空想の街・花と海の目覚め'17 一日目 #赤風車

#空想の街 花の目覚め・海の目覚めの一日目(17/02/04) #赤風車 纏め。翌日へ続く。 過去本編など→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。コラボしてくださったかたがた、有難うございました。 皆様のまとめを随時おすすめ設定させて頂く予定です。何か御座いましたらご一報頂けますと幸いです。
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不可村 @nowhere_7

「そうだねえ、苦労続きで枕は濡れっぱなしだよ。乾いた頃に二人で女将を迎えにくるね」人形のようになっている柘榴の膝に桃を置き、青年は赤いハットを揺らして別れの挨拶をする。「ボクの名前はいちもんじおちば。――またね、美人の女将さん」 @gp_c_ #オトトイ食堂 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 23:42:40
はなまめ @gp_c_

@nowhere_7 いちもんじ……あれ、どっかで聞いたかしら。誰かの親戚かね、……んー、だめだ。こういう時鳥頭が恨めしいわね #空想の街 #オトトイ食堂 #赤風車 ま、いっか。ご縁がありゃあ、風の噂も聞こうってもんでしょ。さ、さむさむ、お皿洗っちゃお。

2017-02-04 23:49:14

“わたしたちの桃源郷”

不可村 @nowhere_7

上機嫌でふらふらと、廻転自動車を押しながら――おちばは歩いていたが、全く人気のない道でまた立ち止まる。すっかり食堂は遠く、家々の明かりも消えているところが多い。 「お嬢、」 道の中心で椅子を停める。前に回り込み、表情の消えたその顔を柘榴の白い額へ近づけた。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 23:49:00
不可村 @nowhere_7

ぴったりと額同士を押し当てて、それでもそれ以上にもそれ以下にも動かずに、椅子に座った柘榴と腰を曲げたおちばは沈黙していた。 ――何分経っただろうか。ふ、と柘榴の零れ落ちそうな瞳が瞬き、おちばを視認する。 「――たべもののにおいがする」 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 23:53:17
不可村 @nowhere_7

「まったく。食べ物のにおいならさっきからしてたでしょ、食堂にいたんだもの――って言っても分からないか。困るなあ」 あんな料理を食べたのは青年にとって何年振りか分からない。生まれて初めてだったかもしれない、ぬくもりの篭った手料理を思い出し、青年は目の光を消す。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 23:56:03
不可村 @nowhere_7

「こっちは一生懸命にんげんのふりして食べきったんだよ。お嬢はいつもああいうの食べてるけどボクは味がまったくしないもんだから楽しみが分かんないってのに。――倒れられても困るし、それ、食べなよ」 膝に置いておいた桃を示し、青年は赤い燕尾を翻して柘榴の背後へ戻る。 #空想の街 #赤風車

2017-02-04 23:59:08
不可村 @nowhere_7

食べること自体があまり好きではない、若しくは、決めたものしか食べない。 どちらも正しい。女将の言葉を思い出し、車椅子を押しながら青年は口元を三日月に変える。 膳の上のものを小奇麗に片づける方法など誰にも教わらなかった。覚える理由もなかった。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 00:05:48
不可村 @nowhere_7

@tos それでも青年が「これぞ定食」と呼べるようなものを女将に任せて頼んでみたのは、単純に知りたいことがあったからだ。 それは、普段そのようなものを当たり前のように食べる周囲――柘榴の気分や感覚、である。敢えて挑戦したのだが、甘さどころか辛さ苦さも皆無であった。 #赤風車

2017-02-05 01:10:07
不可村 @nowhere_7

明日は忙しいんだからね、と、青年が帽子の下から囁けば、柘榴は傷まないよう処理をされた桃をうっとり眺めているところだった。 「分かってるわ、わたしはわたしのやりたいことをやるもの。だいじょうぶ――きっと」 「きっとじゃ駄目さ。絶対しか許さない」 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 00:10:58
不可村 @nowhere_7

「きびしいわね。怒らないで頂戴な、わたしのおともだち」 「怒ってないから安心しなよ。ボクだってボクのやりたいようにしてるんだもの、そりゃ厳しくもなる。さあ、もう今日は休もうね」 ほしいものがあるのなら、順序立てて手に入れるのだ。それが彼らの流儀なのだから。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 00:15:52

動悸

不可村 @nowhere_7

まだ花が咲いている。 おかしな並木道を通り抜け、一文字は重い足取りで寒さの中、西区へと辿りついた。こういう現象をなんと呼んだか――そう、狂い咲きだ。もともと秋や冬、初春に咲く酔狂な花もあるにはあるが、普通ではない時季に急に咲くものをそう呼び習わした筈だ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 01:20:18
不可村 @nowhere_7

西区は広い。南側にあった喫茶馬頭琴から曳舟荘へ移動してきただけでも、ひとつの区を渡り歩いたような気分になる。 ――花が咲くと頭がおかしくなる。いきものというのはそういうふうにできている。春でもないのなら、尚の事。 大分隙間の見える弁慶を抱え直し、また歩く。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 01:22:31
不可村 @nowhere_7

明日は海が目覚めると聞いた。また客も捜せば来てくれる筈だ。一文字が居続けることを迷おうが決めようが、人は街を出入りする。そこに、一文字は紛れる。 弁慶はすかすかでも在庫は部屋にも廃屋にもある上、和紙や針金もまだ残っている。明日、いやあと数日―― #空想の街 #赤風車

2017-02-05 01:26:09
不可村 @nowhere_7

あと数日で決めよう。 ぐずぐずしてはいられない。それでも、何もかも捨てて蒸発もできない、一文字は温かい筈の街のしがらみを思い溜息をついた。 部屋に入り込み、糸の切れたように畳へ転ぶ。風車を渡した相手に、これ以上累が及ばぬようにと願いながら眠りへと落ちていく。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 01:33:29

一日目・終
花と海の目覚め二

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