空想の街・花と海の目覚め'17 一日目 #赤風車

#空想の街 花の目覚め・海の目覚めの一日目(17/02/04) #赤風車 纏め。翌日へ続く。 過去本編など→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。コラボしてくださったかたがた、有難うございました。 皆様のまとめを随時おすすめ設定させて頂く予定です。何か御座いましたらご一報頂けますと幸いです。
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胎動

不可村 @nowhere_7

二十の扉を開け放ち 九十九の鳥は風を知る  花一輪を真紅に染めて 千々に舞い散るかざぐるま  サアお立会い、お立会い、老いも若きもご覧あれ  すべての線がまじりあう さいごの一幕いざ咲かん  #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:03:15

目覚め

不可村 @nowhere_7

「うん、実に、実に不思議な街だ。ボクがここまで言うんだもの、胸があるならどんと叩いて誇ってほしいくらいだな」 森と街の境に、ふわりと赤い影が浮かぶ。植物たちが伸びあがって花を咲かせる中――女性の腰かけた廻転自動車を押し、赤いハットと燕尾服の青年が破顔した。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:08:15
不可村 @nowhere_7

お嬢もそう思うだろう、――真紅に身を染めた青年は、軋む車椅子を押し、そのまま街へと入り込む。深夜、日付が変わったばかりの街は只管に静謐さを湛えていた。 「にしても、同じ時間帯の列車に乗った筈なのに、ボクらのほうが早く着いたみたいだね。それはそれでいいけれど」 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:11:14
不可村 @nowhere_7

暫く周囲をぐるぐると歩き回っていた青年が落ち着いたのを、車椅子の女性が見守っていた。青年はどうやら今度の画布を、北区のこの壁に決めたようだ。 「――其処に描くの?皆さん驚かないかしら」 「なあに迷惑になんかなりやしないよ、これは向こうから持って来たんだし」 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:15:01
不可村 @nowhere_7

長く、闇夜よりも黒く、曲がることも巻かれることも知らない真っ直ぐな髪が揺れる。豪奢な柄の銘仙の着物を振り、革張りの車椅子から女性が立ち上がる。 「わたしのたいせつなおともだち。疚しいことなく傍にいてくれるのはあなただけだわ――あやまってはだめよ、さいごまで」 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:19:21
不可村 @nowhere_7

勿論さ。 青年は首に巻いた蝶結びの帯を揺らして軽快に笑ってのける。まるで幼児のような邪気のなさだった。心底楽しそうに返事をした青年へ、女性のほうも晴れ晴れとした笑顔を向ける。 それを認めて青年が、だん、と壁へ腕をついた。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:24:52
不可村 @nowhere_7

「愉しいことしかこの世にはないのさ。ボクが全ての糸を引くのだから――キミは心配しないで笑っててよ」 女性を車椅子へと誘導し、青年は車椅子に設置していたちょっとした大きさの缶を下ろすと、不格好な刷毛に中身を付けて壁にぶつけ、そのまま壁沿いに歩いていく。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:29:50
不可村 @nowhere_7

これでいいかなあ、とひとりごちながら稍して青年が立ち止まり、画布は完成される。長い黒髪を揺らしながら様子を見ていた女性へ、青年は徐に振り返った。 「これで釣れるのはきっと望みのものさ!だから安心して次に行こう!ねえ、」 ――ボクらのスタア、柘榴お嬢様。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:35:09

予感

不可村 @nowhere_7

二月四日、未明。 もうすぐ街だろうと思うと時計塔が見えてくる。そんな列車にひとり乗り込んで、車両に自分以外誰もいないことをいいことに徒華は荒れた黒い髪を遊ばせている。風は冷たいが、窓を開けて正解だった。空気が変わっていく様子が肌で分かる。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:46:25
不可村 @nowhere_7

改めて車両を見渡すが、一人である。――思えば、街に向かうときはいつもそうだった。一番最初は秋色の背を追いかけて、やけに混んだ列車に乗り込んでしまった気がするが、寧ろあの列車のほうがよく分からない存在だ。あの最初の一回以来、汽車に誰かがいたことがない。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:48:07
不可村 @nowhere_7

街を知っている者にしか乗ることも認知することもできないような列車が、街の開く時季になるといつも最寄りの駅に迎えに来るのだ。故郷の町を出て徒歩で何時間歩いても、ただ隣町に着いてしまうだけなのに、きちんとその列車に乗り継げば簡単に街へ来ることができる。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:49:05
不可村 @nowhere_7

まだ着かないと焦れている間は本当に着いてくれない。そろそろ着いたか、と思えば、それと同時に緩やかになり、街にごく近い駅に汽車は停まる。今も、見えていい頃だ、と顔を外に向ければ植物のように伸びる時計塔が映った。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:51:06
不可村 @nowhere_7

むらのある硝子窓を開け、徒華はまだ遠くに見えている街を眺めている。不思議な街だ。かつての友人と自分は引き裂かれ、弟は消え、それでも徒華は向かっている。瞬きをすれば空気に色が付いた。早く着けばいい、と思ったからだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:52:55
不可村 @nowhere_7

明け方の潮風を十分に満喫してから、息をふと自由にして徒華の腰は席へと戻った。 弟の爪の形を思い出せない。子供の頃何度も切ってやった筈なのに、もうそれを忘れている自分に気が付き、徐にまばたきをした。流れで瞼を下ろしたままでいれば、そこに、鮮やかに海が広がる。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 00:55:10
不可村 @nowhere_7

――氷涼祭のさいごの夕日の中、弟は笑っていた。 #赤風車 #空想の街

2017-02-04 01:14:29
不可村 @nowhere_7

手や声を忘れても、それだけは確かに覚えていた。あんな目の前の光景を見間違えるわけがない、弟の、さいごの声の色を、間違えて覚えたりはしない。弟が消えてしまったという事実よりも濃く、微笑みが刻まれた所為だ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 01:15:06
不可村 @nowhere_7

思うよりも衝撃を受けていない自分を取り戻したとき、徒華の心の中で残響していたものは、弟の残した笑みと、後ろから吹いた風の音だった。 ――こんなことになってしまったのは本当に、本当に悲しいことだけれども、でもだからって誰が悪いというものでもないだろう、 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 01:15:59
不可村 @nowhere_7

――私はもう私を責めないし、千草、お前も自分を責めなくていいんだ。 弟と再会して、そう言って相手を励ました。自分自身を責め続けても何も解決しないということも、慰められないということも、もうわかっている。だから一丁前に言い切れたのだ。そして今も考えは同じだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 01:16:44
不可村 @nowhere_7

徒華はもう、徒華自身どころか誰も責めてはいない。 車窓から見える街並みに、つい、と指を添わせれば、それに併せてもう一度、自分の声が甦る。 ――こんなことになってしまったのは本当に、 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 01:17:27
不可村 @nowhere_7

改めて思い返せば本当に、どこまでも、悲しいと一旦判断してしまえば転がり落ちるように胸が痛い。それでも誰が一番悪だというわけはない上に、恐らくは何も悲しいことではないのだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 01:17:53
不可村 @nowhere_7

もう弟の姿を見られないということだけ抜き取ってしまえば悲しいのだが、起こったことをひとつずつ見ていけば、落ち込む要素はきっとどこにも、ない。だからこそ徒華はあの後襲った雨の中でさえ一度も泣かなかった。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 01:18:16
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