新入社員(まだ途中)

不思議ちゃん新入社員に振り回される横山先輩のお話。イメージは東海林先輩。
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かおり @orange_shake_

**新入社員** 1. は? こいつ、今何つった? 「だから、横山さんのことが、好きなんです」 目の前の彼女は俺の心を読んだんか、今度は一つ一つの単語をゆっくり丁寧に発音した。 …って。 そういうことちゃうねん。 「え、」 えええええええ!? ***

2016-05-20 22:08:58
かおり @orange_shake_

2. *** 「はいヨコ、これあかんわやり直し」 「へ?ああ、おん…」 「珍し。今日は物分りええんやな」 会議の準備を終えてオフィスに戻ると、村上に今朝出した出張書類を突き返された。 「この飛行機。1便前の方が安いねん。そっちにせぇ。あとこことここ、誤字。直しといて」

2016-05-20 22:09:04
かおり @orange_shake_

3. 「はいはい」 うるさいわーこの八重歯。 昨年まで一緒に営業におったこの同期は、数字へのえげつないこだわりを上に買われて、この春から経理に異動になった。

2016-05-20 22:09:12
かおり @orange_shake_

4. 営業するために生まれてきたみたいなこの男が大人しく事務仕事なんてやるんかいなと思ってたけど、上もそれをわかってたんか「経理課長」という肩書きを与えることで丸く収まったらしい。 そしてその経理課長が、どうしたことか異常にハマっとって。

2016-05-20 22:09:19
かおり @orange_shake_

5. 「あと、この前会議室のエアコンつけっぱなしやったで。出るときは消す!あと設定温度は夏28°C冬20°Cな」 「なあ、さすがにケチすぎひん…?」 「んなもん当たり前や、俺はケチを仕事にしてんねん!」 ケチが仕事。 意外と、経理はこいつにとって天職やったんかもしれへん。

2016-05-20 22:09:26
かおり @orange_shake_

6. 持ち前のポジティブさで、異動決まった瞬間から色々勉強して、1ヶ月足らずで経理課長が板についてるもんなあ… 「ヨコ!聞いとる?」 「聞いとる聞いとる」 嘘。聞いてへん。 今俺、それどころちゃうねん。 「村上課長、会議の準備終わりました」

2016-05-20 22:09:33
かおり @orange_shake_

7. 「おー、ありがとぉ!これあげるわぁ」 会議の準備したぐらいで飴ちゃんを渡される、村上お気に入りのこの新入社員。 そう。 俺が今「それどころちゃう」のは他でもない彼女のせい。 *** 彼女はこの春に中途採用で入社して、経理課に配属。 つまり村上経理課長の最初の部下。

2016-05-20 22:09:39
かおり @orange_shake_

8. 中途採用とはいえまだ若い女の子がこんな面倒くさい上司つけられて、泣かされてさっさと辞めてまうんちゃうかっていう俺の小さな心配は大きく裏切られた。 経理の経験があるらしく、付け焼き刃の知識だけで経験値ゼロの村上を上手く立てつつも右腕としてなかなかええ仕事しとるとか。

2016-05-20 22:09:47
かおり @orange_shake_

9. 「村上課長、ここはこっちの数字で計算して下さい」 「え!なんでぇ?前はこっちやったやん」 「予算が違います。今回の場合…」 淡々としてるけど嫌味じゃなく、仕事の出来る子。 もちろん社内にはまだ慣れてないみたいで基本的には村上の後ろについて、メモをとる姿も初々しい。

2016-05-20 22:09:55
かおり @orange_shake_

10. 愛想が良くて他部署や外からのお客さんからもウケのいい彼女はみるみるうちに村上に気に入られ、入社1ヶ月にして今や色んな仕事を任されとる。 そのうちの1つが、週に1回午後イチで行われる営業会議の準備。

2016-05-20 22:10:02
かおり @orange_shake_

11. 俺ら営業部がメインの会議やけど経理やら他の部署からも代表者が参加するからと、準備を手伝ってもらうことになった。 そのアシスタントに抜擢されたのが彼女。 昼休み返上で資料のコピーやらお茶の準備やら、なかなかの雑用にも関わらず彼女は嫌な顔一つせず引き受けたらしい。

2016-05-20 22:10:11
かおり @orange_shake_

12. 事件は、その準備中に起こった。 ** 「横山さん」 「ん?」 「お願いがあります」 資料をきっちり配り終え、プロジェクターの動作確認まで済んだところで彼女が切り出した。 「おん、何?」 「私のことを、きっぱりフッてほしいんです」 「……は?」

