【なんか小説っぽいの】愛のベーゼ【誰得】

妄想が昂って「尊敬するピアノ奏者×ピアノの化身」的なのを書いたつもりなんだけど…どうしてこうなった;申し訳ない。
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ユィリル @Yuyril

或る優秀なピアニストがいました。彼はいつも愛用のベーゼンドルファーのピアノを弾いていました。 #twitnovel

2011-03-06 22:04:46
ユィリル @Yuyril

しかし彼の腕前をうらやむ多くのピアニストから妬まれ、その妬みは呪いとなって彼に降り注ぎました。いつの間にか、彼の住んでいた家からはピアノの音が聞こえなくなってしまいました。 #twitnovel

2011-03-06 22:07:36
ユィリル @Yuyril

ある日土砂降りの雨の中で、一匹のかえるが鳴いていました。かえるは雨風をしのげる場所が欲しくて大きな穴の中に隠れようとしました。 #twitnovel

2011-03-06 22:09:27
ユィリル @Yuyril

かえるは穴がどれくらい深いのか知りませんでした。穴のふちから恐る恐る前足を伸ばした途端、かえるはバランスを崩して穴に落ちてしまいました。 #twitnovel

2011-03-06 22:11:09
ユィリル @Yuyril

かえるは、深い深い穴の中へ落ちていきました。どこまで落ちるか分からず、また落ちたらどうなるんだろうという思いが頭をよぎった頃、ばしゃんという音を立てて水の上に落ちました。かえるが落ちた深い穴は、井戸だったのです。 #twitnovel

2011-03-06 22:13:23
ユィリル @Yuyril

かえるは、一瞬何が起こったのか理解できませんでした。しばらくばちゃばちゃと井戸の水の中を泳ぎましたが、水の跳ねる音が井戸の中に響くだけでした。 #twitnovel

2011-03-06 22:16:39
ユィリル @Yuyril

しかししばらくすると、水の跳ねる音に交じって、何か別の音が聞こえました。ぽろん、ぽろん、という不思議な、でも懐かしい音色が。 #twitnovel

2011-03-06 22:18:24
ユィリル @Yuyril

かえるはあれっと思って、動きを止めました。するとその不思議な音もしなくなって、代わりに井戸の底の方で何かが光りました。 #twitnovel

2011-03-06 22:24:05
ユィリル @Yuyril

かえるはその光に近づこうとして、水に潜りました。潜って、潜って、潜って…やっと手が届きそうになったとき、目の前がくらむほど眩しくなり、かえるは気を失ってしまいました。 #twitnovel

2011-03-06 22:25:44
ユィリル @Yuyril

どのくらい時間が経ったでしょうか。かえるの耳に、不思議な声が聞こえてきました。「…」かえるはぼんやりとした意識の中で、その声が何と言っているのか聞き取ろうとしました。 #twitnovel

2011-03-06 22:28:02
ユィリル @Yuyril

だんだんかえるの意識ははっきりしてきて、やがてその声は「…はやく、よくなりますように…」と言っているのだと分かりました。かえるは薄く目を開いて、声の主の姿を見ようとしました。 #twitnovel

2011-03-06 22:29:32
ユィリル @Yuyril

かえるの視界いっぱいに映ったのは、白い肌の人間の顔でした。かえるの目が開いたことでその人間は少し顔を離し、「お.はようございます。元気になりましたか?」と言いました。 #twitnovel

2011-03-06 22:31:44
ユィリル @Yuyril

その人間は、黒い髪に白い肌をしていて、茶色い服の上に黒い上着を着ていました。とても整った顔立ちに細い体つきをしていて、男か女か判断できませんでした。 #twitnovel

2011-03-06 22:36:02
ユィリル @Yuyril

人間は「私の名前はベーゼと申します。かえるさん、ひとりでいたらさみしいでしょう?私はひとりだとさみしいですが、今日からかえるさんと一緒ですから、さみしくありませんよ」と言いました。ベーゼと名乗った人間は、かえるにほほえみかけました。 #twitnovel

2011-03-06 22:39:47
ユィリル @Yuyril

ベーゼはよく、かえるを肩や掌に乗せて窓の外の景色を見ていました。そしてふたりはよく一緒に歌いました。ベーゼの声は流れる水のように美しく、一緒に歌っているかえるもつい聴きほれてしまうほどでした。 #twitnovel

2011-03-06 22:42:57
ユィリル @Yuyril

ベーゼのいる部屋は、本と紙の束が大量にありました。どれもこれも、5本の線に点や丸や棒が書かれています。「かえるさん、これは楽譜といいまして、歌がどんなものかを忘れないように書き留めておくものなんですよ」とベーゼはかえるに説明しました。 #twitnovel

2011-03-06 22:45:55
ユィリル @Yuyril

しかし、或る一角だけ何も置かれていない場所がありました。そこだけ、さっきまで何か大きなものが置かれていたように、床の色も褪せていませんでした。 #twitnovel

2011-03-06 22:47:55
ユィリル @Yuyril

「私にはご主人様がいたのです」と、ベーゼはかえるに語り掛けました。「でもある日突然いなくなってしまわれました。お部屋の外へ出られたまま、戻っていらっしゃらないのです。これは、ご主人様がいつも使っていらしたお椅子」と言って、ベーゼは古びた椅子に手を触れました。 #twitnovel

2011-03-06 22:51:11
ユィリル @Yuyril

「ご主人様がいなくなってしまわれてから、私はひとりこの部屋で歌っておりました…ご主人様がお戻りになられるのを待ちながら。でもいてもたってもいられず、ついにお部屋の外へ出てみようと思い至ったのです。」 #twitnovel

2011-03-06 22:54:20
ユィリル @Yuyril

「そうしたら、井戸の中にぽつんとあなたがいらしたのです、かえるさん。なんだか私と似ているなあと思いまして…それであなたをこのお部屋へお連れいたしました。…ご迷惑、だったでしょうか…?」ベーゼはかえるを掌に乗せ、問いかけた。 #twitnovel

2011-03-06 22:57:55
ユィリル @Yuyril

かえるは、そんなことない、と言おうとして言葉が通じないことに気付き、首を横に振りました。ベーゼはかえるが自分の言っていることを理解してくれているのだと分かって、うれしくなりました。 #twitnovel

2011-03-06 22:59:48
ユィリル @Yuyril

「かえるさん…ありがとう。大好.きですよ」そう言って、ベーゼはかえるに顔を近づけ、その小さな口に自分の唇を寄せました。本人なりの愛情をこめたつもりなのです。 #twitnovel

2011-03-06 23:02:22
ユィリル @Yuyril

すると突然かえるの身体が眩く輝き、ベーゼは驚いて目を閉じました。光が収まって目を見開いたベーゼは、そこに立っている男を見て驚きました。「…ご主人様…?」 #twitnovel

2011-03-06 23:04:39
ユィリル @Yuyril

男―もとい、この部屋の持ち主のピアニストは、一瞬何が起こったのか理解できませんでした。しかし、目の前で漆黒の双眸を揺らすベーゼの姿を見て、自分が元の人間の姿に戻.ったことを悟りました。 #twitnovel

2011-03-06 23:09:29
ユィリル @Yuyril

「お.か.えりなさいませ、ご主人様!」ベーゼはそう言うなり主人たるピアニストに飛びつきました。と同時にぢゅーん!という意味不明の大きな音が鳴り響きました。彼が床に手をついて立ち上がると、もうそこにベーゼの姿はありませんでした。 #twitnovel

2011-03-06 23:13:49