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26. 「だから、村上課長に頼んで席を移動させていただきました」 …ああ。 *** (村上課長。そこのデスクは空きですか?) (え?おん、作業台にでもしよかと思っとるけど) (私、そっちに移動したいんてすが、いかがでしょうか) (いや別にええけど…何で?)
2016-05-28 00:01:5527. (…エアコンの風が、直撃なので) (そない変わるかぁ?まあええわ、ほな移動せぇ) *** 彼女が移動したデスクは俺ら営業部に背を向ける形になっている、村上の真隣。 (隣で目ぇ光らせて、リアルタイムでダメ出しするつもりなんちゃうか)
2016-05-28 00:02:0228. (隣で目ぇ光らせて、リアルタイムでダメ出しするつもりなんちゃうか) 席替えした日の帰り道、おでん屋台で熱燗を煽りながら不安げに呟いた村上の心配は勘違いやったらしい。 「それなのに、私は」 さっきから、好きな男に告白してる態度ちゃうねんなぁ。
2016-05-28 00:02:0929. ブラインドを調整して、スクリーンが反射してへんかチェックしながら。 はたから見たら、どう見ても俺ら仕事してるだけやん。 「今度は横山さんの声に敏感になりました。それだけじゃありません。この、毎週の会議の準備だって、私が自分からやりたいって村上課長に申し出ました」
2016-05-28 00:02:1530. 「え」 そうやったんや。 この、昼休み丸潰れの罰ゲームのような仕打ちを。 「週に1回、唯一堂々と横山さんの姿を見ることができる。唯一、2人になれる。不純ですよね」 「え、いや…」 正直、感情めちゃくちゃ。
2016-05-28 00:02:2031. 俺にとっては憂鬱な時間やったけどそれは彼女とは一切関係ないし、今そう言われてむしろ来週からこの時間が楽しみになりそうな予感すらしてる。 「こんな乱れた気持ちで仕事に取り組むべきじゃありません。私は、一刻も早く横山さんへの気持ちを断ち切るべきなんです」
2016-05-28 00:02:2732. 真面目なのか、そうじゃないのか。 彼女の真っ直ぐさは、どっかズレとる気がする。 「でも、フるって言っても…」 「はい、完膚なきまでに叩きのめして下さい」 「いやいやいや」 無理やろ。
2016-05-28 00:02:3333. 言いたいことはわかった。 俺のことが好きで仕事に集中できひん自分が嫌やから、でも自分じゃ諦めきれへんから。 筋は通っとるけど、それとこれじゃわけが違う。 だいたい、 「もし俺が今、その気になりかけてたら…?」
2016-05-29 21:02:0734. よう出来る子っていうビジネスパートナー的な意味ではあれど、好印象を持ってた女の子。 こんな真っ直ぐに想い伝えられて嬉しくないわけないし、俺は彼女ほど真面目ちゃうから社内恋愛っていうワードに結構テンション上がってんねんけど。 「え。だって、彼女さんいますよね?」
2016-05-29 21:02:1335. 「え?おらんけd 「いるって言って下さい!!」 謎の勘違いを訂正しようとしたら、遮られた。 「出来れば奥様とお子さんがいらっしゃると言って下さい…」 「さすがにそれは無理やな…」 あかん、この子重症や。 「おーい、準備できたかぁ?」
2016-05-29 21:02:1936. 「弁当買うてきたったからお前らもキリええとこで飯にせぇよー」 会議室のドアが開いて、無神経な経理課長のガサツな気遣い。 「行きましょうか」 さっきまでと全く変わらない態度で、会議室を出て行こうとする彼女。 「待って」 「?」 怪訝そうな顔で振り返る。
2016-05-29 21:02:2537. 「今の件、一旦保留でもええ?」 「…何を検討されるのかわかりかねますが」 いいお返事をお待ちしております、って。 好きな男への告白の「いいお返事」が妻子持ち発言って、ちょっとこの新入社員は色々と規格外すぎる。 ***
2016-05-29 21:02:3238. *** 「横山さん」 「は、はいっ!」 あかん、声裏返ってもーた。 * 衝撃の告白から数日。 彼女は自分の気持ちをぶちまけてスッキリしたんか平然と俺に接してくるけど、正直俺はそれどころちゃう。 「村上課長からお預かりしました」 村上の印鑑が押された書類。
