- sm_14th_Invidia
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クズ鉄のミサキはあれから何度も【鳥獣族】の雛たちの住む屋敷へと通いました。 そこでクズ鉄のミサキは自分でない自分の話をするのです。
2011-02-23 02:38:54説得力のある嘘をつくために里の書庫で知識を仕入れ、クズ鉄を集め【遺物族】の子供を作る作業の間もずっとクズ鉄のミサキは物語を考え続けました。 クズ鉄のミサキにとって人を面白がらせ、好かれ、尊敬され、人に望まれ、求まれ、認められることだけが人生の楽しみになったのです。
2011-02-23 02:42:14【鳥獣族】の少女、黒い雲のヒジリは雛たちの中でも特に熱心にクズ鉄のミサキの話を聞きました。
2011-02-23 02:44:21黒い雲のヒジリは言います。 「ミサキさんってとても凄いですよね。最近ではミサキさんが来ることを楽しみにして生きている気がする」
2011-02-23 02:46:07そうして雛たちに物語を聞かせる生活はクズ鉄のミサキの人生の中で最も楽しい時間でした。 でも、楽しい時間は長くは続きません。
2011-02-23 02:48:02「私もミサキさんと一緒に冒険をしたいの。あと3回満月が上ったら私は成人になって里を出て大陸のどこでも自由に飛んで生きることができる。そのときに私を連れて行って欲しいの」
2011-02-23 02:53:08その言葉にクズ鉄のミサキは困り果ててしまいました。 もちろんミサキの冒険は嘘だから彼女をつれていくことはできません。 でも、ミサキが困った理由はそれだけではありません、ミサキにはヒジリがそんな言葉をいった意味がまったくわからなかったのです。
2011-02-23 02:56:06「何故そんなことをいうんだい、ヒジリ?君はもう少しで大陸のどこにでも飛べるようになり《善行》をいくらでも積むことができる。わざわざ危険を冒さなきゃいけない理由がまったくないじゃないか」
2011-02-23 02:57:48「もちろんそれはそうなんだけど……。私はそれでいいのかな、って思うの。それはここにいるみんなが歩む人生と一緒、私である意味がまったくない気がするの。貴方が貴方しかできないことをやってるように私も私にしかできないことをやりたいの」
2011-02-23 03:00:10その言葉を聞いたときのクズ鉄のミサキの感情は到底口では語れません。 それは例えば好意でした、でも怒りでした、あるいは嫉妬であり、隔絶であり、尊敬でもあったし、寂しさと呼ぶ人もいるかもしれません。
2011-02-23 03:01:44ああ、自分は《善行》を為すこともできず毎日【遺物族】のためにやっても楽しくもない仕事をしているというのに、それしか道がないというのに、彼女は《善行》を為すことを当たり前に受け入れてその上でその先を見ているのです。
2011-02-23 03:03:34そんな自分よりも優れた生き方をしている彼女のことをもっと好きになりました。 自分が心から切望してるものを持っていてそしてその幸せを自覚しない少女に起りました。 そんな人生設計をを抱ける少女がどうしようもなく羨ましくなりました。
2011-02-23 03:05:30少女と自分がどうしようもなく別の生き方をしている別の生き物であるという事実を認識してしまいました。 どうしようもなく少女が自分より光り輝いて素晴らしいと思いました。 そして、そんな少女と自分が一緒に冒険することは、ない。
2011-02-23 03:07:11「だから私が里を出る3回目の満月の夜、私を迎えに来て欲しいの。またどこか知らない遠い地に出たりしないで欲しいの。駄目?」
2011-02-23 03:09:23ぎしり、と縄の締まる音がした気がしました。 ああ、自分はその音を知っている。 この感情を知っている。 これは縄だ。 自分の首に締まった縄だ。 このままじゃ駄目だと自分を責め立てる縄が首にかかっている。
2011-02-23 03:12:16忘れたはずなのに。 ここで誰かに必要とされながら生きていけば忘れられたはずなのに。 また焦燥感で新鮮な空気が吸えなくなる。 安らぎは消えて絶望でないなにかで少しずつ心が削られながら生きなきゃいけなくなる。
2011-02-23 03:13:44優秀な人間を、夢を叶えようと頑張ってる人間を、そしておそらくそのまま輝かしい道を歩であろう人間を見るのは、どうしようもなく、苦痛だ。
2011-02-23 03:15:40ああ、ここで自分が酷い返答をすれば少女を傷つけることができるだろう、それはもしかしたら快楽かもしれない。 一瞬だけ、クズ鉄のミサキはそう思い、そしてすぐにそんな自分を嫌悪して、自分とヒジリを比べてよりいっそう嫌悪して、そしてそんな少女に好かれてる状況の幸せさを感じました。
2011-02-23 03:20:04