「フォビドゥンフォレスト3話「蝶舞の町内」 #8「追跡行」

全話+まとめのまとめ http://togetter.com/li/1059871 1話「英雄たちの遺産」まとめ http://togetter.com/li/1020459 2話「バケグモ大進撃」まとめ 続きを読む
0
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

(前回までのあらすじ:俺は片桐。田舎町の風科に住む高1だ。風科の禁忌の森に出る妖怪共、俺は僚勇会って組織で、幼馴染や町の大人達と共に奴らを倒す仕事をしている。…ダチが手伝ってる子供会に行こうとした俺と瑠梨は、途中で妖怪の気配を掴んだ。出やがった場所は…子供会の会場だった!)

2017-01-29 12:32:18
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

新司と子供達が倒れ、物が散らばった広い室内。甘ったるく咽返るようなアルコール系の匂いが微かに残る。薄い靄が掛かった空気にキラキラと反射する細かい粒…これは…半年に覚えがある。姑獲蝶だ!細かい粒は奴の鱗粉、匂いの元は獲物に吹きかける麻酔毒だ。 「電波が悪いな…鱗粉のせいか?」 1

2017-01-29 12:47:47
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

追いついてきた幸川の兄ちゃんは頭につけたインカムを弄っている。 「それに霊波探査も家に入った途端ダメになった…コイツは…」 「姑獲蝶だよ…!ガキを攫って、幼虫に食わす奴だ…屋内で鱗粉が籠もってやがるんだ」 俺は引っ手繰る勢いで探知機を借りて、夕日が沈む屋外へ駆け出した。 2

2017-01-29 13:01:26
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

外には鱗粉は殆ど舞ってねぇが、見渡す範囲に姑獲蝶はいねぇ。常備している小型ドローンを兄ちゃんと共に飛ばしたが追えるかは怪しいもんだ。一度屋内に戻ると、瑠梨が部屋に付いたところだった。 「瑠梨ちゃん!そこの掃除機で鱗粉を吸ってくれ!その後は禊を頼む!」 「はい!」 3

2017-01-29 13:06:08
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

瑠梨は口を覆っていたハンカチを顎の下に何とか巻きつけて、部屋の隅の掃除機を取りに行った。鱗粉自体には大した毒性はないが、単純に呼吸がし辛いから少しでも吸い取った方が良い。麻酔毒も妖怪産だから禊で緩和できる筈だ。 「ガラス戸は…鱗粉が舞うし、せめてカーテンで塞いだ方が良いか?」 4

2017-01-29 13:15:59
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

口元をマフラーで縛った兄ちゃんは、近場の子供の脈を測っている。 「いや、鱗粉はそんな気にしねぇでも良い。瑠梨も大体でいいぞ」 「うん!」 床に散らばっている量だけで小麦粉換算で数パック分は有るから無視って訳にも行かねぇが、部屋の隅々まで綺麗にする必要はねぇってことだ。 5

2017-01-29 13:29:21
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「麻酔毒も後遺症が残る程じゃねぇから、さっとで良い…誰でも良いから喋れるようにしてくれれば…」 新司の具合を見ながら、暗い部屋を見回す。頭の血も軽く切っただけで重傷じゃなさそうだが、麻酔毒も多めに浴びてて早く医者に観せてぇ。応援はまだかよ…!その時、俺の背後で物音がした。 6

2017-01-29 13:35:20
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

ピアノの下だ。俺が駆け寄ると、あの瑠梨が好きな眼鏡のガキが這い出そうとしていた。片手で口をハンカチで抑えながら這い出そうとしてきていた。少し眠そうだが、意識ははっきりしてる。俺は腹の下に手を入れて片腕で抱き抱えた。 「外に!」 兄ちゃんの指示に頷きながら外に連れ出す。 7

2017-01-29 13:46:27
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

屋内は鱗粉や蒸散した麻酔毒に加えてガラスも散らばってるし、何より電波が入りにくい。俺は本部に連絡しながら手頃な場所にガキを安置した。 「おい!喋れるか!どんな化物だった!?ここに何人いたんだ」 『片桐くん!落ち着いて。まずは名前から聞いてください』 インカムの声に怒られた。 8

2017-01-29 13:59:44
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

いけねぇ。いくら周りより頭が良いっつっても妖怪の存在する知らなかった普通の小学生だ。気が動転してるときに矢継ぎ早に聞かれたら余計パニックに…「僕は久瀬怜人です。連れていかれたのは乃愛さんと、小学生3人です。新司さん以外は外傷はあまりないと思います」 「…お、おう」 9

2017-01-29 14:03:11
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

やたら冷静で淀みが無かった。こっちの頭が冷えたくらいだ。コイツ俺達の関係者じゃねぇ筈だよな?妖怪のことは知らなかったんだよな?いや、それどころじゃねぇ。 「鳥の嘴に似た口吻の蝶の怪物でした。サイズは自動車ほどで、脚が左は三本、右は四本の非対称で…」 怜人はやや早口で続けた。 10

