15:21:49
乃井 @no_el_ty

「これ以上私からあなたに話すことはない。下がらせてくれ」 「ダメよ。……ねえ、シャオメイ。そんなに邪険にしないで」 「ロノ。お前の部屋に連れていってくれ」

2020-01-16 15:21:49
乃井 @no_el_ty

「──"話を聞け、シャオメイ。余は他ならぬお前のために、北の国を弱らせに来たのに"」 「……なに……?」 「…………だから、昔みたいに、ペア、と呼んで頂戴。シャオメイ」

2020-01-16 15:21:50
乃井 @no_el_ty

「ペア、お前」 「ああ、シャオメイ。うれしい。もっと呼んで……」 「っ寄るな!……寄ると死ぬぞ。私がな」 「ヒヒヒ。まるでお芝居ね」 「……どこぞの小説みたいだ」 「ああ、そう、小説。こっちでは随分流行っているそうね。紙の上の文などなぞって、面白いの?」 「それなりにな」

2020-01-16 18:52:16
乃井 @no_el_ty

「ロノ」 「っ!は、……なせっ!」 「……陛下、シャオメイ、怒ってる」 「……"何故憤る?何故遠ざける。シャオ……いや、シェンメイ。船は出た。お前は余と共に来るしかない。お前の国は気の毒だが、北の国と共に一度滅ぼう。滅んだ国の後にまた、新たな国を建てようぞ。お前を新たな王として"」

2020-01-16 18:52:16
乃井 @no_el_ty

「……ひとたび戦火に飲まれたあの国に、なにが残ろう。ちいさな国だ。国全体を見ようが、民の数は北の国の都に住まう民と同じだけ。稀有な産出物もなく、清い水と豊かな土のもたらすものだけで生きている。誰が残るというのだ。みな死んで終わりだ。──だから、私、んっ」

2020-01-16 18:52:16
乃井 @no_el_ty

「……待て、なにを」 「"待たぬ。我が国の流儀をもってお前を『説得』する"」 「ひ──い、やだっ、離せっ」 「"体を開けば心も開く。楽にせよ"」 「そんなっ、小説みたいな筋書きがっ、あってたまるか……っ!」

2020-01-16 18:52:16
前へ 1 ・・ 3 4 次へ