フューリー・ロード #2

五十鈴の車は本当にあります
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劉度 @arther456

熾烈なデッドヒートは、30分ほど続いた。遂に、相手の車がスピードを落とし始めた。逃げるのを諦めた、とは五十鈴は思わなかった。スピードを落としたといっても、80キロは出ている。今、彼女たちが走っている場所を考えると、十分速いと言わざるを得なかった。46

2017-04-17 21:45:01
劉度 @arther456

「不知火?」「ぜぇ、ぜぇ……」不知火は助手席のダッシュボードに寄りかかって、荒い息を吐いていた。「ごめん、やりすぎた」「問題、ありません……」「えっと、提督に電話するから、電話貸して」「不知火がやります」震える手で不知火は携帯電話を操作した。47

2017-04-17 21:48:02
劉度 @arther456

『もしもし?今どの辺にいる?』「東京、大田区です」窓の外には、焼け崩れたビルが乱立していた。かつて、日本の首都だった場所、東京は、深海棲艦の徹底的な爆撃により、街としての機能を完全に破壊された。それから10年経ったが、都市の復旧はおろか、瓦礫の撤去すらできていない。48

2017-04-17 21:51:03
劉度 @arther456

当然、道路の状態も悪く、スピードを出しすぎれば横転するか瓦礫に突っ込むだろう。一度見失えば、地上から追うことはできない。「提督、応援はまだですか?」《さっき出た。今、そっちのGPSの反応を追ってる。もう少し頑張ってくれ》「承知しました」49

2017-04-17 21:54:08
劉度 @arther456

車体が大きく揺れた。「五十鈴さん?」「わかってるわよ」五十鈴の表情は険しい。先程までのスピード勝負とは違う。コーナリングを少しでも間違えれば、死につながる。慎重、かつ大胆に相手を追わないといけない。そして、そうした走りでは、車の性能より運転手の腕の方が大きく影響する。50

2017-04-17 21:57:06
劉度 @arther456

じわじわと、五十鈴の車が引き離され始めた。直線に出れば追いつくことができるが、相手はそれを悟ってわざと障害物の多いルートを選んでいる。「不知火。銃の準備、して」五十鈴は負けを認めた。だが、春雨を攫うのは別の話だ。不知火は五十鈴の決意を汲み取って、銃を取り出した。51

2017-04-17 22:01:10
劉度 @arther456

その時である。「……五十鈴さん、妙に車が揺れてませんか?」「え?」言われてみると、確かに小刻みな振動が車を揺らしていた。どこか故障したのか、と思ったが、すぐにそれは違うと気付いた。五十鈴たちの後ろから"音"が近付いていた。走る車をも揺らす重低音が。52

2017-04-17 22:03:06
劉度 @arther456

車体を揺らし、内臓にも響く音は、近付くにつれてギターの音だと聞き取れるようになった。1台のバギーが、五十鈴のバンの横に並んだ。ボロボロのバギーを運転しているのは、肌を真っ白に塗ったスキンヘッドの青年だった。似たような改造車が、次々と五十鈴のバンに追いついてくる。53

2017-04-17 22:06:03
劉度 @arther456

五十鈴はバックミラーを見た。後方からボロボロの改造車群が追ってくる。どの車もトゲやドクロ、チェーンといった攻撃的な装飾を施している。中には巨大なスピーカーを積んだトラックもある。それらを率いているのは、異様な改造を施された大型トラックだった。54

2017-04-17 22:09:06
劉度 @arther456

本来の車体は取り払われ、代わりにキャデラックの車体が2台重ねで取り付けられている。他の車が軽自動車に見えるほどの巨体は、絶大な威圧感を見せつけていた。その神話めいたモンスタートラックを見た時、五十鈴は思い出した。大田区は彼ら武装暴力集団のテリトリーだということを。55

2017-04-17 22:12:07
劉度 @arther456

【フューリー・ロード】#2おわり#3へ続く

2017-04-17 22:13:03