稲川淳二の『つぶやき怪談』(2017.03.29)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

昨日とまったく同じです。 物音ひとつしないし。

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菅野さんはその日も、検査などで病室を出たり入ったりしたんですが、 隣の人は昨日と同じようにピッタリ、とカーテンを閉めたままで、 動いた様子がないんです。

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菅野さんは、 『この人、知り合いとかがいなくて、寂しい人なんだなぁ』 そう思ったんですね。

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やがて夕食も済んで、見舞い客も帰っていったんです。 そして消灯になる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『さて、眠るか』 菅野さんは、すっかり眠りについていたんです。

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すると・・・ やはり夜中になると、カーテン越しに話し声が、ボソボソ、と聞こえてくるんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『あれぇ、いつの間に付き添いの人が来たんだろ？』 菅野さんの方が出入り口に近いところですから、 誰かが入ってくると、必ず気がつくわけですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『物音も気配もしなかったのに、おかしいなぁ？』 でも、隣からは確かに話し声がするんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『こんな真夜中に、いったい誰が来ているんだろ？』 菅野さん、妙に気になってきたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると、突然、話し声がピタッ、と止んだんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『あれぇ？』 するとふたたび、ゴホゴホッ、 と苦しそうな咳き込む声が聞こえてきたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

昨日と同じように、菅野さん、 「大丈夫ですか？　看護婦さんを呼びましょうか」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると隣からカーテン越しに、小声で、 「いや、結構です」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

昨日と同じような会話を交わした後に菅野さんも、 スーッ、と眠りについたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こうして検査入院している間、 毎晩深夜になると、話し声や咳き込む声がしていたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも菅野さんは、誰も自分の前を通って、 隣のカーテン越しの患者に会いに行く人を見ていないんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『いつの間にか来ているんだよなぁ、付き添いの人』 菅野さんは不思議に思いつつ、 ひとりで本なんか読んで過ごしていたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

３日目の夜も眠っていたら、 隣の人がまた苦しそうに、ゴホゴホッ、と咳き込むのが聞こえたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

菅野さんはまた目が覚めて、 「看護婦さん、呼びましょうか？」 すると隣からカーテン越しに、 「いや、結構ですから」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、３日も続けて話し声がしているから、 菅野さんも気になったんですね。 それで、隣に話しかけてみたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「夜中に誰か、お見えになったようですね」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると隣からカーテン越しに、 「あー、あの人ですか・・・」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「あれはねぇ、このベッドで亡くなった西田さんという人なんです」 「・・・時々ね、こうして顔を出してくれるんですよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『ええっ、この人何を言ってるんだ？』 急に気持ち悪くなって、それ以上話すのを止めたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

次の日に息子が来たので、菅野さんは声を潜めて、 「おい、隣の患者、どうもおかしいんだよ」