「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #5「地域会」

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まとめを更新しました。「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #4 「同級生」」 togetter.com/li/1070921

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「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #5「地域会」

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放課後。学校の会議室には２０人程の生徒が集まっていた。コの字型に並べた７台の長テーブルの向かいには、佐祐里と叶音の生徒会の３年生２人が座るテーブルが少し離して置いてある。その後ろにはホワイトボード。他の面子は概ね所属集団ごとにテーブルに分かれ、２人前後づつ座っている。 1

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所属集団と言っても、委員会や部活動ごとではない。たまたまそれらも同じ者達も少なくはないが、今日はこの風見市の各地域のにある魔術組織、その若手代表として来ている。殆どが高３で、１・２年は僅かだ。今日は元々、月一の地域会議の日取りではあったが、今回は月曜夜の事件が主題となる。 2

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この様な地域の集まりは大人同士の正式なものがちゃんとあるのだが、将来連帯する若手同士でも集まるのが慣例化していた。この学校自体、半数近くは彼ら魔術関係者である為、表向きは地域交流会の名目で集まる事が出来る。もっとも普段ならば名目と実態に大差がない懇親会の様なものなのだが…。 3

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「今回は皆さんのお力をお貸し頂いており、ありがとうございます。当面の危機は去りましたが、引き続きよろしくお願い致します」 参加メンバーが揃った所で佐祐里達が立ち上がり、深く頭を下げ謝辞を述べる。これも普段なら座ったまま軽い空気で始まる所だ。無理もない。大勢死人が出た後だ。 4

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「会議の前に黙祷をお願い致します」 「その前に、何人亡くなったの？」 佐祐里よりも背が頭半分低い少女が尋ねた。 「最低でも…２０名です」 「そう…」 まだ捜索途中というのもあるが、全身丸ごと溶かされるなど損壊の激しい遺体もあるということだ。少女は察して続きは聞かなかった。 5

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今回は風見市ばかりか県外も含めた広範囲から最低４０人以上の人間が秘密裏にバケグモの巣の中に拐われ、２０人以上が犠牲となった。一般人の一度の犠牲としては数十年ぶりの数だったが、それ以上の問題があった。どの様に被害者たちが拐われたのかが分からないのだ。 6

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攫ったのが、森の外の妖怪の仕業と仮定しても、最低一度は結界や監視を潜り抜ける必要がある。これらの関門は無敵とは言えないが、大勢の人間を一度にせよ別々にせよ、中に連れ込まれたことが分からない、というのは考えがたかった。最悪、事後の調査で通過の痕跡くらいは出る筈だ。 7

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黙祷とこれら状況説明の後、質疑が始まった。 「風科の両隣からの監視はどうなってたんだ、先輩？」 一番手の少年の出身は風科の南、高月地区…つまりこの学校もある市街地だ。 禁忌の森に一番広く接しているのはすぐ南の風科だが、東西も別の地区と接している。 8

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「私達、岩橋側にも侵入の形跡は無かったわ」 先程の少女が言う。岩橋は風科の西、スキー場などレジャー施設の多い高地で、森と禁忌とは岩山で隔てられておおり、滅多に妖怪が上がってくることはない。その分、異常があれば目立つ。 「不明者情報は調査中。でも今のところウチにはいなさそうね」 9

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「私達、村井側も異常ありませんでした。少なくとも住民は無事です」 村井は風科の東の農村で、森とは境川という河川で隔てられている。この川は妖怪を阻む強力な結界でもある。その為、岩橋には及ばないが、風科の居住区よりも妖怪の害は少ない。そして観光客など外の人間の来訪も少ない。 10

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報告を受けて一同は暫し黙り込む。森の周囲の三地区の結界に異常はなく、住民も無事らしい。後は外部からの訪問者だが、唯一観光客の多い岩橋はその管理にも注意しており、不明者を何人も見落とすとも考えがたい。これらの情報は朝までに相互確認してはいたが、進展もなかった様だ。 11

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「だよなぁ…でも…」 高月の少年が額を抑える。 「やっぱりですか？」 佐祐里が続きを促す。 「うん。やっぱりウチからは５・６人攫われてたわ…しかも最低３人はそっちで把握してなかったみたいだぜ」 佐祐里達僚勇会は生存者に出身などを聞き取っていたが、当然死人からは聞き取れない。 12

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◇お詫びと訂正：昨日の更新でこのような表現を使いましたが、正しくは「殆どが高３か高２で１年生は僅かしかいない」です。４月から３年になる現２年を主要メンバーに数え忘れておりました。大きな誤解を生む表現だったため訂正させて頂きます twitter.com/fbd_forest/sta…

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「フォビドゥンフォレスト３話「蝶舞の町内」 #5「地域会」　続き

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森の付近では被害がなく、離れた場所では被害が出ている。ならば外の妖怪の仕業と考えるのが自然だが、それでは何故、被害者が森の中のバケグモと共に見つかるのか。結界には異常が無かったというのに。謎は捜索の結果待ちかのように思われた。数秒か数十秒の間、一堂が無言になる。 13

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「つぅかよ。今日のメンツからして、そういうことなんだろ。妖怪担当さんよ」 呆れと苛立ちの混じった声を上げたのは菊地丈。岩橋のもう一人の代表で、体格の良い三年生だ。 「ちょっと丈」 小柄な相方、木下乃利子が雰囲気を悪くした丈を諌めるが、正面を向いたまま腕で制される。 14

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乃利子は小柄といっても標準より少し低い程度だが、相方が大きいせいで、大人が中学生を苛めている様な感がある。 「こんなもん、そこらの妖怪がやるわきゃねぇだろ。まわりくど過ぎんだよ」 丈は吐き捨てるように断言する。 「ま、そうだよな先輩。出来る出来ない以前にやる意味がないよな」 15

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妖怪には人間並みの知性を持つ者もいるが、基本的には人を食って強くなることにしか興味はない。バケグモか今回の新種が「主犯」だとすれば、被害の出方がおかしい。本来なら拐うにせよ誘き寄せたにせよ森の近辺に被害が集中する筈だ。狙う範囲を広げれば足はつきにくいが、効率が悪すぎる。 16

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「確かにそうですよね。妖怪達が人を狙う際には『その場の他の人間に』バレないようにすることはあっても、僚勇会などの討伐組織にバレないようにする、なんて戦略的なモノは滅多にいません」 風科の南西、西条地区の西条櫂が補足した。彼はこの場の最年長にして佐祐里の戸籍上の従兄である。 17

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正確にはこの青年は卒業生であり、普段は地域会には参加しない。今回は大人達が忙しいため、都合を調整して顧問代わりに来ているのだ。 「仮に新種が、そのような真似をしたのだとしたら…実際、我々はこうして混乱している訳ですし効果はありますが、燃費が悪過ぎますね」 18

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どんな手段だったにしろ獲物を集める為に使った魔力が、獲物から得られる分以上のを越えているのではないか？ということだ。常人にもある程度の魔力はあるが、被害者達のそれは平均程度だった。わざわざ広範囲から集めるメリットがない。僚勇会と周辺組織を混乱させられるくらいだ。 19

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「そして他の…外の妖怪が主犯だとしたら、そこまでして集めた人たちをバケグモにやってしまう理由が無いですよね」 長田真白。佐祐里のクラスメイトでもある、村井の代表だ。制服の上から羽織っているケープは、薄茶とクリーム色で首元に白いファーがある。 20