空想の街・冬の目覚め2017・２日目

こみや@空想の街 @Ne2_co

そんな中でも、特に私的な本や帳面が収められているのがこの衣装箱だった。そのうちの一冊、随分くたびれた活版刷りの冊子を読んでいるうちに眠っていたらしい。題名は『目覚に寄する条々』。あゆ子にはまだなじみの薄い花々の、ちょっとした伝説を集めた本らしかった。 #空想の街 #はなのえ文庫

りお@12/17🏀新刊通販固定💙❤ @3816fvw

@3816fvw #空想の街 「黄茶草の花弁がありさえすればすぐだったのに。迂闊だった」「終わったことだよ。今後は原材料の管理をキッチリしよう。私に数字を教えてくれさえすればいいから」貴倫は宥めるように言う。

りお@12/17🏀新刊通販固定💙❤ @3816fvw

@3816fvw #空想の街 北東に回る前に花心亭に立ち寄ることにした。時計塔の傍らを抜ける。冬の日差しでステンドグラスが輝いていた。花心亭の主人に黄茶草について尋ねると、街の海寄りで見た覚えがあるという。主人は湯気の立つお茶も振る舞ってくれた。体の芯から暖まる。また歩けそうだ。

こみや@空想の街 @Ne2_co

一篇一篇はごく短いけれど、例えば恋をした娘が花になったり、舞い降りてきた鳥がそのまま花になったり、そんな話ばかりだ。 「……カエさんもこんな話が好きだったのかな」 あゆ子はそんなことを思った。 #空想の街 #はなのえ文庫

こみや@空想の街 @Ne2_co

ぱらりとページを開いていやいやいやと踏みとどまる。 「だめ！ちゃんと！身支度しましょう！！」 洗顔！着替え！お湯を沸かしてのち朝ごはん！あゆ子は気ぜわしく立ちあがった。 #空想の街 #はなのえ文庫

ハラ@企画用アカウント @hrsrh_a

がらんとした部屋の中で立ち止まると、なんだか酷く寒く感じられた。ちゃんと火鉢に火は入っているのに、と思いながら小雨は小さく息を吐く。「…出かけようか」手持ち無沙汰になるのが嫌だった。それなら外出してしまった方がましだと思うくらいには。　#空想の街　#夕闇俳句帳

萌葱［moegi］ @hmoegi

春の眺めも昼までと聞いた。名残惜しいような、本物の春が待ち遠しいような、じきに戻る冬の眺めも懐かしいような、不思議な気分の中に居た。冬景色が帰ってきたときのために、春を蓄えておくこととしよう。#初芽緑 （はつめみどり）は雪の中でも、生命の色を灯すだろう。#空想の街 #色売り

はなまめ @gp_c_

｢はるさんおはようございますー！起きてー！｣冬場のボイラー室は居心地がいい、また寝ていたか。 #空想の街 #浜の錦湯 欠伸を噛み殺しながら室から出ると、中庭でうしおが昨日の傘を椅子に刺し庭の花に水をやっている。#狐の糸散らし どちらの水やりかわかんないなと寝ぼけ頭で波留は思った。

はなまめ @gp_c_

｢……おはよう。傘、｣と指を指すと｢ありがとうございますー！お土産、ちゃんとわかりましたよー？｣帰りついた頃、少し様子がおかしかったのも治った様子。あれはあれで甘ったれのかわいい状態だが、うしおは元気な方がいい。｢昨日お礼、言えませんで｣ #空想の街 #浜の錦湯 ｢ん、よかった｣

はなまめ @gp_c_

#空想の街 #浜の錦湯 そう言って朝の湯揉みに向かう波留の背中を見遣り、うしおはそっと傘の桜に触れてみる。｢これは海の雪でも枯れませんかねぇ｣

不可村 @nowhere_7

宿の窓際でずっと考え事をしていた。いつからか思考が途切れ、意図せずうつらうつらしていたところに宿の者から声がかかり、徒華は手早く身支度を整えていく。昼間だというのに座ったまま意識を失いそうになるとは、自覚しているよりもずっと疲れが溜まっているのかもしれない。 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

他の客に迷惑が掛からぬよう廊下を進んで日の下へ出る。 「おはようございます」 おはよう、と柔らかく返してくるのは義兄の洸太郎だ。身支度の際に窓から姿は見えていたので、徒華は安心してその顔を見返す。落ち着いた茶の背広を眺め渡し、徒華はまた安堵の息を深くする。 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

