【白鯨-mobby dick-】 ♯3-1

楓君の苦難
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葛葵中将 @katsuragi_rivea

この攻撃自体はいわゆるけん制を目的としていた。 練度の高い軽空母達はただちに回避に移行、この行動も予測済みであったのだろう 艦船の性質上、行える回避運動の可動範囲には必ず限界が存在する その先々を奪い尽くされたところへめがけ 演習用艦爆機体は決め手となる追い打ちをかける。

2017-02-27 23:17:12
葛葵中将 @katsuragi_rivea

降り注ぐ演習用爆弾は、 吸い込まれるようにそれぞれの軽空母たちへと命中… 内容していた青のペンキが彼女達の衣服を染め上げ、 そこで演習終了を告げる空砲の音が鳴り響き、実験演習は幕を閉じたのだった。

2017-02-27 23:18:56
葛葵中将 @katsuragi_rivea

―――・・・ 「私がこいつに問題として提起したいのはそこだ。いい質問だ楓少将。」 楓は思わず目を見開く。 物思いにふけっていた脳内を一気に覚まさせる言の葉は、 思いもしない方向から飛び出してきた。

2017-02-27 23:20:11
葛葵中将 @katsuragi_rivea

響くヒールの音は意識の外にあったらしく、 この場における講義を繰り広げていたはずの白衣の女性はいつの間にか、 葛葵を見下ろす形で堂々と彼の目の前に立っていた。 険悪な表情を浮かべる佇まいは仁王像を彷彿とさせる威圧感を孕む、

2017-02-27 23:21:21
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「”アレ”の影響からか、私の想定以上の負荷が新型機にかかっていたことが判っている。初めに説明が無かったことに関して何か言い分はないかな、冷士?」 女は葛葵の下の名を口にした。 かつて、海軍の士官学校においてこの二人は同期として旧知の仲にあたる

2017-02-27 23:22:27
葛葵中将 @katsuragi_rivea

栃内隗。 今では海軍においてその名を知らぬ者は皆無。 当初、士官として志願したはずだった彼女だったが、 体格や運動といった分野には恵まれはせず、苦汁を舐める運命を辿った。 だが、彼女は才覚を意外な方向へと開花させることとなる。

2017-02-27 23:25:32
葛葵中将 @katsuragi_rivea

戦略、計略とは異なるベクトルで優れる栃内の頭脳に艦政本部から査察にきていた将官が目をつけ自らの管理下へと引き抜いたのが十年ほど前。 結果、現在では新設された海軍技術研究本部-通称NTL- 海軍における艤装技術の7割を負担する機関の本部長として任命されたのが栃内に他ならない。

2017-02-27 23:26:20
葛葵中将 @katsuragi_rivea

そんな彼女と葛葵は時を経てこうして袂を分かち、立場も異なるも、 鹿屋に身を置く同組織から派遣された機構科補佐官夕張のつてでたびたび顔を合わせ、 “悪友”として互いに罵詈雑言をかけあう姿は…周囲から見ごたえのあるものとして 語り草となっている。

2017-02-27 23:27:32
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「事前に伝える義務はない。不足の事態を想定していないなどとは 海技研本部長様とあろうお方が聞いて呆れるなぁ。頭が固いのは相変わらずかな栃内君? 講義も聞いていて飽き飽きしてくる。素人にもわかりやすく噛み砕いて話したらどうだ?」 (おお、煽りよるわ…)

2017-02-27 23:28:13
葛葵中将 @katsuragi_rivea

楓は葛葵の煽り文句を耳に、内心肝を冷やした。 相手は仮にも艦政本部所属機関の本部長に当たる人物。 階級こそ表向きには士官将官などと階位を共有すれど、そこに属する人員は例外なく 一般所属の者とは一線を画す存在である。

2017-02-27 23:29:15
葛葵中将 @katsuragi_rivea

軍内部は縦社会。上官に物を申して弾圧されたなどとは、 珍しくもない事例であり、 基本的に上層部に属する者は自らの立場を鼻にかけ、のきなみプライドも高い。…のだが、 「君ほど道化師のように話術に長けていないのでな。サーカスの見世物でもあるまい、端的に話すのが一番と判断する」

2017-02-27 23:31:18
葛葵中将 @katsuragi_rivea

栃内という人物はその例外にあたるようで葛葵による喧嘩腰の言葉に、 全く動じることもなく、返す刀で嫌味の言葉でもって返事を返した。 「もっとも、肝心な時に女性の口説き文句として発揮されないのは仕様か?未だ持ってその歳で独り身とは、悲しいな」 「おいやめろ」

2017-02-27 23:32:02
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「演説で鼻を高々に部下に説教を垂れる前にその性根をなんとかしないから君はモテない。 私の計算、理論ではそう断定したはずだ。証明の論文も美濃部君に送付したが目を通したか?」 「あんなもん破り捨てたわ!余計な仕事してんじゃないよ!」 「浅はかな…」

2017-02-27 23:32:49
葛葵中将 @katsuragi_rivea

“旧友”同士によるじゃれあい…もとい、悪態の応酬はしばし続いた。 (やれやれ…) 関わりあいになりたくない、と降りかかる火の粉を振り払う処世術を行使し 自ずから楓は蚊帳の外へと一歩身を引くと、深く肩を落とした。

2017-02-27 23:33:35
葛葵中将 @katsuragi_rivea

普段の”師匠”の相手だけならばまだしも、 そこに、同等に渡り合える虎まで加わるとなると楓が介入する隙間など 一切の余地が存在するはずは…なかった。 楓は明石と夕張が同情の目を向けるのに気付き、苦笑と共に軽く手を振りかえした。

2017-02-27 23:34:38
葛葵中将 @katsuragi_rivea

それと、同時の出来事であった。 狭い室内に扉を叩く音がこだまする―――

2017-02-27 23:35:47
葛葵中将 @katsuragi_rivea

「おや?なにやらにぎやかじゃぁないか!私も是非、混ぜていただけるかな?」

2017-02-27 23:36:22
葛葵中将 @katsuragi_rivea

扉から顔を覗かせたのは、その歳も見当もつかない一人の男、 「パーティーをしているなら私も呼んでくれなくては困る。寂しいのは、嫌だからね!」

2017-02-27 23:37:12
葛葵中将 @katsuragi_rivea

周囲を圧倒する威圧感、纏う異様な雰囲気は、視線を独占せしめる。 彼が、その中心で高らかにあげた独特な笑い声は さながら戦乱の幕開けを告げる鐘の音。

2017-02-27 23:38:57
葛葵中将 @katsuragi_rivea

北の海を統べる”人本来の姿”をその身に写す”魔人”の手によって、 ―――運命を紡ぐ門は、開かれた。

2017-02-27 23:39:28
葛葵中将 @katsuragi_rivea

次回、ヒルガオの艦隊【白鯨-mobby dick-】♯3-2 神回です。(いろんな意味で ご期待ください pic.twitter.com/w3rWM4Th52

2017-02-27 23:48:22
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