ダメージド・グッズ #4
「そいつがウキヨだと?」「おや」サザンクラウドは侮蔑的に溜息を吐いた。「ウキヨは人間社会に溶け込んではばからぬとはいえ、気づかぬとは」横目でシキベを見、「確かにちと、オイランドロイド的な美は足りぬようだが……」「大きなお世話ッスよ」「……私のスキャナは決して誤魔化せはしない」21
2017-01-28 17:53:45サザンクラウドはシキベとニンジャスレイヤーにともにカラテ警戒しながら言葉を続ける。「私は脳波の有機的揺らぎを感知する。それは自我の産物であり、オイランドロイドが持ってはならないものだ。私にはそれがわかる。マークし……そして、狩る。人間の不完全性をなぞる新型か。おぞましい事だ」22
2017-01-28 17:58:10「残念ながらアテ外れッスね。ウキヨじゃない。事情があるんスよ」「ならば同じだ」サザンクラウドは言い切った。シキベは後ずさる。路地角で逃げ場はない。カラスが肩に着地する。羽ばたくが、影の弾丸は放たれない。何らかの限界か。「ゲーッ!」促すようにニンジャスレイヤーに向かって鳴いた。23
2017-01-28 18:05:32「どうでもいい話は、もういいか?」ニンジャスレイヤーがサザンクラウドを睨んだ。「おれはその女に用がある。お前にはない。だから、お前には殺させない」「よかろう。充分だ」サザンクラウドは腰を落とす。カラテが漲る。二者の間の空気が互いの殺気に歪んだ。……「「イヤーッ!」」 24
2017-01-28 18:09:07二者は一瞬でワン・インチ距離に至った。出会い頭に最も恐るべき攻撃が仕込まれている可能性が高い。ニンジャスレイヤーはその感覚を経験的に理解していた。彼は地面を舐めるほど身を沈めて接近した。その頭のすぐ上を破壊エネルギーが通過するのがわかった。サザンクラウドがマントを翻したのだ。25
2017-01-28 18:14:53ウキヨ狩りのニンジャは目の前の相手の力量を認め、目を細めた。たちまち二者のワン・インチ打撃戦が開始された。ニンジャスレイヤーの目が燃え、ニューロンにマスラダとナラクの憎悪が循環する。警戒すべきは両掌の何らかのサイバネ機構。彼はまともに受ける事を避け、腕を弾きながら戦う。 26
2017-01-28 18:17:14シキベはゆっくりと回り込み、留まるべきか逃走かを逡巡する。察したか、カラスがハンドヘルドUNIXをキータイプし、「待て」と入力した。シキベは頷いた。結果論だが正解である。サザンクラウドはカラテ戦闘の最中も決してシキベから注意をそらしておらず、逃走を試みれば真っ先に狙われた。 27
2017-01-28 18:21:05「イヤーッ!」ドウッ!ニンジャスレイヤーは己の左脇腹の感覚の消失を感じる。一撃喰らった。穴でも開いたか。だが、たちまち傷口から赤黒の血と炎が噴き出し、装束と、肉と融け合う。ニンジャスレイヤーは殴り返した。「グワーッ!」歯を食いしばり、強引に蹴りを叩き込んだ。「グワーッ!」 28
2017-01-28 18:24:33「くそッ……!」ニンジャスレイヤーは片膝をついた。追撃できない。「スウーッ……フウーッ……」呼吸に伴い、敵を睨む瞳の赤黒の光が明滅する。三本足のカラスは目を見開き、そのさまを凝視する。サザンクラウドは身を起こし、カラテを構えなおす。壁の配管パイプが破砕し、液体が零れる。 29
2017-01-28 18:28:26サザンクラウドも打撃のダメージは決して軽くないと見えた。「貴様の名前は覚えた……チッ……」その視線はニンジャスレイヤーの肩越し、対角の建物上に向いた。ニンジャスレイヤーはその方向に別の敵意を感じた。殺気がそれた一瞬の隙をつき、サザンクラウドは高く跳び、看板を蹴って逃走した。 30
2017-01-28 18:30:52「イヤーッ!」瞬時に振り返り、交差腕でガードしたニンジャスレイヤーに、強烈無比なアンブッシュ・トビゲリが見舞われた。ニンジャスレイヤーは反動で1メートル地面を滑った。「イヤーッ!」アンブッシュ者は空中で回転、鞭状武器を繰り出す。ニンジャスレイヤーはかろうじて側転回避! 31
2017-01-28 18:35:30ヒュパン!鞭状武器は蛇めいてうねり、逃れるニンジャスレイヤーの腿を切り裂いた。ニンジャスレイヤーはチョップでそれを弾き返した。見覚えのある武器だった。襲撃者は着地と同時にアイサツした。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ガーランドです」白い髪、武骨なメンポ、黒い装束。 32
2017-01-28 18:37:29ニンジャスレイヤーは唸り、後ずさった。だがアイサツを返さねばならぬ。「ドーモ。ガーランド=サン。ニンジャスレイヤーです」左目の上の刻印が示す通り、ガーランドはネオサイタマの大勢力「ソウカイ・シンジケート」のエリートである「シックス・ゲイツ」のニンジャである。 33
2017-01-28 18:39:16「久しいな。元気かと聞こうとしたが……実際ブザマな状態よな」ガーランドが言い放つ。「お前にはインタビューしたい事が多くある」「おれが死んだらまた来い」ニンジャスレイヤーは言った。間の悪い相手だ。探偵を誘う為に敢えて目立つ動きを取った事が、この男まで呼び寄せてしまったか。 34
2017-01-28 18:43:27「お前の名は……」ガーランドが話そうとした瞬間、「ゲーッ!」カラスが二者の間に割って入り、やけくそめいて羽ばたいた。「ゲーッ!ゲーッ!」「ヌウッ!」BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!シキベがリロードを行い、撃ちまくった。狙ったのはニンジャではない。壁沿いの配管パイプだ。35
2017-01-28 18:48:01SPLASHH!たちまち液体と蒸気とが狭い街路に溢れ、彼らの姿を霞ませる。「ゲーッ!」羽ばたくカラスから闇が染み出し、霞む視界を黒く染める。身構えたニンジャスレイヤーの腕をシキベが掴んだ。促されるまま、共に走った。「これなら逃げられます。来て」走りながらシキベが言った。36
2017-01-28 18:50:40シキベは手近のマンホールを蹴り開け、身を躍らせた。ニンジャスレイヤーに逡巡する余裕はなかった。後に続き、下も確かめずに、飛び降りた。 37
2017-01-28 18:52:40