「無事に着いたようでよかった。何かあったんじゃないかと心配でした」 今咲いている花ももう少しで散ってしまうそうですよ、と説明すれば、洸太郎は寂しそうにする。 「待たせてごめんね。汽車自体はすぐに運んでくれるけど――昨日は結局出発できなくて。今朝やっと」 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

幾分か疲れた表情をしてみせる洸太郎に駆け寄り、徒華は労りの気持ちを込めて笑ったあとで姉を思い起こす。そういえば姉の姿が見えないが、夫婦一緒に来るのではなかったのか。 「義兄さんお一人ですか？姉さん、直前になってまさか――やっぱり何か問題でも起きたんですか」 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

「いや、そういうわけじゃないよ、明日は実華さんも合流する。でもどうしても慎重になっちゃうみたい」 そういえばあの姉は、最近何かと考え込んでいることが増えたような気がする。街に遊びに行きたいのは山々なんだが、と姉が出掛けに呟いていたことも、徒華は覚えていた。 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

「今回全員で出たほうが相手に動きがあるんじゃないか、って言いだしたのは姉さんなのに、まだそんなに渋るなんて」 事が事だからね、と洸太郎は団栗眼を巡らせている。宿の軒先に設えてある長椅子に腰かけた義兄を見、義兄も矢張り疲れているのか、と徒華は思う。 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

「あんまり長くはあっちを空けていられないけど、時々はぼくらも一人と一人にならないといけないこともあるし――明日は来るって言ってたんだから大丈夫だよ」 わかってます、と返しながら徒華は長椅子の後ろにある垣根のほうへ身を寄せた。 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

「姉さんが色々とやきもきするのもよく分かります。結局、前に私がとった電話を繋いだ人もどこにいるのか分かっていないんでしょう」 「そう、なん、だよね」 迂闊だったかと一瞬だけ反省しかけたが、故郷以外でないとこんな話は自由にできない。 #空想の街 #赤風車

うらはら @ura_saraha

「花の目覚めもあと少しか」つづらを背負ったいつもの格好で原料屋は通りをのんびりと歩く。昨日よりも少し人は少ないだろうか。単純に中央区と西区の差かもしれないが。「どこに行くの」「さあ、どこだろう」楽しげに笑って一人と一枝は街をいく。　#空想の街　#原料屋

りお@12/17🏀新刊通販固定💙❤ @3816fvw

@3816fvw #空想の街 東区に入ると徐々に洋風の建物が増えてゆく。「ボクらの街とちょっと似てるかな」もはやジラフは走り出している。「貴倫。ねえ。黄茶草がーー見つからなかったらどうしよう」ジラフの表情はあまり変わらない。ただ頬は蒼白でひきつっていた。「棟梁の思い出が」

りお@12/17🏀新刊通販固定💙❤ @3816fvw

@3816fvw #空想の街 だんだん不安になってくる。正午まであと二十分ほどしかない。「落ち着いて、ジラフ」貴倫の声だけが聞こえる。「君はきっとやるさ」そうだろうか。本当に？「街の海寄り。紅茶草はどちらかといえば日陰を好む」ジュスル駅を抜け、ストラ・ノルドの橋が見えてくる。

不可村 @nowhere_7

歯切れ悪く相槌を打ってきた義兄を見ると、別段気にした様子はなく、ただ物思いに耽っているようだった。洗うように顔面をさすったのち、洸太郎の声がこちらへ届く。 「分かってるのは、分からない、ということばっかり。名前は残っていても今の所在や過去いた家まで辿れない」 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

「奇妙で括ってしまえばそうでしかないですね。でも、つまり、中心で騒ぎを密かに起こしている人物は――こうなる存在を選んだわけなんでしょう。消えても疑問を持たれないような、出自なんかが曖昧な人間を」 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

徒華の声に洸太郎はまたぎこちなく頷いた。 「そう、だね。そうなるね。字のほうもそう、一体誰がどこで消えているのやら把握できないようにされてる。でも、完全にはそうはならなかった。今ぼくたちがおかしいと思って捜してるんだから」 「――あの、でもそれにしては少し」 #空想の街 #赤風車

不可村 @nowhere_7

矢張り奇妙だと徒華は思う。あの町で人が消えているのは確かなのだ。字の材料にしろ交換手にしろ事勿れ主義の者が多い所為で事件すら表沙汰にはなってくれないのだが、誰かが消えている事実は変えられない。おかしいと怪しむ者は他にもいる筈である。 #空想の街 #赤風車