フォトライター、トモ・コスガの写真夜話

カメラの中からこんにちは
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言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

だから写真を見ると蘇るフラッシュバックが激しいんだろうか。写真をまじまじと観察してしまうのも、それと繋がるかもしれない。記憶は揺らぎのようなもので、写真らしくもある。思えば幼少の頃からカメラマニアの親父が家族を記録していた。俺は中学の頃から、写真に記憶を委ねてしまったのか……

2017-02-17 00:13:53
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

写真を始めたのが中学の頃だから、記憶が抜け落ち始める時期と被る。なんでもしつこく撮るタイプの奴だった。周りからは嫌われる奴だ。うちの親父がこれなんだ。祖父の代からカメラカメラ、記念撮影記念撮影だ。深瀬さんの家族や父の記憶はその点で親近感が強い。写真にはそういう飲み込む力がある

2017-02-17 00:16:10
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

写真は悲しいもので、撮ることはつまり枠の外に出ることだ。近くにいるようでそうじゃない。永遠の部外者。此岸と彼岸はここにある。撮り手は年をとるが、写真の内側は永遠に変わらない。我々が写真の中で発見するのはゾンビである。深瀬さんがすごいのは、無理やり自分で写真の二律背反を蹴破ったこと

2017-02-17 00:25:37
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

すなわち最終作のセルフポートレート群。ブクブク、私景、ベロベロ、ヒビだ。荒木さんのセルフは〝アラーキー〟という別人格だが、深瀬さんは深瀬昌久だった。ここに俺は痺れるのだ。かつて洋子さんに見て自分にはないと感じたものをもがいて掴もうとしたのが最終作だった。ありのままの自分を晒すこと

2017-02-17 00:27:55
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

深瀬さんの最終作はもう童心に帰っている。わざわざ製作したプリントに着色したり、切り抜いたり、絵を描いたり。こんなような言葉を残している。アーティストが自分で楽しいと思って作ったものは、見る人にもそれが伝わると。58までに培ったキャリア全てを捨ててでも、自分らしさを取り戻したんだ!

2017-02-17 00:30:58
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

どんなに高尚なコンセプトを前にしても、深瀬さんがその生涯をかけて太く貫いたものには叶わない。彼はまぎれもない自分自身のために写真をやった。やりきったんじゃないかと思う。まだ未公開だが、本当の本当の最終作は、深瀬さんが延々と自らの老体を写したものである。その上に線画を露光していた

2017-02-17 00:34:09
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

才能ある気鋭の写真家として、様々な手法や被写体に挑んだ深瀬さんが、最後の最後にたどり着いたのが、まさか自分自身だったとは、自分でも想像しなかったんじゃないか。でもそれが写真だ。絵と違い、作家が自らを賭して、自ら見たいと思うものを辿る旅だ。そんな写真に出会うと胸が高まるのは僕だけか

2017-02-17 00:36:14
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

会いたかったな。いま会えたら、腐るほど質問があるのに。でもいいんだ。深瀬さんの写真と対話できるからね。幸いなことに、世界で誰よりも深瀬さんの写真に近いところに自分はいまいる。このかけがえのない時間は永遠ではないと思うから、この一日一日を大切にしたい。もっともっと深瀬さんが知りたい

2017-02-17 00:38:43
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

人が生涯をかけてやったことって、かっこいいよな。誰にでもできることじゃない。俺は自分が信じるものをどこまでやりきれるだろうか。自分のためから始まっていいけれど、できることなら、たくさんの人に届けたいよな。自分が胸を高まらせ、飛び上がるほど夢中になったものを少しでも共有したい

2017-02-17 00:42:53
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

それにしてもあの時代の人たちが逃避行すると北海道に行き着くのはなんなんだろうね。倉本聰もそんな感じで北の国からを書いたらしい。深瀬さんは鴉。旅か、旅なのか。俺はもっと旅をしないとなあ

2017-02-17 00:47:41
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

昔、VICE創設者のシェーンスミスが雑誌の取材に対して「みんなが机上でワーワー議論していることを、実際にそこまで行って現場から伝えるのが一番説得力あると思わないか?」。これは映像の話だけど、写真にも言える。誰も見たことのない世界(それは精神的な意味でも)を見せた者が勝ちだ

2017-02-17 00:59:30
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

つい昨日発見したんだけど、ネガを見ていたら、89年で区切りをつけた故郷(家族、父の記憶)と私景シリーズが同じスリーブから出てきた。つまり完全に時期が重なる形で、故郷シリーズから私景へと繋がっている。これで63年から92年に至るまで全てきれいに繋がる。ああ、細かすぎて伝わらない……

