地下鉄サリン事件から22年によせて、宗教学研究者・大田俊寛さんのつぶやき、まとめ(20170320)

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大田俊寛 @t_ota

1)今日で地下鉄サリン事件から22年。最近はオウム関係には目立った変化がなく、現時点でコメントすべきことは見当たらないが、研究報告として、今年一月に精神病理コロックで発表した「霊性進化論の歴史──批判と克服に向けて」のレジュメを公開。goo.gl/3zHJV9

2017-03-20 11:27:41
大田俊寛 @t_ota

2)発表の依頼を受けた経緯は、以下の通り。最近では精神医学の領域においても、「スピリチュアル」や「スピリチュアリティ」といった、意味内容のはっきりしない言葉で臨床に関与する人間が増えており、未だ目立った批判は提起されていないものの、懸念を覚えている精神科医が一定数いるとのこと。

2017-03-20 11:27:55
大田俊寛 @t_ota

3)実は、諸分野における「スピリチュアリティ推進」運動の発信源は何人かの宗教学者であり、その他の大部分の宗教学者は、こうした動きを事実上「容認」あるいは「黙認」している。明確な形で「批判」や「反対」の立場を取っている日本の宗教学者は、もしかしたら現状では私一人かもしれない。

2017-03-20 11:28:10
大田俊寛 @t_ota

4)『現代オカルトの根源』に依拠しつつ、スピリチュアリティを批判的に分析してほしいという依頼を受け、昨年の秋頃、宗教学者が執筆したものを含め、同テーマの書籍や論文を一通り読んでみたが、結論から言えば、すべてが「幻想」の水準の話で、十分に学問的と言い得るものは一つも存在しなかった。

2017-03-20 11:28:25
大田俊寛 @t_ota

5)これまで何度か述べてきたように、オウム事件とは、宗教学者のなかにニューエイジ系やスピリチュアル系の「活動家」が紛れ込み、意図しないうちに、オウムの発生と成長を後押ししてしまった、というもの。遺憾ながら、日本の宗教学のこうした構造は、今でも基本的にまったく変化していない。

2017-03-20 11:28:40
大田俊寛 @t_ota

6)以下では、公開したレジュメに即しながら、発表内容の簡単な説明を。全体は三部から成り、第一部は、「霊性進化論の歴史」。こちらは既刊の『現代オカルトの根源』の内容を紹介したものなので、詳しくは同書を参照してほしい。

2017-03-20 11:28:55
大田俊寛 @t_ota

7)関連して一言付記すれば、最近もまた、芸能人の出家を巡って「幸福の科学」が話題となったが、周囲の反応は相変わらず憶測・嘲笑・暴言を基調としており、論外と言わざるを得ない。宗教問題への対応は、思想内容を把握した上での冷静な批判と対話が基本、という当然の事柄を繰り返しておきたい。

2017-03-20 11:29:08
大田俊寛 @t_ota

8)第二部は「「スピリチュアリティ」という幻想はなぜ消えないのか?──由来と構造」。これは新しく書き加えた部分だが、『オウム真理教の精神史』以来、基本線は変わっていない。近代は「死に対する公的な説明」が欠如しており、その穴を塞ぐため、さまざまな幻想が吹き上がってくる、という構図。

2017-03-20 11:29:24
大田俊寛 @t_ota

9)こうした幻想が次第に集積され、スピリチュアリティと総称される流れが形成される。8頁に示したように、私は現状ではその源流が、ロマン主義・実存主義・心霊主義にあると考えている。これらの思想は死の甘美なイメージを与えるが、蒙昧主義、陰謀論、疑似科学の蔓延といった弊害を合わせ持つ。

2017-03-20 11:29:39
大田俊寛 @t_ota

10)思想史を改めて整理していて思ったのは、アスコナ文化、具体的には「エラノス会議」が宗教学に与えた悪影響。代表者は、オットー、ユング、エリアーデ、井筒俊彦、河合隼雄など。彼らにはそれぞれ功罪があるが、全体として、宗教を幻想的なもの、心理的なものに矮小化する見方を広めてしまった。

2017-03-20 11:29:56
大田俊寛 @t_ota

11)私もまだまだ勉強が足りないが、特に日本では、湯浅泰雄が広めた「気の科学」が、さまざまな疑似科学を育てる温床になっているのではないか、という印象がある。同氏に対する批判的見解、およびビジネス界との癒着については、斎藤貴男『カルト資本主義』(文春文庫)第三章を一読してほしい。

2017-03-20 11:30:12
大田俊寛 @t_ota

12)スピリチュアリティの問題点は9頁の通りだが、それに加え、宗教に対する理解の仕方が、いつの間にか歪曲化・矮小化されるということも指摘しておきたい。この意味において私は個人的には、「スピリチュアリティ推進派」の宗教学者は、今や「エセ宗教学者」と呼んでも差し支えないと思っている。

2017-03-20 11:30:26
大田俊寛 @t_ota

13)第三部は「公的遺言・追悼SNSの提案」。私は、宗教学の本分は理論的考察にあり、安易な実践活動は控えるべきと考えているが、先述のように、近代における「死に対する公的な説明の欠如」が諸問題を生み出していることは理解しており、それに対する一つの「手当て」の方式を考案してみた。

2017-03-20 11:30:40
大田俊寛 @t_ota

14)スピリチュアリティに見られるような、死に対するウエット・心理的・利己的な態度とは反対に、ドライ・言語的・利他的な態度を育てていくべきではないかというのが、私の基本的な考え。現在の環境ではさほど難しくなく、長く続けば価値あるものになると思うので、今後も実現を模索していきたい。

2017-03-20 11:30:54
大田俊寛 @t_ota

15)結論として繰り返せば、スピリチュアリティとは、近代の構造から湧き上がる幻想にすぎず、宗教学者は批判的に分析するべきで、これを推進するなどあってはならない。また個人としても、そのような弛緩した諸幻想にすがって生きるのではなく、力強く簡潔な人生を目指すべきではないだろうか。/終

2017-03-20 11:31:09