【泣かない二月】福間健二 #k2fact161
わかったこと。まだわからないこと。そのあいだの震えが止まらない胸に刺さるのか、刺さらないのか。太さ、重みのちがう矢印たち。弱気な釘を打って区切ったつもりの、受け売りの宇宙の渦に浮いて溺れていいわけはない。さあ、泣かない二月。ここに影すてるな。(泣かない二月1)#k2fact161
2017-02-05 09:35:37きのうもきょうも見た。郵便局の掲示板のポスターの、おいしそうな白米。そしてもう何週間も開いていない豆腐屋さんの前の、出しっぱなしのベンチに忘れられている人工革の手袋の、赤と黒。きのうは寒くてきょうはあたたかい。そのあいだに流れる霧はいらない。(泣かない二月2)#k2fact161
2017-02-06 16:42:54アヤちゃんの家に妻の作ったお寿司を届けに行き、いつかの夜とおなじように迷う。北大通りへの出方がわからなくなって。竜巻のあと。子どもたちは全身が砂だらけ。始末が大変でごはん作れそうもなかった。そのありがとうに、迷っても役に立ったというよろこび。(泣かない二月3)#k2fact161
2017-02-07 11:31:06倒れている柱と影たち。そのさようならには、とくに何も感じないで、自転車で帰る。風はまだつよいが、いいことあった。ちょっと快調。こういうときが危ないのだ。「世界でいちばん役に立たない男」の憂い顔とすれちがう。やあ、飲みに行かないか。行かないよ。(泣かない二月4)#k2fact161
2017-02-08 11:11:38豆腐屋さんに明かりがついて、前のベンチには大きな箱。手袋も人影も見えず、創造的解釈も浮かばず、この生の重荷、取り去れない。せめて笑顔だ。どういう夜。罠へと誘うスイッチだらけの夜になる。ぼくはたたかう。閉じればいいというドアを開けたまま。(泣かない二月5)#k2fact161
2017-02-09 08:48:40晴れても曇っても足もとを流れるものがあって失敗はつづく。新製品の「麦とホップ」二ダース買いに行って財布を忘れていた。切った。切るだろう。もっと。やれることやって、まだ冬眠中の「素足の私たち」のいい姿勢はそのままに。やっぱりな、菜があるといい。(泣かない二月6)#k2fact161
2017-02-10 12:21:32眠る子どもを見ている。だれが。自由に動く手を失っていることに目ざめて気づく「素足の私たち」がひとりのぼくになって。それだけではすまない。やわらかい喉も森においてきた。それでも声を出そうとする。うなされる子どもになにか言わなくてはならない。(泣かない二月7)#k2fact161
2017-02-13 08:24:36どこかではなく、ここ。郵便局と豆腐屋さんのあいだの細い小路が川になり、故障して排泄のうまくできないボートと振り落とされた子どもが流されていく。未来だったものの残骸のように。あっという間に、声を出しても届かない距離。もう遅いけど、手袋忘れたよ!(泣かない二月8)#k2fact161
2017-02-14 18:54:58三小前と東区、ふたつの停留所のあいだを行ったり来たりした。見つかる鍵はいま必要な鍵ではない。でもそれを入れるポケットはある。「今までとは違ったところに拓けていく前の足踏みではありませんか」。鈴木志郎康さんのこの言葉で、気持ちもラクになって。(泣かない二月9)#k2fact161
2017-02-16 11:26:05音がする。五歳と三歳の、アヤちゃんの息子たち。ふたつ、ちがう矢印とやわらかい喉。お父さんはアラビア語の勉強に行っている。見失った「素足の私たち」を入れた胸の震えが止まらずに音を立てているのはだれだろう。だれだかわからないけれど、ありがとう。(泣かない二月10)#k2fact161
2017-02-17 09:15:31