2017-01-29 14:09:19
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「嘴は何本だった!?」 俺は大事なことを聞いた。 「?…一本に見えましたが…?」 「よし、ならまだ助かるぞ」 「それと、もう一つ。捕まった内の一人のスマホにGPSが付いています」 「マジか」 鱗粉は通信を妨害するが、飛んでる状態なら風向き次第ではいけるかも知れねぇぞ。 11

2017-01-29 14:16:54
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

スマホの番号と拐われた奴の名前、念のため、今日の参加者名簿があった場所を淀みなく伝えてきた。 『すぐに保護者とコンタクトを取ります!』 本部は早速行動を開始した。霊波観測と併用すれば敵の居場所が一発で分かる筈だ。 「あと化物は一匹だったか?」 「その筈です」 12

2017-01-29 14:24:08
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「写真を撮って残すべきかとも思ったんですが…」 「気にすんな!敵の種類は分かってる。下手に撮ったらお前も襲われてたかも知れねぇぞ?」 「はい…あの様な巨大生物の存在が一般に知られていない以上、カメラに映らないか、カメラが「写さない」様になっているのではないかと思いまして」 13

2017-01-29 14:32:34
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「…お前凄ぇな」 『…正解ですもんね』 通信機の向こうも呆気に取られてる。今のスマホやデジカメは出荷段階でそういう細工がされてるんだが、何も知らねぇ奴がよくそこに気付いたな!? 「あの怪物…妖怪は森から来るのでしょうか」 「…妖怪?」 「ですよね?」 「ああ」 14

2017-01-29 14:37:08
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

後で記憶を消すにしろあまり話さねぇほうが良いんだが、早口で話す怜人の気迫に押されてつい答えちまう。 「森の妖怪の伝承は知っていましたから…勿論猛獣のことだとは思っていましたが今思えば猟友会が妙に人数が多いことや片桐さん達学生まで所属していることにも説明が」 怜人が気絶した。 15

2017-01-29 14:40:55
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「おい!?」 『屋内…別の部屋に移してあげてください。無理もないですよ。いくら頭が良くても普通の子なんですから。相当無理をして頑張ってくれてたんでしょう』インカムにはカメラもついてる。向こうにも様子が分かって指示をしてくれた。 「ああ」 再び怜人を抱き抱える。 16

2017-01-29 14:44:35
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

『片桐くん!』 立ち上がった瞬間、インカムの音が俺の耳を叩いた。 「GPSか!?」 『いえ、ですが今一瞬、霊波のほうに反応がありました。まだ近くです…一番近いのは貴方達です!』 「分かった!」 中庭に顔を出してた兄ちゃんのインカムにも何とか通信が入ったのか表情を変えた。 17

2017-01-29 14:51:11
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「兄ちゃん!ここは頼む!皆は!?」 俺は怜人を預けようとするが、受け取ってくれねぇ。 「全員無事だが…桐くんは残った方がいい」 「後処理はアマテラスのほうが得意だろ!?それに空の敵だ!虫系なら俺のほうが有利だ!こんなの大したことねぇ!」 俺は頭の黒い帯を指差す。 18

2017-01-29 14:55:53
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

兄ちゃんは苦い顔だ。俺が病み上がりじゃなきゃ、きっと一も二もなく任せてくれたんだろうがな。近所の一般人への対処は兄ちゃん達アマテラス隊のほうが得意だし、これが適材適所なんだよ。 「…分かった。俺も処理班に引き継いだらすぐに追う」 『処理班はもう3分ほど待ってください』 19

2017-01-29 14:59:26
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「…遅いな」 兄ちゃんは怜人を受け取った。 『人員の大半を森に送ってしまいましたからね…呼び戻してますが、主力が戻るには20分は掛かります』 二人共苦々しげな声だ。無理もねぇ…人里でこんな派手に妖怪が暴れるのは、多分十年以上ぶりだ。少なくとも俺の実体験としては知らねぇ。 20

2017-01-29 15:05:21
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

怜人を預けた俺は近場の地下施設へ向かうべく、庭の奥へ走り出した。垣根を飛び越えれば最短ルートだ。 「私も行きます!」 禊を終えた瑠梨が俺の後に続こうとする。 「待て!君こそダメだ!」「お前は良い!」 「敵は空中なんだよ…!?ダメだって言うなら今すぐやります」 21

2017-01-29 15:13:37
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

瑠梨は走りながら両手を頭の後ろに回す。俺の心臓が縮み上がった。 「…分かった!分かったから!まずは奴を捉える!良いな!?」 「うん!」 それだけ確認すると俺は止めちまってた足を再び動かした。 「無理をするなよ!」 兄ちゃんの叫び声に後ろ手で答え、俺は垣根を跳んだ。 22

2017-01-29 15:19:30
フォビドゥンフォレスト@カクヨム投稿中 @fbd_forest

「フォビドゥンフォレスト3話「蝶舞の町内」 #8「追跡行」終わり #9「地下道」に続く

2017-01-29 15:20:30