空想の街・冬の目覚め2017・2日目

twitter上の創作企画「空想の街」の花の目覚め・海の目覚めのまとめです。 漏れや不備等あれば主催までご連絡お願いします。
1
前へ 1 2 3 ・・ 28 次へ
不可村 @nowhere_7

それが気にかかるのだ。現に義兄の言う通り、こうして自分たちは気づいて動いている。完全に、覆い隠されているわけではない、人が消えたことも問題だが、この点もどうにもおかしく感じる。まるで追っても構わないと余裕の顔で言われているようだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:46:56
不可村 @nowhere_7

ここ最近そんなことを考えていたのだが、どう伝えたものか分からず、徒華は散乱する思考を束ねようと手を顎につけて黙り込んだ。 呟いたきり口を噤んだこちらが立ったままでいるのに今気づいたらしく、義兄が慌てたように立ち上がって近づいてくる。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:47:25
不可村 @nowhere_7

「ああ、ごめんねぼくばっかり座ってて。どうもあっちを出てここに来るとのんびりしたくなっちゃって」 いいと思います、と返しながら徒華は笑った。本心からの言葉だ。 「大丈夫です。私は義兄さんが来るまでは宿の部屋で休んでいたんですし、義兄さんだってお疲れでしょう」 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:48:48
うらはら @ura_saraha

「蜂蜜取りに行くならそう言えばいいのに」「言えばおまえ不機嫌になるだろ」恒例になりつつあるルグッグ蜂蜜の仕入れを終えて、窓也はゆっくり西区を過ぎて歩いていく。からん、と先ほど貰った蜜飴が窓也の口内で軽い音をたてた。 #空想の街 #原料屋

2017-02-05 11:38:26
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

小雨に知り合いは少ない。散歩をする気にはなれず、鼠色の着物と藤の羽織に日傘を差して、結局小雨が向かったのは空想歳時記で協力を頼んだ個人図書館だった。結局は仕事絡みか、と呆れた笑みが浮かぶ。数度目の扉を叩く。「こんにちは」 @Ne2_co #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 11:07:14
こみや@空想の街 @Ne2_co

戸口に立った姿に、あゆ子の顔がぱっと明るくなった。「小雨さん!」 @hrsrh_a 小雨さんは街の歳時記の件でよくここを訪ねてくれる、いわばお得意様だ。夏に引き続いて、秋、冬と関連する資料を借りに来てくれた。「どうですか、今年の目覚めは」 #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 11:16:41
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「これ、必要なところはメモに取ったので」ありがとう、と微笑して小雨は借りていた数冊の包みを渡した。「…不精なもので昨年の目覚めをあまり知らないから今年がどうかは分からないけれど。華やかな現象ね」華やかで、どこか少し寂しい。 @Ne2_co #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 11:21:15
こみや@空想の街 @Ne2_co

「いえいえ、こちらこそ!」貸出記録用の帳面を引き寄せて返却印を捺す。「私も出不精なんですよね…今年もその、庭の梅の花で満足しちゃって」華やか、と言った小雨の声音に交じったものを思う。 @hrsrh_a #空想の街 #夕闇俳句帳 #はなのえ文庫 「あ、小雨さん紅茶はお好きですか?」

2017-02-05 11:28:17
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「自分ではあまり淹れないけれど、紅茶は好きです」あゆ子の好意が嬉しくて、小雨はくすり、と笑った。「梅の花も良いけれど、冬から春の花だからあまり特別な感じはしないかもしれない。夏や他の花の方が珍しいでしょう」 @Ne2_co #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 11:32:28
こみや@空想の街 @Ne2_co

「じゃあお淹れしますよ!特別に作ってもらったのがあるんです」お茶用の一式を取りに行って、戻ってくる。流石にこれは割らない。 @hrsrh_a 「あっほんとそうだ、そうなんです…けど…梅の花が咲いて、でも実も付けないでっていうのが不思議で」 #空想の街 #夕闇俳句帳 #はなのえ文庫

2017-02-05 11:40:16
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

ガチャガチャと茶器一式を運ぶ様子を微笑ましく見守りながら、小雨は少しだけ思考する。「花だけの、それも数日間だけなのが儚いのかもしれない。花は美しいけれど、それだけじゃないでしょう。……俳句でも、私たちにとっても」 @Ne2_co #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 11:44:37
こみや@空想の街 @Ne2_co

軽やかな音を立てながら紅茶を注ぎ、どうぞ、と差し出す。菓子入れの蓋も開ける。 @hrsrh_a 「それだけ、じゃないんですよね。花が咲いて散って、それを切り取ったのが句や歌や…言葉なんですけど。その他のものも、その向こうにありますもんね」 #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 11:53:12
不可村 @nowhere_7