2016-05-20 22:10:20
かおり @orange_shake_

13. 何を言われたのか、正直わからんかった。 「………」 「………」 ……… 「……え?」 「だから、私のことをフッて下さい。出来るだけ立ち直れないぐらい、容赦なく」 「え、いやいやいや」 さっきから何の話をしてんの。 「私、横山さんのこと好きなんです」

2016-05-20 22:10:27
かおり @orange_shake_

14. 「え」 そして、冒頭へ戻る。 ** 「だから、横山さんのことが、好きなんです」 「え、ちょ待、全然わからへんねんけど」 色々とツッコミどころが満載すぎる。 「上司じゃなくて、男の人として見てます。1人の男の人として、好きです」

2016-05-28 00:00:05
かおり @orange_shake_

15. これはもしかして、いやもしかしなくても、 俺、告白されてる…? いやでも告白ってもっとこう、甘酸っぱいような緊張感っていうかその、 彼女の今の言葉は、とても愛の告白をするようなトーンではなくて。 例えるなら、ダメ出しを受けてるような。

2016-05-28 00:00:20
かおり @orange_shake_

16. (村上課長、ここはこっちの数字で計算して下さい) (横山さん、私のことをフッて下さい) 完全に一致。 「え、ていうか何でフる前提…?」 口をぱくぱくさせて、やっと出た言葉。 「社内恋愛なんて、ありえないです」

2016-05-28 00:00:31
かおり @orange_shake_

17. 「まして私は新入社員。まだまだ覚えるべきこと、やるべきことがたくさんあるのに、一丁前に社内の男の人にうつつ抜かしてる場合じゃないんです」 「お、おん…」 わかるようなわからんような。 いや、全然わからんわ。 「だから、できるだけ手厳しくお願いします」

2016-05-28 00:00:39
かおり @orange_shake_

18. 姿勢を正して軽く深呼吸の後、気をつけの姿勢。 あの村上に気に入られるぐらいやからこれまでも人から叱られるとこなんて見たことなかったから予想やけど、きっと彼女は今、叱られる時と同じ姿勢。 「いや、それはちょっと待って…」 まだ頭の整理つかへん。 「…はぁ、」

2016-05-28 00:00:50
かおり @orange_shake_

19. 呆れたようなため息。 え?俺今、ため息つかれた? この、俺のことを好きや言うてる新入社員に? わけわからへん… 「こんなお願いをするのは図々しいと重々承知していたんですが、」 「いや図々しいとかじゃなくて」 ただ、俺がついていかれへんだけで。君の思考に。

2016-05-28 00:00:57
かおり @orange_shake_

20. 「私だって、自分で諦められるならそうしたかったんです。でも、」 無理でした。 小さく呟いた最後の言葉。 その表情が、出来る新入社員から急に普通の女の子に見えて。 「、」 正直、ドキッとした。 「私、新卒の時にこの会社受けて、最終で落ちたんです」

2016-05-28 00:01:05
かおり @orange_shake_

21. 実は、覚えとる。 たまたま面接会場の案内に駆り出されとった時、異常に緊張してた女子学生。 面接始まる前から泣きそうな顔しとって、終わって出てきた瞬間、見事に泣き崩れた。 誰も言わんから俺も気にせんようにしてきたけど。

2016-05-28 00:01:15
かおり @orange_shake_

22. 「それで、同業界の他社に就職して自分なりに経験積んで、やっとここまで来れたんです」 「ここに入社することは、私の夢でした」 真っ直ぐ俺の目を見て、そう言った。 えっと、今これ、面接ちゃうやんな? 「まだ1ヶ月しか経ってないけど、毎日本当に楽しいんです。」

2016-05-28 00:01:26
かおり @orange_shake_

23. 「もっと出来るようになりたい、色んな仕事を任されて、この会社に貢献したい」 今時の子でも、こんなこと言うんやなぁ。 ゆとり世代、でくくったらあかんのやろうけど。 面接で話すような志望理由なんて建前で、ほんまはもっと条件とか色々と計算して会社って選ぶもんやと思ってた。

2016-05-28 00:01:34
かおり @orange_shake_

24. 実際俺も学生の時はそうやったし。 それを、真正面からぶち壊された。 逆に、人事は何でこの子を新卒の時に採用せんかったんやろ。 「横山さん、聞いてます?」 「え?あ、おん」 「見ての通り、クソ真面目だけが取り柄です。今は、1日も早く一人前になりたいんです」

2016-05-28 00:01:43
かおり @orange_shake_

25. 「今は、1日も早く一人前になりたいんです。それなのに」 淡々と話す表情が少し曇る。 「横山さんのことが、気になるんです。私のデスクからちょうどよく見える位置に営業部があるから、仕事しててもふとした瞬間に見てしまうんです」 「…はい、」

2016-05-28 00:01:49
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