「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #10「電子娘」

フォビドゥンフォレスト＠カクヨム投稿中 @fbd_forest

まとめを更新しました。「「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #9「地下道」」 togetter.com/li/1075825

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（前回までのあらすじ：俺は片桐。田舎町の風科に住む高１だ。俺は僚勇会って組織で北の森に出る妖怪共を倒す仕事をしている。妖怪・姑獲蝶に拐われた子供の端末の位置情報を探るため、俺は知り合いの龍宮愛衣に連絡を取った。愛衣はバイク型ブルームのモニターから一瞬にして飛び出してきたが…‥）

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愛衣は風防の上にぴょこんと立つと声高らかに喋った。 『私はサイバー・チルドレンの長女、龍宮愛衣（たつみや　あい）。既に位置情報や隣県のものを含めた霊波・気象情報は把握済みだ。後はお前たち僚勇会が受け入れるかどうかだ」 「愛衣」 「なんだダーリン？」 「降りろ」

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「酷いじゃないか！光る電脳空間の時間と海を超えて波のごとくサーフィンして飛んできたのに！彼女に向かってそんな言い方！」 アホ長い袖をぶんぶん振り回して、あることないこと抜かしやがる。でもそれどころじゃねぇだって。 「彼女じゃねぇし、ホラ後ろ！しゃがめ！」 「へ？」

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「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #10「電子娘」

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「愛衣さん！？」 咄嗟に飛び降りようとベルトに手を掛けた瑠梨を、そのベルトを掴んで制する。 「はる君！？何で止めるの！」 「前」 俺が指差したブルームのモニターからは愛衣が上半身を出している。頭上に漫画みてぇなデカイたんこぶをつけている。 「お前、ぶつけたの横だったろうが」 1

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「ああ、そうだったそうだった。でも痛かったのは痛かったんだぞ！」 両手を横について体を引き摺り出すと、たんこぶをポンとどっかに投げ捨て俺の腕の中にぬるりと収まりやがった。何故か瑠梨に不敵な笑みをみせてやがる。そしておもむろに自分の白衣を下の服ごと左右に開いて胸を晒しやがった。 2

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そこにはホログラフで出してるらしきモニターがあった。向こう側の生身がどうなってんのかは見えねえ。いや見ようとはしてねぇけどな！ 「さて、人命が掛かっているしまずはこっちを急ぐか。これが私が今集めたデータだ」 モニターには風科の衛星地図が出ていた。 3

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地図の上に重なって点線や破線、曲線の入り交じった線が表示されている。蝶の…目標Ａの軌跡だろう。そして愛衣の右手上の空間には僚勇会がキャッチしたほうの軌跡のホログラフが出ている。 「で、僚勇会よ。どうする。痕跡は極力消すが、これを受けとれば私の無断ハッキングの共犯に…」 4

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「すぐにお願いします。先程の会話は聞いていたのでしょう」 おっさんの即断に愛衣は一瞬キョトンと目を剥いたが、すぐにブルームの通信用カメラに不敵に笑いかけた。 「では５秒待て」 愛衣は右手の地図を胸の地図に押し込む。それだけで２つが重なり、単体の時よりも鮮明な地図になった。 5

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同じものがブルームのモニターにも、そしてインカムの向こうの皆の声からして、本部にも表示されている様だ。 「…よし終わった」 「５秒も経ってねぇぞ」 「仕事の納期は多めに吹っ掛けるのが大人の常識だぞ」 愛衣は無駄に長い袖越しに俺の額を指でつついてきた。ちょっとウザい。 6

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僚勇会本部司令室。総司令・篠森の屋敷の地下数十ｍに位置し、広さは一般的な舞台ほど。オペレーター数名と副司令、事務員、護衛の戦闘員など十数名がいる。各々の持ち場で各地の人員配置の確認や外部との折衝、索敵など別々の画面を注視していた彼等の視線は、今、一つの画面に集まっていた。 7

