フォビドゥンフォレスト4話「大規模作戦・発動!」 #5 「望の帰還」

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羽田空港。16時。イギリス発の飛行機が空港に降り立ってから数分。到着ロビーのゲートでは到着客を迎える者たちがそれぞれに旗を掲げたり手を振るなどしている。12時間近いフライトと入国手続きを終えた者達が彼らに手を振り返すなどしながら、ゲートに向かっていく。 1

2017-03-29 21:48:11
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昼に学校を早退した西条佐祐里は、彼らの中からある一人を探そうとしていたが、中々見つからない。背伸びまでしてみるが、平日日中とは言え大荷物を抱えた群衆相手では焼け石に水だった。 「佐祐里、アレ引率の奴じゃないか?」 背中合わせに立つ日高桐葉が後ろ手の指でその人物を示す。 2

2017-03-29 21:59:54
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「みたいですね」 桐葉の指の先には、佐祐里と歳の近いと思われる英国人の少女がいた。彼女こそが二人の探す人物…という訳ではない。指されたことに気付いた少女は佐祐里達にウインクと微笑みを返すと、無言のままに十数メートル横の小柄な少年を指差した。彼こそが二人が探していた本命である。 3

2017-03-29 22:05:09
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少年は、腰の高さのキャリーバッグを押している。光沢のある黒に紫の曲線の入ったデザインのそれは、若者に人気のブランドから佐祐里が選んで買ったものだ。バッグと別に土産と思しき大きい紙袋も2つ肩に掛けている。常に前後左右を見回し、人に接触しないように慎重に進んでいる為、歩みは遅い。 4

2017-03-29 22:23:58
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「あっ!いました!望くん!」 彼…鳩寺望を見つけた佐祐里はブンブンと両手で赤い旗を振り回した。彼女の背後には、 『お帰りなさい!望くん 風見高校生徒会一同』 …という、ピンク地に白抜き文字の幕が張られ、床置きスタンドから延びるポールがそれを支えている。 5

2017-03-29 22:34:05
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声量も幕のサイズも周囲の邪魔にならない程度ではあるが、目立つことこの上ない。これを見た望は表情を硬直させ口だけをパクパクと開く。 「あっ気付いてくれましたね。熱烈な歓迎に声も出ないようです…! 「声が出ねぇのはぜってえそういう理由じゃねぇよ」 桐葉が容赦なく否定する。 6

2017-03-29 22:43:33
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旗を振り回す佐祐里の背後、彼女と背中合わせに立つ桐葉は幕の後ろで他人のふりを続ける。本当ならもっと距離を取りたいが、今はこれが精一杯だ。桐葉の名誉の為に弁護しておくと、一応佐祐里を止めたのだ。だが、自分まで旗を振らされないようにするのがやっとだった。 7

2017-03-29 22:52:18
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猛烈なテンションで盛大な歓迎を計画する佐祐里を止めるのは不可能だった。こういう時の彼女を止められる者は限られる。幼馴染の瑠梨がもう少し暇であれば説得を頼めたのだが、彼女もこの激動の一週間の煽りで巫女業とアイドル業、学業に皺寄せが来ており、とても頼める状態ではなかった。 8

2017-03-29 22:56:14
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このギリギリ空港職員に怒られないであろう範囲で最大限派手な歓迎に、望は青くなっていた。桐葉は彼がヒイていると判断したが、実の所それも違った。彼は完全に恐縮して縮こまっていたのだ。自分の為にここまでさせてしまって申し訳ない…と考えていたのだ。 9

2017-03-29 23:04:35
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ただこの状況が続けば「佐祐里が」晒し者になることは彼にも分かっていた。なので恐る恐る足を早めてゲートへ近付いた。 「お帰りなさい!望くん!」 佐祐里は背後の桐葉に旗を預けて、望に駆け寄ろうとしたが、(他人のふりを続けたい)桐葉は頑として受け取ろうとしない。 10

2017-03-29 23:16:37
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佐祐里はむくれると、仕方なく一度しゃがんで足元のバックに旗を差し、改めて望へと駆け寄った。それを見た望が凍り付く。反射的に後退りしかける足に力を込めてその場に縫い止める。望は口をあまり開けないままに静かに長く深呼吸をして、それから意を決して口を開いた。 11