2017-02-17 01:09:54
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

もっというと遊戯で最初の妻と流産した子を撮影した61年から最終セルフと最終鴉の92年二月まで、驚くほど因果をもって繋がるってことが証明できそうなんだ。これは凄いことなんだけど、きちんと文章にしなければ伝わらない……いよいよ深瀬昌久伝を書かなければならない

2017-02-17 01:13:00
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

人生をかけて見せたものが自らの寂寥だったなんて、かっこよすぎるじゃないか。言葉を寄せ付けずにそれを写真で描いたなんて、かっこよすぎるじゃないか。だから写真家が好きなんだ。言葉を信じない人たちが何十年とかけて写真を通して伝えたい、たった一言。痺れる。

2017-02-17 01:15:50
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

長谷川明さんが鴉の跋文に書いた「なにかこれは違うなという異和感」が深瀬さんの写真を貫くものだ。最後の最後まで足掻いてみせたもんな。誰かが期待するようなフカセになることもなく、自分のために写真を貫いた。一流だ。本当にかっこいい。憧れる。大竹さんが名付けた、写真の殉教者。まさしく。

2017-02-17 01:19:19
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

92年にニコンサロンで開いた最後の個展にはみな開いた口が塞がらなかったらしい。名を馳せた作家が、プリントを額に入れることもなくピンで壁に打ち。その数、実に400枚強。その大半に自らが写り込んでいた。気が狂った……!という感想が今に残っている。みんなが期待するフカセ像を最後に破壊!

2017-02-17 01:23:15
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

肝心なのは、なぜそこにたどり着いたのかということだ。予想で断定するのは良くない。軌跡を事細かにたどりながら検証し、誰もが納得するように証明しなければならない……それにはもっと当時の証言が必要なんだよなあ

2017-02-17 01:26:03
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

その点において、故郷と私景が同じスリーブからでてきたことは、少なくとも自分にとってはロゼッタストーンに近い意味があるのだ……寝られないじゃないか!

2017-02-17 01:27:47
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

寝てる場合じゃないと思い立ち、現在研究対象のポジフィルムのデジタル複写を再開したら恐ろしい完成度のイメージが出てきてこれはもう引くレベル

2017-02-17 01:45:09
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

さっきの故郷と私景シリーズの重なりについてはもうひとつ大切なことがあって、それは始まりの私景が深瀬写真館と共に撮られたものの可能性があるということだ。つまり亡き父、崩れゆく自らの歴史の象徴であった写真館と自らを記念撮影することであり、これは家族シリーズの続きとも捉えられる。

2017-02-17 02:04:52
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

家族シリーズで得た視点、すなわち自らも被写体となり記念撮影をすることの写真らしさは、深瀬写真館と共に写した一枚となり、それが私景となってひいてはブクブクに辿り着く。極めて運命的な導きと童心の閃きによって深瀬は自らそのものにカメラを向けていったのではないか

2017-02-17 02:08:21
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

こうなると世界が家族になったようなもので、ようやく被写体を手に入れた!と喜んだはずだ。つまり彼にとってキーとなるのは、世界と写真を繋ぐための接点であり、それはまぎれもない自分自身であった。深瀬は私景について、それまで自分が見つめたものと自分との距離感が面白いと書いている

2017-02-17 02:10:23
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

被写体と自分の距離感、というのが実は長らく自分には理解できていなかったのだが、家族の記念写真をきっかけにすると分かりやすい。つまりは写真家と被写体の関係ではなく、家族の距離だ。彼岸と此岸ではなく、彼岸の二人。おお、なんか私景の背景が見えてきた気がするぞ

2017-02-17 02:13:28
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

要するに、レンズを通して見つめるのではなく、レンズを鏡にして一緒に映り込むことに深瀬はなにかヒントを感じたのではないか。自らの眼差しすらも二次元となった先で見えるもの……

2017-02-17 02:15:08
言葉なき対話|写真の話をしよう @tomo_kosuga

私景、彼がつけた英訳はPrivate Scenes。プライベートな場面。アラキさんでいう、景色かな。自分の目に映って見える世界。深瀬さんの場合、常に自分がいる景色だったということだろうか。世界に自分がいる図を俯瞰したなったのか。その距離感が写真なのだろうか。永遠に縮まらないもの

2017-02-17 02:22:32