2016-05-29 21:02:3739. 「あれ?あいつは?」 「今日は出張だそうです」 あー、そういえば何か聞いたような気もする。 「それで、来週の会議なんですが」 「お、おん」 一瞬、心臓が高鳴る。 「次回から、準備のお手伝いは大倉さんにお願いすることになりました」 「え」
2016-05-29 21:02:4340. 大倉は彼女と同じ、経理課の若手社員。 あいつから昼飯の時間取ったらただのクマやで? 「それは、何で…?」 恐る恐る聞く。 「会議の準備をする社員は、早めにお昼休みをとっていいことになったんです。大倉さん、いつも早弁なので」 「お、おん…」
2016-05-29 21:02:4941. 早弁の後、昼休みも社食で飯食うてるから一緒やと思うで。 あいつ、いつまで育ち盛りなん。 「せやったらさ、」 少し声のトーンを落とす。 「今日、飯行かへん?2人で」 「行きません」 即答かい。 「何で…」 「先日の件でしたら、手短に済む話なので」
2016-05-29 21:02:5742. 「わざわざ食事までというのはいかがなものかと」 おいおいおいおい。 頭堅すぎるやろ。 どんな教育してんねん村上…って、あいつのせいちゃうか。 これは、この子の問題。 「ちょっとええ?」 彼女を廊下に連れ出した。 「この前の返事な」 「はい、お願いします」
2016-05-29 21:03:0343. またこの前みたいに、お説教されるモードの姿勢。 握りしめた拳が、少し震えてるのに気がついた。 「………」 何やかんや言うて、女の子やん。 好きな男にフラれるって、辛いに決まってる。 俺みたいな男のどこがええんか全くわからんけど。
2016-05-29 21:03:0844. いくら彼女の頼みとはいえこんな顔してる女の子を傷つけることなんかできへんわ。 「断る」 「…はい」 ぎゅっと目を瞑って、噛みしめるように頷く。 「フッてくれっていう頼みを、断る」 「はい……、はい?」 ぱちっと目が開いた。
2016-05-29 21:03:1445. 「だって俺、結構気になってもーてるし。君のこと」 「ダメです、ちゃんと断って下さい」 「何でやねん。ええやんか別に」 「ダメなんです、仕事に集中できません」 「できてるやん」 現に彼女が仕事で失敗してるとこなんか一度も見てへん。会議準備だって完璧にこなしてる。
2016-06-04 23:00:5846. 「今はまだ、っていうだけです。いつかきっと大きなミスをやらかします」 そんなことないと思うけどなぁ… プライベートが仕事に影響するようには見えへん。 「じゃあ、どうしたらええの?」 「だから、」 「俺の気持ちは」
2016-06-04 23:01:0947. 彼女は俺にフラれてスッキリできるかもしれへんけど、もはやこれは彼女だけの問題ちゃう。 「気になってる女の子を自分の意思と反する形でフッて、その女の子と毎日顔合わせながら仕事することになる俺の気持ちは?」 わざと意地悪く言うと、困った顔をした。
2016-06-04 23:01:1848. その顔、初めて見るかも。 結構可愛いやんけ。 「じゃあさ、」 意地悪ついでに、もう一押し。 「俺が君のことをフる」 「はい」 「その後、君が吹っ切れた頃に今度は俺から君に告白する」 「………」 「で、君が俺のことをフる」 「無理です」 またしても即答。
2016-06-04 23:01:2949. 「何で?お互い様やん」 「吹っ切れるイメージがつきません。横山さんに告白されて、フることなんて私には無理です」 今もほぼ告白してるようなもんやけどな。 「何ならセクハラで訴えてくれてもええで?そしたら俺、地方にでも飛ばされるから顔見んで済んで丁度ええんちゃう?」
2016-06-04 23:01:3750. 「………」 あ、涙目。 やりすぎてもた。 「なあ」 「はい」 「選択肢、もう1個ある。もうお互いのためには、セクハラで訴えるかこれしかないと思うねんけど」 「えっと、」 「付き合おうや」 ***
2016-06-04 23:01:45