2017-03-29 23:25:32
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「遅くなって申し訳ありません…ただいま戻りました。本当に申し訳ありません…」 望は俯いては顔を上げ、上げてはまた俯く。 「良く無事に戻ってくれました。お帰りなさい、望くん」 佐祐里は望をコートで包み込むようにして、しっかりと抱きしめる。望の顔が(あれば)胸に埋まる格好だ。 12

2017-03-30 20:19:10
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鳩寺望。中学3年生。半年前に隣町の村井で発見された強力な能力者である。魔術とは無縁の一般人の家に生まれながら、ある出来事をきっかけに強力な力に目覚めた。しかしながら能力の制御に問題があった為、今日まで英国に送られていた。風科の設備では彼の力に耐えられないと判断されたのだ。 13

2017-03-30 20:26:49
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英国のクロスロード大学には世界で唯一の仮想訓練設備がある。仮想空間に意識を投射することで、体力や魔力をほぼ消費せずに様々な環境下で訓練が出来る。当然命の危険もない理想的な訓練設備だ。極端な例で言えば、即死魔法や核爆発級の魔法なども制限無しで練習が出来る。 14

2017-03-30 20:30:20
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望の力は暴走すれば風科はおろか風見市すら丸ごと滅ぼしうると推測されていた。これを安全に鍛えられるのはクロスロードを置いて他に無い。とはいえ、普通の15歳の少年が、突然力に目覚めたばかりで数十日も海外で暮らすのは酷だ。本来なら誰かを同伴させたかったが、人的余裕が無かった。 15

2017-03-30 20:37:55
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「は、離して下さい!ふ、服が汚れます!」 「だーめーでーす。離しません……本当にお疲れ様でしたね」 望に無理をさせた申し訳無さと、約2ヶ月の修行を乗り切った尊敬を込めて頭を撫でる。 「手が汚れます!」 「綺麗じゃないですか?」 「…すみません」 「褒めてるんですよ?」 16

2017-03-30 20:51:04
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「それにしても自主的に予定を延長するなんて勉強熱心ですね、望くんは!でも出来れば一緒にお正月を…」 「す、すみません!」 望は後ろへ飛び離れると凄まじい勢いで土下座をした。床を頭突きで粉砕せんとしたかの如き速度が周囲に風を起こし、佐祐里のコートとマフラーがふわりと舞う。 17

2017-03-30 20:54:27
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「本当に!申し訳ありませんでした!色々とお金とかも掛かるのに!」 取りようによっては皮肉に聞こえたかも知れない佐祐里の言葉だが、勿論そんな意図はない。賞賛と労いの意味だったのだが、望は平謝りするばかりだ。 「頭を上げて下さい!」 佐祐里はしゃがみこんで望の顔を上げさせる。 18

2017-03-30 21:04:23
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「お、おい…鳩寺。お前…周り…その、なんだ。周り見ろ」 桐葉が珍しく狼狽した様子で望に促す。望は顔だけを起こした状態で、ゆっくりと周囲を見回す。人々の視線が彼らに集まっている。…土下座する中学生の少年と、その前に立つ女子高生は、彼らの目にどう映っているのだろうか? 19

2017-03-30 21:10:13
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望の顔から血の気が比喩でなく引いた。 (桐葉さん!) (いや、だってよ…) 佐祐里は小声で抗議したが、実際黙っていてもそのうち望も気付いただろう。むしろ、早めに指摘して目撃者を減らして傷を浅くするより仕方なかった。佐祐里はそう思い直すと急いで望を引っ張って起こす。 20

2017-03-30 21:19:13
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「すすすすみませっ…!?」 反射的に大声で謝りかけたのであろう望の唇に人差し指を触れさせて止める。 「とにかく」 指を放していたずらっぽく微笑む。 「まずは風科に帰りましょう?」 「は…はい…」 望は佐祐里に手を引かれ、大人しく立ち上がった。 21

2017-03-30 21:35:13
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周囲を警戒しながら見守っていた桐葉は溜息をつく。人目が集まっている。色々な意味で早めにここを去るべきだし、そうしたかった。その桐葉の横を引率役の少女が通っていき、去り際にウインクと共に投げキスをして来た。桐葉は避けた。少女は残念そうに微笑む。キスは佐祐里の後頭部に命中した。 22

2017-03-30 21:45:10
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彼女が真後ろの席に付き添っていたことを望は知らない。ただの護衛ではなく、望の力が万一「封印」を突破して暴走した際の「処置」を任されていたから、というのもあるが、望に余計な気を回させない為でもあった。自分の為に護衛を出させたと知ったら望は気に病みかねない。 23

2017-03-30 21:47:30