姉にも羽根を伸ばしてほしい。そんな場合ではないがだからこそこの場所に早く来てほしかった。姉も義兄も家の顔という意味で他人に会う用事が多く、対話を破綻させないように探りを入れていくのが今の役目なのだが、これは並大抵の心労ではないだろう。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:53:34
不可村 @nowhere_7

義兄はというと、徒華の言葉を受けて目を瞬かせている。何かおかしなことを言ってしまっただろうかと考えるも束の間、ループタイの縞瑪瑙と瞳に空を映してまた相手が話し始めた。 「あのね、実華さんの前では話せないからここで訊こうと思ってたんだけど」 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:54:08
不可村 @nowhere_7

唐突さに少々面食らうが、頷いて続きを促した。義兄が人目を憚ること自体が珍しいので、徒華には何の話か見当がつかない。 そんな徒華の耳に聞こえてきたのは、弟の名前だった。 「――あの夏に何が起きたのか、詳しいことはまだ、ぼくたちは知っちゃいけないのかな」 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:55:08
不可村 @nowhere_7

疲れた笑顔でまっすぐこちらを見てくる義兄と、唇を噛み締めた徒華の視線が交差する。 やがて徒華は首をゆっくりと横に振った。知ってはいけない決まりはないのだ。千草に関わった者――家族なのだから、義兄が気にするのは当然ともいえる。案じてもらえるのは嬉しいことだ。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:56:45
不可村 @nowhere_7

ただ、真実を言おうとすればするほど存在を濃くするのは一文字であり、それを思うとどうしても徒華は詳細までは告げられなかった。他者に話してしまうということ自体――大事な何かを壊してしまうような気までしている。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:57:18
不可村 @nowhere_7

弟の件をどう伝えたものか、あの夏、氷涼祭からの帰り道、ずっと考えた。悲しくはなくとも弟が消えたことは事実だった。これからも会えることが当たり前だと信じきっていた自分自身に、家に入って姉の目を見た時にやっと思い至った。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 11:57:42
不可村 @nowhere_7

会えたけど、もう会えない。 そう告げるしかなかった徒華に、姉は一瞬不機嫌そうに顔をしかめたのち、死んだ奴には会えないのが普通だろう、と打ち返してきただけだった。 姉の言うその通りだった。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 12:02:04
不可村 @nowhere_7

何か弟の死についてもっと納得できる話を聞けたら、と考えていたのは姉も同じだったろうに。仕事の都合上家を簡単に空けられない姉の分まで弟と話をするつもりだった。 それが叶わず、何が起きたかすらも伝えられない徒華を、あの激情家の姉が叱らない。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 12:03:02
不可村 @nowhere_7

この街は一度だけでも徒華たちに夢を見せてくれた。そのたった一度がこんなにも大きいものなのだから、嘆く理由のほうが恥じて出てこない。引き摺るほうが失礼だ。――今の姉もそんな気持ちでいるのかもしれなかった。 洸太郎が目の前で、しみじみと息を吐き手を温めている。 #空想の街 #赤風車

2017-02-05 12:03:47
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

「ありがとう。…言葉は光みたいな……ものを照らして幾通りの影を浮び上がらせる。どの影も真で、けれど本体そのものじゃない。なのに真実を描き出す。それが言葉の力かもしれない」……。少し喋りすぎた。俯いてカップに口をつけた。 @Ne2_co #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 11:58:28
こみや@空想の街 @Ne2_co

相手の口数が多くて、あゆ子は嬉しかった。こちらもいい香りの紅茶に口をつけて、 @hrsrh_a ――影。あゆ子は小雨の身の上のことを詳しく知らないけれど、目に見えることだけは、知っている。「…その影、を、追いかけているんです、私」→ #空想の街 #夕闇俳句帳 #はなのえ文庫

2017-02-05 12:10:17
こみや@空想の街 @Ne2_co

→「ここには私の前を歩いたひとたちの影だけがあるんです。でも、光は見えなくて…でもその光は私の上にも照ってる、そんな気がします」 @hrsrh_a 「だから小雨さんの言葉も…」と言いかけてあゆ子は詰まった…自分は何を言っているのか。 #空想の街 #夕闇俳句帳 #はなのえ文庫

2017-02-05 12:18:57
ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

一生懸命喋っていたあゆ子が、すとん、と口をつぐんでしまってその表情が可愛らしくて小雨は少し笑った。「ありがとう。なんとなく、貴女が言いたいことも分かる気がする」人は、みな影なのかもしれない。→ @Ne2_co #空想の街 #はなのえ文庫 #夕闇俳句帳

2017-02-05 12:23:39
前へ 1 2 3 ・・ 28 次へ