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「これは…」 愛衣から送られてきた姑獲蝶の飛行軌道は、地図の上側…北側に向けて開いたＣの字型をしている。禁忌の森、正確にはその周囲の結界を避けて風科の上空を右回りに飛んでいる形だ。平均すると、１周６～７分で時速１００キロ近い速度で、地上から５０mほどの高さを飛んでいる。 8

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地図の西寄り中央にある子供会会場を起点に飛び始めた蝶は、今は間もなく二周目を終えようと言うところだ。 「行けませんね。予定を前倒しします。３０秒後に結界を解放！」 「はい！」 各員が副司令の指示を現場に伝達する。 「宜しいですね、司令」 『ああ…！』 9

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急いだのも無理はない。結界の解放予定は後５分後に迫っていたが、それより３分早く蝶が通り過ぎようとしていたのだ。オペレーター達も司令の言葉を待たずに行動する。子供達は既に推定１２分以上も高空を高速で連れ回されている。仮に今無事としても３周目を耐えられるかは怪しい所だ。 10

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もっと言えば、偶々１・２周目が似た軌道だからといって３周目も同じになる保証はない。不規則に飛ぶようになっては最早待ち伏せは絶望的である。そして生き餌に拘る姑獲蝶は、例えば捕まえた獲物が一人でも死ねば、それを捨てていくことも有り得る。積荷が減れば軌道が変わる可能性は高い。 11

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逆に言えば、まだ被害者4人共が生きている可能性が高い。唯一の救いだ。 「しかし、片桐くんたちが間に合うかはギリギリですね…」 東端近くから引き返す途中だった二人は、本来の解放予定通りなら３分前には間に合ったのだが、それが怪しくなった。 『 限界まで飛ばしてくれてもいいぜ』 12

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「いえ、あなた達はそのままで良いわ。空中での足止め要員はいるに越したことはないけど、いなくてもなんとかなるわ」 紹子は片桐を制した。本部でブルームのリミッターを外してやり無理に加速させれば間に合わなくもない。だが、病み上がりの彼と瑠梨の体の負担を考えると避けたかった。 13

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『なるほど、中央部には確かに戦力が充実して嬉しいな状態だな。ならちょっと部外者が口を挟んでも良いか？』 地図送信後は沈思していた愛衣が本部モニターに大きく映し出される。丁寧にも押しのけた他の窓は見やすくソートしている。 『その作戦、やるのは良いが、うまく行くかは怪しいぞ』 13

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『どういうことだ愛衣…ってあれルートが変わってるぞ？』 『中央に間に合わんでも良いなら、借りるぞ』 「ぶ、ブルームの制御を奪われてます！？」 みちるは報告した自分の口が信じられない、といった声色で報告した。 「…どういうことですかな？」 15

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副司令は二重の意味を込めて鋭い口調で問う。 『私の彼氏を借りるのは中央がダメだった時の保険だ。さて、前に姑攫蝶が里に出たのは八十年ほど前、その時は犠牲が出る前に倒している。その前の記録は結界が今より相当弱い頃のだからあんまり参考にはならん』 言葉と共に該当資料が表示される。 16

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『勿論、と言ったらお前達には失礼だが、この半世紀強、姑獲蝶の犠牲者が出ていないわけではない。たがそれは全部森の中でのことだ。そもそも今回はどこから結界を抜け出したのかも分からない…』 「蝶が巣に戻るのか…いや戻れるのか分からない、と言うことですかな…！？」 『そうだ』 17

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衛守副司令が数秒だけ熟考し、決断を下す。 「分かりました。片桐くん達を里見が丘へ移動させましょう」 『そうだな。私もそこが良いと思う』 里見が丘は結界開放地点から南東１キロほどにある国道沿いの場所で、見晴らしが良い。立ち止まる人が多い為、道幅も広く援護の車両を入れやすい。 18